第35話 そして異世界の王都へ…


 音楽祭から二週間が経過した。


 古ぼけた一軒家――平等院家の居間で、鞠江が一人、パソコンを見て口角を上げている。悪巧みが成功した少年のような笑みであった。


「フォロワーが増えているわね。順調順調、ホッホッホッホッ!」


 ネットに強いイケてるばあちゃん、鞠江のチャンネルも好調だ。


「失った平等院の家を取り返すには、マネタイズを効率的にしないとねぇ……」


 彼女の頭には裏切り者の夏月院からすべてを奪い返すという、壮大な計画があった。


「あの人がこっちに帰ってきてくれたら話はもっと早いんだけどね……澪亜に探してきてもらおうかしら?」


 ぽつりとつぶやき、鞠江は世渡りの鏡がある二階を見上げた。



      ◯




 その頃、澪亜は異世界に来ていた。


『聖なる街道(セントグレイス)作戦』は順調に進んでおり、王都まであと三分の一の距離まで近づいていた。


(田中さんはあれ以来学校をお休みしていますが……何かあったのでしょうか?)


 純子は二週間近く学校を休んでいて、クラスメイトたちも少し気にしているようであった。教室が平和なのはありがたいが、あれだけ目立つ存在が長期休みとなると、変な噂も流れるというものだ。


「きゅう!」


 ウサちゃんの注意喚起で我に返り、聖魔法を行使した。


(いけない。集中しないと)


「連続結界――遠隔治癒!」


 ライヒニックの杖を振ると、ヒカリダマが意思に従って飛んでいく。


 冒険者たちがあっさりと魔物を退治し、澪亜は構えていた杖を下ろして、浄化のトーチに聖魔法を込めた。


 魔物との戦闘にもだいぶ慣れてきたものだ。

 最初はあれだけ怖がっていた異形の姿も、今では何も感じない。


(うーん……レベルが上がったおかげなのかな? なんだか麻痺してきているような気もするけど……)


「きゅう。きゅうきゅきゅう」


 あまり気にしないほうがいいんじゃない? とウサちゃんが小首をかしげる。


「あら、まあ、そうですね」


 澪亜は跳んだウサちゃんをキャッチして、腕に抱いてもふもふと撫でた。

 ついでにお腹に顔を埋める。


「お日さまの匂いがします〜」


 ウサちゃんはくすぐったいと抗議をするが、満更でもない様子だ。


「レイア〜」

「レイア!」


 そんな仲の良い聖女と聖獣を見つけたゼファーとフォルテが、あわてた様子で駆け寄ってきた。


「お二人とも、無事で何よりです」


 Sランク冒険者である二人は王都とララマリア神殿を行き来している。

 ついこの前、一度王都に戻ると言ってから、一週間が経過していたのだ。


「レイア、元気そうでよかった」


 フォルテがレイアに抱きつく。


 彼女は割とスキンシップが多めなので、躊躇なく抱きとめた。エルフはみんなそうなのかな、と澪亜は頭の片隅で思う。


「フォルテ、お疲れ様です。王都はいかがでしたか?」

「おいフォルテ、重要な話があるんだからさっさと離れろ。ウサちゃんを潰すなよ」


 後ろにいるゼファーがフォルテの襟首をつかんで、澪亜から引っ剥がした。

 板挟みになったウサちゃんが「別に平気だよ」と鳴いている。


 フォルテはゼファーへじっとりした視線を向けた。


「ちょっと何するのよ! せっかくの感動の再会なのにぃ」

「おまえは澪亜に抱きつきたいだけだろうが。いい匂いがするぅ〜、とかこの前宿屋でだらしない顔で言って――」

「ああ! ああ! 余計なことは言わない約束でしょう!」

「ちょっ――息をするように裏拳をしないでくれませんかね?!」


 ゼファーが間一髪でフォルテの拳を避けた。

 いつも変わらない二人のやり取りに澪亜はくすくすと笑った。


「それでお二人とも。何か私にお話があるのですか?」


 その問いに、ゼファーが「そうなんだよ」と一歩前に出た。


「前に話した神官の話、覚えてるか?」

「神官……まさか、譲二おじいさまですか?!」


 思わぬ人物の話題に声が大きくなってしまう。

 失礼いたしましたと澪亜は口元を右手で隠し、ゼファーを見つめた。


「神官ジョージが王都に戻ったんだよ! それでさ、レイアの話をしたら――」


 そこまでゼファーが言うと、フォルテがぐいと彼を横に押しやった。


「レイアの話をしたらね、孫に会いたいって! 彼、王都で待っているわよ!」

「まあ! まあ!」


 嬉しさのあまり口を押さえる。


(おじいさまと会えるなんて……まるで夢みたい……!)


 祖父譲二は爆発事故で死んだことになっており、鞠江から話を聞くまで他界したと思っていた。


 実は異世界の住人であり、財産を息子に相続するため死亡を偽装し、異世界に渡ったという経緯がある。


「レイア、準備をして一緒に王都に行きましょう。神官ジョージは特別な聖句を集める旅に出ていたの。きっとあなたの役に立つ聖魔法を教えてくれるわ」


 フォルテが大きな瞳に力を込め、祈るようにして澪亜の両手を握った。


「俺からも頼む。一緒に王都に行こうぜ!」


 ゼファーが凛々しい顔つきで、剣士らしくドンと右手で自分の胸を叩いた。

 澪亜は悩むことなく、しっかりと二人にうなずいてみせた。


「行きましょう。ちょうど明日から土曜日です。もし二日で戻ってこられなければ、学校は休みます」

「きゅう!」


 ウサちゃんが「行くで!」と前足を上げた。


(おじいさまと会える……!)


 澪亜は幼い頃の記憶に残っている優しかった譲二の顔を思い出し、父と母、鞠江と譲二のいた平等院家を懐かしんで空を見上げた。悩みのない、幸せだった記憶は、いつの間にかセピア色に変わってしまったように感じる。


 それでも、大切な記憶だ。

 あのとき家族の愛をもらったから、今の自分がいるのだと強く思う。


「案内、どうかよろしくお願いいたします」


 フォルテの細い手を握り返し、澪亜は力強い視線を二人に送った。







 第2章 おわり


―――――――――――――


 これにて第2章は終わりとなります!

 ここまでお付き合いいただき誠にありがとうございました。

 続きはプロットと時間ができてから、書きたいと思います。


 更新再開する際は近況ノートでご報告いたしますので、何卒よろしくお願いいたしますm(_ _)m


 好評な漫画版もよろしくお願いいたします(*^^*)

 ウサちゃんが可愛いです。

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異世界で聖女になった私、現実世界でも聖女チートで完全勝利! 四葉夕卜 @yutoyotsuba

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