ハッピーエンド、あるいは喜劇

 とある青年の起こした殺人事件、その足跡を辿る弁護士のお話。
 上記の一文の他に、何も説明できる気がしません。例えばこの作品を誰かに紹介するにあたって、まずざっくりしたジャンル名からして思い浮かばないレベル。こういうお話、なんと呼べばいいのでしょう……例えば「なんだか翻訳ものの名作文学のよう」というのは、そりゃ「あくまでいち個人の感想」という意味では間違いではないのでしょうけれど、でもなんかいかにもアホっぽい感想で恥ずかしいというか。どうにも言いようがないです。そして言いようがないお話というものは、それだけでもう〝替えが効かない〟ということでもあったりして、つまり面白いので本当に困ります。どうしよう……。
 引き付けられたというのか、ぐいぐい引っ張られるみたいにして読みました。書かれているのはひとりの青年の小さな恋と、それが敗れた末の悲劇的な結末。すんごい雑な丸め方をするなら『ふられた腹いせに相手を刺しちゃうお話』なのですけれど、まあこう、すごい。何が? 迫力……というのもまた違うんですけど、人のありようというか心の置きどころというか、なんかぐいぐい持って行かれるんです。なんでしょう本当。とりあえず文章が達者で読みやすいのは間違いないんですけど。スルスル読めちゃう。しかも頭の中にしっかり残る。別段わかりやすい派手さがあるわけでもないのに、でもはっきりしていて強い文。
 お話の筋、というか書かれているものというか、明らかに響くものがあったのですけれど、正直言って言語化が非常に困難です。これはもう本格的な批評でもないと解体しきれないのではないか、という予感があって、つまり何もできないので震えています。それでも拙いなりに言語化を試みるのであれば、とどのつまりは『貧しさ』という語に収斂されるお話ではないかと、少なくとも自分はそのように読みました。
 青年ユルバックの狭い世界、その貧しい想像力。あまりにも拙い先走りの恋や、その落とし前をあんな形でつけるしかなかったこと。また冒頭の虚勢、死ぬ勇気にこだわるところや、それを簡単に覆してしまうところも。貧すればなんとやら、結び付近の展開なんかはもうまさにというか、いえだめですやっぱり全然違う気がしてきた。ていうか違う。こうじゃない、これじゃないんですよ自分の〝好き〟は。本当に言いようがないので、ただ本文を読んでくださいとしか言えません。
 凄かったです。何が凄かったのかすら説明できない。なんだか深く静かに圧倒されたような、ただとにかく強い物語でした。面白かったです!