9話 自分の家の鏡だと綺麗に映る訳

ぼくは、野良猫稼業をやめて、

ねじ巻き時計専門店に住み始めた、黒猫の九六九(クロック)


最近、ねじ巻き時計専門店の鏡が、ぼくにとても優しい。

なぜかって、ぼくがとても綺麗に見えるからだ。


綺麗な尻尾や黒い毛並と言い端正な顔立ちと言い、とってもぼく好みに映るんだ。


他の鏡ではこうは行かない。


「なぜ?」

ぼくは飼い主のねじ巻き時計店の店長に聞いた。

「そうだね~」

といつも寡黙な店長は呟くように言った。


でも、それから1時間以上も沈黙が続いたので、ぼくはあきらめて、散歩に出ることにしたんだ。


夜中に時計店に帰ると、店長はまだ店内の椅子に座っていた。

「ただいま」

ぼくの挨拶に店長は、

「それはね」


ん?さっきの話が続いているの?

話がずっと続いていたんだ。ぼくはちょっと驚いた。

一体、この店長の時間の感覚は、どうなってるんだろう。時計屋さんなのに。


「九六九(ぼくの事を店長はそう呼ぶ)が、この家の生き物だとこの家や家具に認めて貰えた証だと思うよ。家や家具ってね、家の者にはとても優しいんだ」

「そうなんだ」


店舗と住居が一緒になった商店街特有のこの家。

ぼくは家を見渡して、しあわせになった。



ありがとね

ぼくの家さん

家具さんよ


     九六九



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『ねじ巻き九六九(クロック)』 五木史人 @ituki-siso

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