文化の再生

 あの星を脱したワレはワレらの仲間がいる最寄りの星へと帰還した。本当はワレらのふるさとに帰りたかったが、ここから610光年もあるというのだから仕方ない。だがしかし、この体験はすぐにでも誰かに伝えたいという思いが強かった。そう思っていると、元同僚が仕事でここまで来ているというのだからちょうどいい。ワレは飲みに誘った。

「こんなに背の高い宇宙人がいたのだ。それはもう高層ビルに並ぶほどの高さで……! 間違いなく、地球の……いや、この銀河系の中では最大の生物が……!」

「その巨体を持ちながら、いつも本を読んで、ガーデニングまでしてる? 冗談にしても、少しはありそうな話をしてくれよな」


 フランス人の元同僚は最近日本語を覚えたらしく、システムを介せずに流ちょうな日本語でワレの武勇伝にケチをつけた。最近女ができたらしく、その話ばかりでワレの話には聞く耳を持たなかった。

「ワレはこれ以上ないくらい真剣に話している」

「というかさ、今気づいたんだけどな、その一人称は止めた方がいいと思うぞ。なんだか海晴かいせいの方がさっき話してた宇宙人みたいじゃないか」

「一人称は個人のアイデンティティなのだ。気軽に変えられるものではない」

「はいはい、分かったよ」


 彼を分からせてやるにはどうしたらいいか考えていると、あの花が思い浮かんだ。船内に回収した物体は画像データが残っているはずだ。ワレはすかさず彼にデータを送る。

「綺麗な花だろう? ヴェファラテスという花だ。あの星の高山地帯に生えている」

「これが? 地球にも似たような花があった気がするが」

「そうかもしれないな。だが、この花には言葉が付けられている。『強く生きる』という唯一無二の言葉だ。だから、似ている花があったとしても根本から違う」

「なんだ、花言葉か。お前は知らんだろうが、数百年前には地球にも存在していた文化だよ」

「何だと?」

「そうか、なるほど花言葉か。……嘘にしては、どこか変なまとまりがあるな、お前の話」


 彼は妙に納得したような顔をして、ジョッキの酒を一気にあおった。


「案外、そういう星もあるのかもしれないな」

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ガーデニングを楽しんでいたら空から宇宙船が落ちてきた件 河童 @kappakappakappa

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