第15話 アパルティ家にて

次の日──


僕は朝起きると目の前の様子に驚愕する。というか僕はこの状況でよく起きなかったなと少し感心してしまった位だ。


三つ巴に近い状態でプチ、ピクティルと蝙蝠みたいな漆黒の羽の生えたバニーガール風の服を着た女性……といっても小さいんだけどがバチバチと火花を散らし睨み合っているのだ。


そしてその脇には卵の殻……もとい割れたマジックボックスが落ちていた。これって後で使えるのかな?


え?ってことは1日早く割れちゃった?じゃあ……もしかしてあの蝙蝠みたいなバニーガール風の女性が卵の中に居た……次代の魔王?まじか!魔王誕生しちゃったの!?


僕がそんなことを考えていたらバニーガール風の女性が目を覚ましたことに気づいたみたいで僕の胸にぽふっと飛び込んでこう言った。


「まいますたー!あいつらがアタチを虐めるにょ……助けてにょ!」


──はて。マイマスター?ご主人様とかって意味かな?それにしてもプチたちがいじめなんてしないと思うけど……。


「もぅ!僕のあるじに馴れ馴れしくしないで!」


「それはワタクシのセリフで御座います!主様の体はワタクシの所有物です!」


さて。僕はいつからピクティルの所有物になったのだろうか。こいつら僕を物とでも思ってるのか?酷くない?


「いーーーだ!アタチのまいますたーだもーん!そんなのちらなぃもん!」


「「ぐぬぬぬぬ……」」


2人が歯をギリギリしながら僕の方を睨んでくる。寝起きに歯ぎしりの音はしんどいよ。お願いだからやめてくれないかな?


「かくなる上は……プチ…フ……アで……」


ちゃんと聞き取れなかったがプチファイアと言ったはずだ。決してメガフレアでは無い。断じて違うんだ。


「はっ!?そ、それは止めよ?僕も危ないから……」


「ちっ!」


プチくんの目が怖い。やだ。本当に肉食のドラゴンみたいな目じゃん。怖っ!僕はいつもの愛くるしいプチが好きなのに…。


「ではワタクシの回復Zで過剰回復させて昇天させてご覧に入れましょう。」


なんなの?この子も殺す気?やや…ちょい待って!まだ僕は話すらしてないのに気が早くない?どうでもいいけどさ?最近ピクティルってちょっとSっけがあるよね……。少し怖くなる時があるよ?


「ちょっと!みんな待って?僕ちゃんと話がしてみたいから。」


「うぅ……あるじがそう言うなら……。」


「むぅ……主様のご命令……従います。」


「うん。ありがとう。……ってえっと何って呼んだらいいのかな?」


「アタチまだ名前が無いにょー!まいますたーが付けてくれりゅ?」


……うっ……なんだこの子は……なんてあざと可愛いんだ。見た目は愛くるしく人形みたいな可愛さ。そして今は僕の胸の中に居る為に上目遣いとなって大きな目がより大きく見える。瞳孔が開きその中には朝日が差し込む。通常よりもキラキラして見える。出会ってすぐなのに完全に僕に懐いてくれてるみたいだ。プチやピクティルには嫌われてるみたいだけど……悪い子じゃないんじゃないか?


「うん……それじゃあ……キューちゃんってどうかな?見た目が蝙蝠っぽいしイメージは吸血鬼の頭文字とcuteから取ったんだけど…ダメ?」


──なっ!?妾の正体を1発で当てるとは……コヤツ見た目とは違ってやりおるな……?まぁ良い……今はコヤツの近くで力を蓄えて……いずれ世界を我が手中に収めてくれる……あは……きゃははははははははは


「……もしかしてダメ……だった?」


「う、ううん!キューね?可愛いにょ!よろしくにゃのー!」


少し舌っ足らずな話し方が可愛くエデンは既に懐柔されかけていた。しかしキューはそんなこと微塵も思っていなかった。


それから3日経った。


キューはみるみる大きくなりエデンより少し背の高い貧乳娘に育った。モデル体型でスラッとした黒髪の美少女。目つきは鋭く切れ長だが笑うと目じりが下がりかなり可愛い。それでいて舌っ足らずな所は相変わらずでギャップが凄い。


「ねぇねぇ。まいますたー?今日はどこにいくにょー?」


「今日はアパネスさんの家に行こうと思うんだけど……」


「わかったー!いこー?あるじー」

「了解しました。さぁ参りましょう。主様。」

「いこいこー!」


プチとピクティルがキューをキッと睨むが当の本人(キュー)は何処吹く風である。どうも新参者のキューが主人であるエデンより大きくなり更に昨日からやたらと腕を絡めたりとスキンシップが激しくなっていることに苛立ちを覚えているみたいだ。


そして4人?1人と3匹は道中揉めながらも無事アパネスの家に着いた。今回は治安の悪いスラム街を経由せず隠匿の結界が施された本来の入口。遠目に見るとただの巨大な空き地に見えるその場所へと赴く。この場所からの来訪には特殊な石を用いないと入ることが出来ない。僕は前に訪問した時にアパルティさんに貰ったものだ。


──コンコンコン


中からは誰も出てくる気配が無い。おかしいな──?みんなでかけてるのかな?でも…


ガチャ──


あれ?鍵が開いてる?も、もしかして……強盗!?そう考えた瞬間、僕の心臓の鼓動が早くなりその心音は耳の奥で聞こえてくる程激しく高鳴った。


──アパネスさんを助けなきゃ!その思いだけでエデン少年は危険を省みずアパネスの自宅へと入っていく。


ドサッ……


玄関から入った瞬間に変な物音が聞こえてきた。2階だろうか。上から聞こえてきた。矢張り何かいる?


僕は足音をたてないように慎重にかつ素早く移動した。2階へと続く階段を登っていく。


「……動くな。皆殺しにするぞ。」


突然耳元から奇怪な声が聞こえてくる。エデンはゾクリとする。まだ声の主がどこにいるのかすら分かってはいなかった。


「だ、誰?」


「誰だろと貴様には関係ない。言うことを聞け。死にたくなければな。」


──これは本当に強盗の類い?まずいな……。そう考えていた時が僕にもありました。


「回復Z回復Z回復Z回復Z回復Z……」


「ぎゃーーーーーー!」


ピクティルが回復Zをこれでもかと連発する。主人の危機と感じとり見境なく回復Zでゴリ押し。過剰回復はされ続けると脳細胞が破壊される。脳細胞を超絶速度で破壊し尽くす回復Z。もはや回復なのか破壊なのか怪しいとこだが当の本人はそんなことには微塵も興味ない様子で回復Zを更に連発している。


「や、やべぇてぐれぇぇぇぇぇーアビャャャビャヒャハハハハハァァー」


やがて回復Zの嵐は止み耳から大量の血液を流した男性が壁際から現れると直ぐに横たわる。脳が破壊され体の反射でビクンビクンと痙攣している様だった。


「あ、ピクティルありがとう。」


「いえ。当然の事をした迄で御座います。」


ぺこりとお辞儀をする大精霊のピクティル。その顔は凄く満足そうでしてやったり顔をしている。プチのプチファイアではやりすぎてしまうからと自重していたのかプチが少し不満げに頬をふくらませている。


「僕のフレアで消し飛ばしてあげよーか?」


「いや……それはちょっとやりすぎじゃない?」


「ファイア」


プチがそう言うと6つの小さな火の塊が廊下を駆け回っていく。そしてものすごい速度で飛んでいったと思えば何かに触れたのかヂュッと音がした。それから5つの音がした時には肉の焼けた臭いが周囲をつつみ始める。


「な、なに?この臭い…。」


「え?人の焼ける臭いだよ?あるじは気づかなかったの?この屋敷には暗殺者の類がいるみたいだよ。」


──全然気づかなかった……。斥候には割と自信あったのに……。


「それも仕方ないかも……ここには高位の阻害魔法がかけられているね。」


「元々かけられてた?」


「ううん。前に来た時はそんな感じしなかったから違うと思うよ。」


「そっか……。じゃあ誰が?」


「あ。みっけ。あっちにいるよあるじー」


プチは猛スピードで廊下を飛んで行くのだった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~


あまり反響も良くなさそうですのでお話はここまでで終了させていただきます。

ご覧頂きありがとうございました。


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勇者のたまご たまごちゃん @tama-gon0310

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