少女の冒険はいつだってウサギの穴から始まる

 白ウサギに招かれ、突然訪れた『トビラの国』で、不思議な冒険に繰り出す『アリス』のお話。
 ファンタジーです。転生もの、と言っては語弊しかないのですけれど、でもおそらくはごく普通の少女が、急に異世界へといざなわれるところから始まる物語。タイトルからも明らかな通り、『不思議の国のアリス』をモチーフとしているようで、白ウサギに帽子屋、ハートの女王など、登場人物も共通しています。
 ふわふわと優しく、どこまでも柔らかい世界がとても魅力的でした。なんだか童話か児童書のような雰囲気。上記の通り本作は「冒険」の物語で、危険を顧みず問題解決に挑む展開もあるのですけれど、それでもなお優しく暖かな世界。負担になるようなネガティブなものが一切なくて、なんだか可愛らしい不思議生物たちがわちゃわちゃやっているような、そんな空気に癒されます。
 冒険というか、そこに至るまでの展開も含めて、主人公の心境の変遷も素敵でした。序盤はまったく状況が理解できず、ただ目の前の出来事に流されるばかりで、しかもそれらに対してどうしても消極的だった主人公。森を探検する段ではまだ不安の方が大きかったのが、しかし終盤、状況を解決できるのが自分以外にいないと知ると、勇気を持って自らそれに挑もうとする。まさに冒険のお話であり、だからこそのその後の幸せなパーティ、そのハッピーエンド感が浮き立つかのようでした。
 不思議の国のアリスになぞらえた世界での、ひとりの少女の小さな冒険。夢の中のような雰囲気を優しい手触りで描いた、ふわふわした心地よさの漂う物語でした。