第3話 入隊試験
山を歩き慣れていてなお且つ荒霊から優先的に狙われる自分と、自ら名乗り出た芦屋が前を歩き、男子組の後ろに女子2人が続くように歩く。
「荒霊が出たら頼んだぜ智慧。俺は術は使えても刀士遺としての技術はサッパリだからよ」
「本当か? 隠しても分かるぞ──制服の下に仕込んだ武器」
声を落として芦屋の言葉に異を唱えると、意外と言わんばかりの表情が返ってくる。
「……分かるのか?」
同じように声を落とす。
「ああ、形状までは分からないけど暗器とか小刀とかだろ。歩き方も足音を消す歩法だし、まず目配せが武芸者とかその手の人間の物だよ」
「うーん、まさか初対面の奴にバレるなんてなあ」
「とやかくは言わないし、詮索はしないよ。とりあえず荒霊が出てきたら俺が真っ先に突っ込むから、祝は陰陽道で助けてくれよな」
「おうよ、自慢の秘術を大盤振る舞いしてやるぜ」
他の人に言えない秘密というのは誰だって一つや二つは少なからずある、それを自らほじくり返すのは人としてよろしくない事である。
「まあ、後ろの2人の方が刀士遺としての技術で言えば俺より断然強いだろうし。俺が出る幕もないんだけどな」
「だな」
──後ろの女子2人の会話が否応なしに聞こえてくる。というか自分の耳が勝手に会話を拾ってしまう。
「──それじゃあ月島さんは遠路はるばる新都まで?」
「うん、片道2時間弱」
「うわあ、もし受かったら寮住まいじゃないと大変ね」
「元からそのつもりでいる。真澄は実家通い?」
「ううん、私も神那岐学園の寮を借りるかな。まあ受かったらの話だけど……」
「合格率50%は多分この試験が原因だと思う」
「だよね……普通の人なら式神に襲われた時点で脱落しているもの」
倒木を乗り越え、周囲に耳を傾ける。
「今聞くのも何だけど、月島さんはどうして刀士遺なんかに?」
「給金がいいから。それに刀士遺くらいしか適職がない」
「まあ、殉職率高い割に隊員の支給額は中々だものね」
「真澄はやっぱり実家の道場が理由?」
「うーん、それもあるけど。もう少し自分の見地を広げてみたい、っていうのもあるかな」
「私なんかより立派な理由。あと、さっきから髪の毛に隠れてモゾモゾしてるのはなに?」
おそらくモゾモゾしているのは白藤だろう……どうやって説明するのやら。
「えっ? ああこれ? ええと何ていったらいいのかしら……首巻き?」
『俺はお前のお洒落用品じゃねえよ!』
後ろから白藤の声が聞こえてくる。
横の祝が何事かと後ろを向き、思わず肩が脱力してしまう。
「えっ、ハクビシンが喋ってる……きもっ」
『んだと小娘! 三枚おろしにすっぞ!?』
普通の人なら人間以外の存在が人間の言葉を喋ったらそう反応するのが道理である。
「なんだなんだ?」
祝が立ち止まり白藤を見るや驚きの顔。
「真澄、この生き物なに?」
「えっ? ええと……その、私の伴獣……」
「なるほど、だから人語が喋れるの?」
「うん、口は悪いけど力はそんなに無いから安心して」
地面に降りた白藤を月島が屈み込んで見下ろす。
「ふうん、その姿だと……雷獣?」
『なっ、なんだよその好奇心旺盛な目は小娘』
「雷獣って伝承だとトウモロコシが好物だって聞くけど本当?」
白藤の小さな額を指で撫でる月島さん。
『日ノ本の人間が全員米好きだって言うのと同じくらい暴論だぞ』
「嘘言わないの」
白藤をむんずと掴むと肩に乗せる真澄さん。
「おお、本当に真澄さんは伴獣がいるんだな」
祝が女子組の会話にさらりと混じる。
「家の手伝いをしていると嫌でも荒霊や平霊と関わりが出来るからね。芦屋くんも私と似た環境じゃない?」
「いいや、ウチは使役式しか使わないんでね。祓った荒霊を使役するなら自分で呼んだ式神の方が融通が利くしな」
「なるほどね」
なにやら真澄さんは祝の家事情を知っているようである。
「真澄はいつからその小動物を飼ってるの」
『ペットじゃねえって言ってるだろ!』
「うーん……かれこれ6年くらいかな? もう長い間一緒にいるから忘れちゃった」
祝のわざとらしい口笛。
「小学生の時から荒霊を祓うなんて凄えな。そんじょそこらの刀士遣より長いんじゃないか?」
「時間だけはね。兄弟子や師匠に比べたら未熟だし、本職みたいな動きとはかけ離れてるわ」
口をへの字にして肩をすくめる真澄さん。
「ま、正式な刀士遣じゃないから伴獣じゃなくて憑き物扱いだけどね」
「まあなあ、刀士遣になって認められるもんな」
すると、何故かこちらを見る真澄さん。
「源くんも伴獣というか憑き物がいるわよね? やけに短い裾の着物を着た……」
祝と月島さんの注意がこっちに向けられる。
「なんだよ智慧、お前もか」
「見せて」
断れそうにない2人の興味津々具合。
「見ても何も楽しくないと思うんだけどな……」
「いやいや、刀士遣の大御所とも言える源氏の剣士が従えてる伴獣だぜ? 気にならない方が普通じゃねえって」
「まったく……美夜」
『──お呼びですか?』
目の前に音も無く現れる見慣れた姿。
「お、おお……?」
「額に角……」
珍しい動物を見るように2人が美夜を正面から見回す。
『な、なんですか……この童子達は』
若干引き気味な美夜が腕にしがみついてくる。
「まさか……その子は『鬼』なのか?」
「まあそうだけれど……」
「初めて見た」
──平霊や荒霊は千差万別と例えていい程、色々な外見をした奴がいる。
獣の姿のまま荒霊に成った奴、生前の姿を模して中身は違う奴、無機物に手や足が生えた珍妙な奴や、煙や靄の様に普通ではありえない身体をした奴──そして人間と遜色変わりない姿をした奴。
荒霊『鬼』
刀士遣が発足して間も無い頃の古の時代、最も数がおり人に様々な仇成した非常に危険と記録に残る荒霊の一種。
しかし、現代では表社会に滅多に姿を現さず、公的に残っている記録では十数年前に起きた『鬼門の大祓』が発生した有事のみ。
それ以来は表立って姿を表していなく、目にする事自体が非常に珍しく──それどころか存在していることすら怪しいと噂される荒霊である。
人間と同じ外見をし、せいぜい違うとすれば額から生える角や鋭い爪、尖った犬歯、垂直型の瞳孔くらいで、格好によってはほぼ人間とも言われる。
荒霊としての力は皆総じて高く、普通の刀士遣であれば──確実に殺される程のもの。
公的な記録では鬼を伴獣として従えていたの刀士遺は誰一人としていなかったらしく、現代の神禄時代でも鬼を従えている刀士遣は一人としていないとされている。
「陰陽師の祝なら見たことあるんじゃないのか?」
「いいや、本物を見るのは初めてだ。今日まではマジで伝承だけの存在だと思ってたぞ」
興味津々だが、どこか一歩引いたような、そんな距離感を感じるのは気のせいだろうか……
「だけどよ刀士遣の統括組織の『神籬』は鬼の伴獣なんて許すんかね?」
「ううん、前例を聞いたことがないわ。そもそも『鬼は人間に従わない』……源くん、本当にその女の子は鬼なの?」
「ああ、体質が原因で喰いに来た荒霊は皆口を揃えて言っていたよ『人に従うとは妖魔の恥め』ってね──まあ、全員祓ったけども」
実家の文献や鶫から大体の荒霊の事は教えられている。もちろん鬼の事もだ。
「荒霊が言うなら間違いなさそうね……て言うか意思疎通が出来る荒霊も祓った事があるの?」
「ああ、去年の春に2体と一昨年の冬に3体」
両肩脱臼、靭帯断裂、胸骨ヒビ割れの三連打のおかげで丸々一ヶ月療養になってしまったが。
「普通の奴ならにわかに信じ難いが、お前さんが言うと現実味があるな……」
「まあ終わったことだしなんでもいいだろ──それより、進まないと少しヤバそうだ」
太刀を引き抜き、祝が驚いた顔。
「おいおい突然どうしたよ」
「周囲に沢山いるぞ……多分さっきの狒々の群れだ」
動く音は聞こえない、山の木々が動く音に合わせて動く──獣の動きだ。
「……白藤」
『すまねえな奏、この山は何だか鼻が利かねえんだ』
どうやら真澄さんも周囲の異常に気付いたようである。
「一斉に飛びかかられたら……対処できなくはないが、皆の安全が保証できない。祝、陰陽道で対多数の術とかないのか?」
「あったら苦労しねえな。それに祓う力が強い術となるとそれを執り行うのに時間が居る、ゲームみたいに1ターンで最強呪文放てるわけじゃねえ」
「真澄さん、白藤の雷はどれくらいの範囲に降らせられる?」
「目視圏内ならどこでも、でも離れれば離れるほど制御がきかないわ」
見える範囲内……独楽よりは広いが襲ってくる狒々の数によっては対処しきれない可能性がある。
「……仕方がない」
突然、月島さんが槍の穂先を地面に突き刺す。
「つ、月島さん⁉」
「皆、目閉じて。いいと言うまで開けちゃだめ」
「おいおい、緊急時に目ぇ閉じるなんて自殺行為だぜ」
「死にたいならどうぞご勝手に。猶予は5秒、4、3、2──」
「祝、とにかく閉じた方が良さそうだぞ!」
「わーったよ!」
視界が暗くなる。山と木の匂いに混じって鼻を突くすえた獣の臭いが漂ってくる。
(やはり囲まれてたか……!)
暗闇の中で戦う術も叩き込まれた。もちろん目隠しした状態や頭にズタ袋を被せられた状態もあった。
──瞬間、体内の臓腑を鷲掴みにされたような、身体の底から震え上がってしまう程の嫌な感覚が体を襲う。
(なんだ⁉)
反射的に構えてしまう。
途端、周りから聞こえてくる木々の折れる大きな音、草むらをかき分ける音──そして、肉が引き千切られる不快な音。
一つ、二つ、三つ、四つ……途中から獣の悲鳴と木の倒れる音で数えるのが困難になってしまう。
「おい! これヤバくねえか……!?」
「それでも目を開けるな! 絶対に開けたら今以上に危険な事になる……!」
本能的に閉じた目蓋の向こうで繰り広げられている一方的な虐殺に身が竦んでしまう。
そして──ぱたりと物音が止み、風に揺れる木々の音だけが聞こえてくる。
「……もう目を開けても大丈夫。周囲にいた狒々は全員祓った」
言われるがまま目を開ける。
「──ちょっと周りがスッキリしたけど」
先程までとは景色が打って変わり。鬱蒼と生い茂っていた森はなりを潜め、周囲にあるのは暴風に晒されたような無残な森の跡地だった。
「何だこりゃ……一体どうなっているんだよ」
祝が口を引きつらせて周囲を見渡す。
「狒々は一体どこに……? 荒霊の気配が全くしないわ」
「分かるのかい?」
「ええ、白藤を伴獣にした時から何となく分かるようになったの。今では当たり前だけどね」
自分も同じように分かると言うことは美夜のお陰だろうか。
「ねえ月島さん。一体貴方は何をしたの?」
「ちょっと強力な助っ人を呼んだだけ。でも、狒々の群れのリーダーはまだ祓えていない」
月島さんの言葉に自分を含めた3人の顔色が変わる。
「13匹もいたのにか?」
祝が信じられないといった表情。
「うん、老齢の狒々はいなかった」
「それじゃあさっさと移動しねえとまた囲まれる訳か」
「それがいいでしょうね。さっきの月島さんの助っ人のおかげで山に滞留していた気が動いたから、ある程度は狒々や他の荒霊の気配が分かるわ。移動するなら今ね」
真澄さんの言葉を区切りに再び山の中を進み始める──全員が武器を抜いた警戒状態で。
『智慧』
美夜が横についてくる。
「なんだ?」
『先程の狒々共の一部始終ですが……私、見ておりました』
「何を見たんだ」
『黒い影です。あれは……恐らく牛鬼かと』
「牛鬼が? あの荒霊は水辺や川にしか出てこない筈じゃあ」
『その通りです。ですが、大蜘蛛の身体に牙の生えた牛面ときたら牛鬼しかおりません』
「どうやって現れたんだ?」
『それが……あの少女の影の中から突如として』
美夜の視線の先には月島さんが。
「……にわかには信じがたいな」
『私もです。ですが、水の中から這い出るように、あの娘の影から出て来たのです。その後は一方的な虐殺でした』
「……とにかく今は試験に集中したい。実際にさっきは助かったんだし、後で考えよう」
『智慧がそういうのであれば』
やがて、前方に見えてくるかなりの範囲に広がった岩場。
「ここの岩場を登ってちょいと歩けば着くぜ」
「迂回できそうな所は……無さそうね」
真澄さんが小さなため息を吐く。
「伴獣がいるならこんな段差ちょちょいのちょいじゃねえのかい?」
「まあね、でも普通に体力使うしそれなりに疲れるのよ?」
真澄さんが履いた靴の具合を確かめながら祝の言葉に答える。
「そう言う源くんはどう?」
「どうって?」
「伴獣の力を借りても限界はあるって事」
「ああ、力を借りなくても毎日山の中で走り回ってたから特には……」
「おお、山育ちみたいな発言だな」
「かろうじて電気が通ってた山奥育ちだからね」
岩肌を蹴って一足で登り、下に手を伸ばす。
「ほら、早く行かないと」
「だな」
意外にも身軽な祝が同じように岩を登り、月島さんを引き上げて次に真澄さんに手を伸ばす。
「ほら引き上げるよ」
「……別に一人でも登れるから」
普通の人間ではありえない跳躍力で岩の段差を自分より身軽に越える。
「それなら、自分が先に上を見てくるから月島さんと祝と一緒に登ってきてくれるかな? 目の前の岩棚から先に上へ行ってるから、皆は横の緩やかな方から登ってきてくれ」
「この岩棚って……ほぼ崖よ? 装具も無しに登るのは危険じゃあ──」
「大丈夫、荒霊に襲われて危なくなったら戻ってくる」
太刀を腰から背中に位置を変え、両手と腰を自由にさせると自分より大きな岩棚に手を掛ける。
「ちょっと源くん!」
「大丈夫だ!」
くぼみと岩の隙間に手と足を掛けて登る。
「美夜、すまないんだけど下の3人を見てもらえるか」
『私がですか? 嫌です』
「なんでまた」
『私が鬼だと分かった時の、あの童子達の目を見ていたでしょう? 恐ろしい物を見るような、恐怖に満ちた瞳を』
「……ああ、でも敵意は感じられなかったし。本当に危険だと感じたら真っ先に斬られているじゃないか」
『そうですが……』
「美夜の気持ちは分かるよ。だけれども、下の皆を守ってほしいんだ」
『はぁ……分かりました。私の判断で応戦しますから』
「ああ、なるべく周囲に被害は出さないようにね」
『善処します』
空中から美夜が現れ、崖の下へと落下してゆく。
「……さて、俺も頑張らないとな」
岩の亀裂に手を掛け、さらに崖を登る──
頭上から何か人影が降ってくる。
「うおっ⁉」
芦屋くんが驚きの声を上げて横に跳ぶと、音を立てて着地する──黒色の着物を身に着けた女の子。
『……皆様の護衛として参りました。近付く荒霊は私めが対処したしますので』
面倒臭いと言わんばかりの露骨な表情。
(源くんの鬼の女の子……)
「ええと、先に行った智慧からの指示かい?」
『はい、皆様方を守るようにと──まあ、鬼が人間に助力するなどの妄言など信じられないとは思いますが』
何とも皮肉った物言いなのだろうか。
「とにかく、源くんの応援も来てくれたのだし早く上まで行きましょう。こんな所で戦うのは避けたいわ」
「たしかに」
月島さんが岩を登りながら答えてくる。
「んだなあ、身軽さは狒々の方が勝ってるしまたさっきみたいに囲まれたら大変な事になっちまう」
そういう芦屋くんも身軽で、まるで軽業師のような身のこなし。
「白藤、狒々の臭いが濃くなったら教えて。気配は私の方で確認するから」
『へいへい』
念のため応戦しやすいように刀は抜いておく、岩を登るのは脚だけで十分だろう。
これが刀士遺になるための試験なら力の出し惜しみは不合格と──死に繋がる。
今までは道場の皆や指南役がいてくれた。だけど今は頼れる人達はいない、いるのは初めて合う見知らぬ人達なのだ。
タイミングが合うはずもない、剣の癖が分かる訳でもない……だから人の目なんて気にしている余裕はない。
──どこからか獣の甲高い雄叫びが響いてくる。
「狒々が出たみたいだな……!」
「群れなら合わせて襲ってくる可能性が──」
喉元を針先で突くような、小さく嫌な痛みが右側から襲ってくる──逃げるにはもう遅すぎる。
草むらから飛び出してくる大きな狒々。
芦屋くんが逃げるには間に合わない、自分の刃も届かない。
刀の柄を握りしめ、鋭く叫ぶ。
「白藤!」
『あいよ!』
身体中を白い雷が迸る。握った刀が──震え哭く。
神立『霆撃』
狒々の身体を袈裟斬りするように空を斬り──振るった剣線の軌道の延長線上に雷が飛ぶ。
空気を震わす雷鳴と眩い稲妻。
焼き焦げた狒々の死体が勢い殺されず、芦屋くんに飛んで行く。
「うおっ!?」
素早い身のこなしで地面に伏せて避ける芦屋くん。
「鬼のええと──」
『美夜です!』
次々と森から現れる大量の狒々。少なくとも10匹以上はいる。
「──美夜ちゃん、2人と一緒に上へ向かって! 狒々は私がなんとかするから!」
『馬鹿ですかお前は! 人間が狒々の群れに挑めるとでも!?』
「人間だけどどうにかするから言ってるのよ!」
月島さんに狒々が飛び掛かる。
『汚い手で触るな獣風情が!』
美夜ちゃんの鋭い蹴り。ボールの様に狒々の頭部が蹴り飛ばされ、後ろにいた別な狒々の顔面に当たるや巻き込んで下へと落ちてゆく。
「ああもう! 芦屋くん月島さん上まで逃げれる!?」
震える刃で狒々の腕を斬り飛ばし、横から迫る鋭い爪。
刀身で受け──刀に触れた狒々が感電して痙攣しながら地面に突っ伏す。
「出来なかねえけど、数が多すぎるなこりゃ!」
「……難しい」
お互いに背中合わせになった2人が狒々達を牽制しつつ叫んで返してくる。
「……美夜ちゃん!」
『なんですか小娘!?』
「貴女、源くんから私達3人を守るようにお願いされてるのよね!?」
『その通りです!』
「──なら、守る為に2人を上へ連れて行って! それなら問題ないでしょ!」
二連霆撃。2人に迫っていた狒々が焼き焦げながら、崖の下に落ちてゆく。
『……これだからいつの時代も女子供は嫌いなのです!』
苛立ち気に狒々の頭を蹴り潰し、目にも止まらぬ速さで2人を肩に担ぎ上げる美夜ちゃん。
「ちょっ!?」
『いいですか小娘! 私が戻って来るまで狒々共を斬っていなさい!』
語気を荒げた美夜ちゃんが、源くんや私より軽い身のこなしで岩場を登ってゆく。
追おうとした狒々目がけて霆撃を放ち足止め。
「お前達の相手はこっちよサル共!」
ざっと数えただけでも十数頭、この山を縄張りにしている狒々の群れが本腰いれて出て来たのだろう。
『絶対絶命だな奏』
肩に白藤が登ってくる。
「本当にね! でも、ここで私が食い殺されたら皆が危ないわ」
左半身前、右足を後ろへ。刃を寝かせるように構える──変則八相の構え、天國流『雷の構え』
新都で祓った荒霊と比べれば対処できない程ではないが、いかんせん数が多すぎる。
もしこの狒々共に負かされたら……考えただけでも背筋に嫌な汗が出てくる。
「この糞サル共……上等よ! 全員斬り殺してやるから!」
こちらの雄叫びに応じるように狒々の群れが襲い掛かってくる──
神禄剣鬼伝 No image @Picatrix20
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