第5話 額縁。

「先にシュウがいる。幻覚か?」


「ノー幻覚」


「いや、幻覚だ! ささっささあさああああさああああさわれるううううううううううううううううううううううううううううう!!!?」


「驚きすぎ」


 俺はゴキブリかよ。


 親友はクールオッサレー!にキメてきた。


 俺は駅前のベンチに腰かけている。


「眠気覚ましドリンクが46本ほど転がっている。ゴミ箱をひっくり返したのか?」


「俺が飲んだ。寝坊対策で今日は寝てない」


「狂気の沙汰だ」


 親友はため息をつく。


「さて、聞くけど」


「何?」


「気合い入れて女子とお出かけする理由は?」


「ない」


「はあ、追求ついきゅうはやめとく。面倒だし」


「そうしてくれ」


 お前と木夏の為だ、


 と言うのは野暮やぼだ。


 俺の勝手なおせっかいだし。


 それだけに、このダブルデートっぽい計画は成功させたい。


 俺は眠気覚ましドリンクを飲んだ。


「・・・おはようございます」


「おう」


「おはよう」


 ヒラヒラ可愛く着飾ったひいらぎ


「男子の競争率が高いだけある。何着ても似合うな」


「・・・褒めても何も出ないです」


「愛が欲しい」


「・・・一番出ないやつです」


ひいらぎってモテるの?」


引く手数多ひくてあまただ。でも、全部断るらしい」


「知らなかった」


「・・・はあ、だから春崎はるさき先輩はモテないんです」


「ここってモテないポイントなの!?」


 やれやれとひいらぎかぶりを振る。


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおははははははははははっははははははっははははっははよよよよよよよよおよよよおよyyっよおよっよよおっよよよよっよよyっよよよよよよよよよ」


 カチカチに緊張した木夏がロボットみたいに登場した。



「・・・」

「・・・」

「・・・」



 絶句ぜっくする。





 普段から可愛いが、私服姿の木夏は、言葉が出ないほど可愛いかった。




 ヤバい。


 心臓のドキドキが鳴り止まなかった。


 木夏は緊張でしおらしく、なおさら可愛い。



「・・・」

「・・・」

「・・・」

「・・・」




 木夏のあまりの可愛さに、


 沈黙した。




 親友は真っ赤になり、思考停止。


 ひいらぎは青白くなり、うつむいた。


 当の本人である木夏きなつは真っ白な頭で、落ち着かない。





 ちょっと待てちょっと待てちょっと待てちょっと待てちょっと待てちょっと待てちょっと待てちょっと待てちょっと待てちょっと待てちょっと待てちょっと待てちょっと待てちょっと待てちょっと待てちょっと待てちょっと待てちょっと待てちょっと待てちょっと待てちょっと待てちょっと待てちょっと待てちょっと待てちょっと待てちょっと待てちょっと待てちょっと待てちょっと待てちょっと待て!!!!!




 俺はこんな雰囲気を望んでいたんじゃない!!!!!!!




 木夏きなつが不安そうな眼差しを俺に向けた。




 そうじゃない!!!!!!!!!


 俺が見たかったのは!


 俺が望んだ物は!!




 こんな物じゃないんだ!!!!!!!!!!!!





 俺は木夏を見る。


 綺麗で可愛いく美しい。




 傷つくことを恐れるな。


 傷つけることを恐れるな。


 俺が本当に欲しいものは、その先にある。


 傷つくこと、傷つけることを恐れていたら、本当に欲しいものは手に入らない!




 木夏を見て思う。




 綺麗な物ほど、傷つけるのは、勇気がいる、と。




 そして、


 だがら、


 俺は普段通りにてっするッ!




 俺は口端を吊り上げ、


 空気を壊すように大声で笑う。




「プププ! 木夏、何その恰好かっこう! もうちょっとオシャレしてこいよ!」





「なっ!?」


 木夏は目のはしに涙を浮かべた。




 ・・・ブシュ。




 心から血が流れる。




「な、何よ! 春崎君に言われたくないわよ! みんなで遊びに行くのに、何着てきてるのよ!」


「ジャージ」


「アンタがオシャレして来なさいよ!」


「カッコいいだろ」


PTO場所・時・機会をわきまえた格好にしなさいよ!」


「してるだろ」


「そんなわけないでしょうがあああああああああ!!!」


 ガミガミガミガミ!


 駅を出入りする人たちに見られていた。


「見世物になってる。少し落ち着け」


 親友が仲裁ちゅうさいに入る。


「木夏さん、可愛いすぎ。綺麗で呼吸を忘れた」


「呼吸を忘れた!?」


 ひいらぎもフンと小さく気合を入れる。


「・・・後輩のひいらぎひいです」


「えっと、私は木夏きなです」


「・・・後輩です。ため口の方が助かります」


「わかった。よろしくね、ひいちゃん」


「・・・よろしくです」


 二人はニコリと笑った。


「シュウ、木夏さんにさっきの謝罪だ」


「ごめん」


汚名挽回おめいばんかいしたいなら、今日はしっかり案内しなさいよね」


「・・・汚名挽回です?」


汚名返上おめいへんじょうだろ」


名誉挽回めいよばんかいとも言うかな」


「うがあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!! あーもう細かいことはいいわ! 早く行きましょ!!!!」


「ククク!」


「・・・だから、春崎はるさき先輩はモテないんです」


「待て。ホスト主催者は俺だぞ。どこ行く気だ!?」


 俺は走って3人を追うのだった。





 そうだ。


 これでいい。


 みんなの距離が近くなればいい。





 胸がチクリと痛む。





 木夏を傷つけた。


 木夏に嫌われただろう。





 でも、


 俺は、


 こんな雰囲気を望んだんだ。






 俺はポケットに手を入れて、空を見上げた。






「みんなは絵画かいがで、俺は所詮しょせん額縁がくぶちだ」

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可愛いくて綺麗で頭が良くて運動神経が良くて病弱でお金持ちで幼馴染の子は、ホントは優しい。 ライトニングブロッカー 教 @takanosen

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