第5話 粛名
(…………)
「手伝い! お前の仕事はこれで終わり! おつかれ!」
(…………あ)
――しまった、魂を失っていた。
僕は何をしてたんだっけ――
――あぁ、運搬の手伝いだっけ。
全身の筋肉が悲鳴をあげていることに気づいた。
――ギルドの物資運搬手伝いクエストは、僕には過酷を極めたようだ。
運送用の馬車にひたすら荷物を積む作業。よくよく考えてみれば、どう考えても力仕事じゃないか。しかも運ぶのは討伐したモンスターも多い。
重い。めっちゃ重い。阿呆か僕は。なんでこんなクエストやろうと思ったんだ。二度とごめんだ。
そう思った矢先、それを許すまいと鬼は見逃さなかった。
「お疲れぇ、手伝い君ぅ。君は体力はないが仕事は的確だから明日も来てくれたりしないかなぁ――」
え、嫌です。無理です。見てくださいよ、このひょろひょろ。こんなもやし使っても何の料理もできませんよ。
――と、言えるほどの度胸もなく。
僕を睨みつけるその形相に僕の口は耐えかねたようで。はいと返してしまった。
くそ! 僕の弱虫!
「おう! 明日も待ってるぜぇ!」
その笑みを見るのも耐えかねん。早急に僕はすたすたと歩き去るのだった。
「あ! ルークさんっ! 大丈夫でし――」
ミリアちゃん。君を見ると少し心が休まるよ。
ただどうしてそん悲痛に満ちたような目を僕に向けているんだ。笑顔でいてくれ――
「これ―― 報酬です――」
「――はりはとう」
もう、帰ろう。報酬は貰ったんだ。昼食を買って宿に戻ろう――
いつもは暖かな優しい日差しが、今だけはとてつもなく暑苦しい。あぁ、どうか太陽よ、いまだけは僕を照らさないでくれ。
僕はそう思いながら日陰を歩く。
ぼんやり歩いていると突然隣の店から誰かが出てきて、とすっとぶつかった。
「すっ、すみませーん!」
慌てて謝罪し、慌ててどこかに走り去って行く。
この国は可愛い子が多いな。今の子もエメラルドグリーンの髪が綺麗な、ショートだ。
そんな事を思いながら足を進めようとしたら、何かを少し蹴ってしまった。
手帳か? さっきの子が落としてしまったのだろうか。
僕はすぐにあの子を追いかけるが、足が速く、今のひょろひょろの僕では追いつけようもないようだ。
――困ったな。
とりあえず同じ街にいるんだったらまた会うかもしれないし、どうせ明日も手伝いしなきゃいけないからここを通る訳だし、持っておくか。
名前とかだけ書いてないだろうか。手帳の裏を見てみる。
シータ・シェイラ
覚えとくか。
――ただの宿屋に帰還。
「お、お疲れ――って。大丈夫かいルーク。ほんとに疲れきってるね」
「まぁ、かろうじて」
僕が戻ったがすぐ、エイルはぎょっと驚いたように僕を見つめる、そんなにげっそりしてるのか。
カウンターに腰掛け、昼食に買ってきたジュースとサンドを頂くとしよう。
サンドを両手で掴み、思いっきり大口で頬張る。
「美味い!!」
やはりこのサンドは格別だ。まぁ森で気がついてからこれしか食べていないんだけど。
「ルーク、昨日もそれを買っていたね。そんなに気に入ったのかい?」
「もちろん! この味わいの芸術を食べずしていられないよ」
「僕も食べたことあるけど、僕の口には合わなかったな。でも1部の人にはすごい人気らしいね」
そんな談話をしつつ、僕はぺろっとサンドをたいらげ、ジュースを飲み干すのだ。
「んじゃ、ちょっとお風呂にでも行ってくるよ」
「いってらっしゃい」
今日は本来生活分の資金を稼ぐために5時間だけ受けるつもりだったが、あの鬼にさりげなく1時間多く働かされたのだ。
汗もかいたし、風呂に行ってみようと思う。
「へぇー、趣あるなぁ」
建物が大理石でできており、遺跡に近いようなお風呂屋だ。一目で分かるな。
早く入りたいので、ささっとお金をはらい、更衣室で服を脱ぎ、風呂場に来た。
「おぉ、色々あるな」
効能のある風呂や、水風呂。シャワーなんかもたくさん並んでいる。
とりあえず体を洗うか。
僕はクエストで汗をかきまくった体を念入りに洗う。
ここは冒険者がよく通うお風呂屋みたいだ、体格のいい人男がたくさんいる。
あ、でも可愛い女の子もいるな、あの子も冒険者なんだろうか。
僕はぼーっと辺りを見回す。
――あれ、おかしくね。
ここ男湯だよな。なんであんな子がいるんだ。でもなんか見たことあるな。
エメラルドグリーンのショート。
あ、昼間手帳落としたあの子じゃないか。
シータだっけ。
――え、男なの?
虚実のファントム 日ノ下 堕翼 @Icrus-rooT
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