第4話 我が家の成り立ち その2

初代が辿り着いたとき、王国はまだ畜産はおろか農作物の実りも豊かではなく貧困にあえぐ貧しい小国でした。その王国で初代……勇者一行は自分たちの持つ世界での教育で培った知識やチートと呼ばれる神々から授かった力を惜しげもなく使いました。同じ作物を作り続けて起きた連作障害、痩せた土地への肥料の頒布、農機具の提案と提供etc…。


王国は少しずつ豊かさを増していき、人々の顔に笑顔が生まれ始めました。この頃になると勇者たちも疲れ切っていた心に少しずつ潤いを取り戻し、消えない傷といつか元の世界に帰りたいという願いを胸に相応に愛を育くむ者も出てきました。守るものが出来た人の強さは計り知れないものです。


初代は王族の年頃の娘の一人にいつしか恋をしました。王族と言っても国が貧しかったため、王宮ではなく共に土に汚れながら作物を育て、時に笑い、時にぶつかりながら短くない時間を一緒に過ごした戦友です。本人はその恋心を隠していたつもりなのですが、その時のことを曽祖父が聞いたときには「周りにはバレバレだったんだよね…」と初代は苦笑いされていたそうです。肝心の姫君もまんざらではなく、なかなか進まない二人の仲に仲間達や姫君の侍女さん達はそれはもうやきもきしたとか。


さて……


もう大体の人が予想した通りです。この後、初代は王国を豊かにした功績で爵位を叙爵、王国貴族となり一番の問題だった身分の差の問題を解決しました。外堀を埋められたとも言います。彼の仲間たちは形式だけの臣下として家に入りました。これが我がグラッティ公爵家の始まりとなります。


そうそう。この話は近年、とても有名になりましたよ。『私』が少し名を変えて小説として発売したからです。何せ娯楽の少ない世界です。本といえば専門書か教科書、物語は小さな子供向けの絵本くらいしか存在していませんでした。勿論、ライトノベルなど有るはずもありません。またたく間に小説は売れに売れ、今度舞台になるそうです。また、本や舞台のチケットは我が商会の独占販売です。抜かりはありません。

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貴族のいじめの作法、骨の髄まで教えて差し上げますわ @zanei13

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