第4話 京都?到着!


 そして京都に行くことを伝えられた日は普段以上に気合を入れて仕事を終わらせ、爆速で帰宅した俺は夏場だけ京都に行くことをカレンに話て『一緒に行くか?』と聞いた。


「う~ん……行きたいけど、京都は完全に私は場違いって感じなのよね」


「別に教会に行くわけでもないし気にしなくてもよくないか?」


「そういう宗教的な事ではなくて、単純に外国の怪異の吸血鬼が日本の妖怪たちの本場に行くのは…ね?」


「う~ん…言われてみればそうか」


 確かに京の都とか言われる時代から妖怪伝説も豊富な京都周辺は妖怪の本場とも言える。それに妖怪が多かったこともあって現存する陰陽師が一番多いのも京都だったりするしな。

 改めてこう考えてみると、確かに吸血鬼にとっては完全にアウェイと言っていい。


「なら、今回は留守番しておくか?」


「そうさせてもらうことにするわ。今年の夏は1人好きに過ごさせてもらうわね。羨ましい?」


「…かなり」


 ちょっと煽られたが仕事なのでしかたがない。

 実際問題として俺1人増えたところで問題解決に大きく影響があるわけではないけど、自分で言うのもなんだけど全体の被害を5%くらいは抑制できるかもって言う程度だ。

 こう言うと凄そうだけど俺のやる対処法は力尽くだから効率と言う点でよくないし、相手によっては俺が周囲に被害を出してしまう。


 つまりは被害を出さないために来たはずが、そのせいで余計に被害が出てしまうっていう本末転倒になってしまう可能性が高いんだよ。

 その事を茨木のオッサンはもちろん、を知っている者達は把握しているはずなんだ。


 なのに俺を人も多い京都に呼んだってことは『呼び出した相手がかなりのお偉いさん』か『周囲への被害を考えても必要なほどの脅威』があるってことだ。


「あぁ……どっちにしろ面倒だな…」


 結局は面倒事なのには違いないので俺の気分は急降下だ。

 とは言っても今更、派遣場所を変える事ができるはずもないから諦めるしかないんだけどな。


 そんなこんなで憂鬱すぎて睡眠はさほどとれていないまま派遣される日になった。


「じゃ、相手方の対処とかは任せるぞ。先に言っておくが力業は厳禁だからな?」


「ちっ…わかりましたよ」


「納得できてねぇのは分かるが態度に出しすぎだバカ」


 呆れ顔の茨木のオッサンの小言を全力で無視して、さっさと俺は転送陣を起動して京都へ向かう。

 本来は国家間、または国内もだが個人の移動に転送陣の使用は認められていない。理由は単純で移動が用意だと犯罪者の逃亡や密輸の増加が懸念されたのだ。


 実際に荷物の運送に使われていた時期もあったが輸送時間が極端に短縮されるために、違法に食料品や医療品などの劣化しやすい物の密輸が増えてしまい。

 違法物摘発のための魔法を使える人員と機材を全世界規模で準備しなくてはならず、そのためには莫大な予算が必要だったがなら従来の方が安上がりだという結論になったのだ。


 機材だけなら無理ではなかったが、魔法技術を使える者を用意するのは大国であろうと無理だった。なにせマギルティアによって超常が公開された世界でも、基本的に魔法使いなどは秘密主義者が多く見つける事が困難だった。

 更に見つけても納得のいく交渉が出来なければ断ったうえで何処かへ完全に消えてしまう。


 と言った事情から、管理などが難しいとして転送陣などの使用は公的理由がなければ全面禁止になった。


「あっつい‼日本暑い‼」


 地上に降りるのは久しぶりだったけど無駄に暑くて辛い。

 今居るのは京都の支部の正面入り口だ。転送先は支部の中だけど、すでに行先の決まっている俺は迎えが来ている!と強制的に冷房の効いた天国から、灼熱の屋外と言う地獄に放り出された。

 しかも…


「迎えいねぇしっ⁉」


 どこにも言われた迎えとやらの姿がない。

 どこかに隠れているのかと周囲を探索魔術やらで探ったが、それにも反応はなしだ。つまりは周囲になにかが隠れているという事はない、という事は心当たりは一つだけだった。


「はぁ……」『札術:入門』


 なんとなく予感はしていたので用意してきていた札を用いて術を行使する。

 取り出した4枚の札が四方に広がり霊的線で繋がり、その中央が歪み門を形成するのが今回使った術だ。

 もっと言えば門の先はに繋がっている。


 少し面倒に思いながら、以前来た時も同じ状況があったので少し苛立ちながら門を潜る。


「やぁ~ぱっりぃ!君ならぁ、気が付くと思ったよぉ」


 そして門の先では独特で変なしゃべり方の三本足の烏『八咫烏』が居た。


「何が『やっぱり』だ‼裏世界で待ってるのは迎えとは言わないって、何度言えば理解しやがるお前達は⁉」


 ただでさえ来たくなかったというのにくだらない遊びに付き合わされ、我慢の限界を超えて気が付いた時には怒鳴り声を上げていた。目の前の八咫烏に怒鳴っても仕方がないのは知っているがむかついてしまったものは仕方ない。

 ついでに脅しの意味も含めて声に魔力を込めておいた。

 声に魔力を込めると自分の感情をより強く相手に伝える事ができるのだけど、こういう怒りとかだと音の壁に叩きつけられたような感覚になる。


 一度マジギレした茨木のオッサンのを食らったことがあるけど冗談ではなく、声で俺は10m後方に吹き飛ばされた。しかも周囲も巻き込んでちょっとした台風が通り過ぎた後みたいになっていた。

 でも最大の利点は音に魔力を乗せるから、電話なんかを通じて遠隔でも一定の効果がある事だ。


 そして現在、俺の目の前には自然災害ほどではないがちょっとした強風が吹いた程度には荒れていた。

 さっきまでは上機嫌だった八咫烏も今は地面に落ちて、衝撃でピクピクとして…


「あれ?これって……やりすぎた??」


 慌てて周囲を確認すると同じように見物に集まっていた無数の妖怪が気絶して倒れていた。もちろん全員ではないが力の弱い多くの妖怪が倒れ、それ以外でも力の限り堪えたのか疲れ切っているようだった。

 つまり完全にやりすぎた。


「やっべ⁉」『札術・陣:小治の雨』


 用意していた札を使って急いで広域に回復の術を行使する。 

 これは俺を中心に4枚の札を張って陣を敷くことで治癒効果の霧雨を発生させる術だ。発動すると同時に周囲で完全に伸びていた妖怪達が少しずつ意識を取り戻していった。

 唯一、一番近くで衝撃を受けた八咫烏を除いてだけどな。


「ふぅ…一先ずは良いとして、道案内するはずの奴が使い物にならなくなってしまったな~どうしよう?」


「どうもしなくて構いませんよ。私共が引き継ぎますので」


「ま、そりゃ別の案内もいるか」


 声のした方を振り向いて、そこに居た相手を見て俺は納得した。

 白い着物に白い肌、そして白い髪に冷気を放つ日本古来の妖怪『雪女』と呼ばれる者が2名立っていた。彼女たちの周囲では自然に放たれる冷気によって治癒の雨が凍ってキラキラと光って少し綺麗だった。

 でも見惚れたりするような時間はないし、そんな状況でもない。


「せっかく来ていただいたお客様に対してご無礼を働いたようで」


「いえいえ!こちらこそ感情的になってやりすぎてしまって」


 お互いに最初にしたのは謝罪だった。

 これから一緒に仕事、しかも戦闘を共にするかもしれない相手と変に問題を残してもいい事はないからな。ちゃんと謝罪をすると本題へと移る。


「それで今回は何処に向かえばいいんですかね?」


「まずは我らの本拠にて主様ぬしさまとお話をとのことです」


「あぁ…わかりました」


 話を聞いて俺は渋い反応をしてしまったと思う。だが苦手なんだよ京都の特に妖怪の代表者の奴とは、なんというか相性が良くないんだよな。

 今更になって拒否なんてできないから案内に従ってついて行くけどな。

 ちなみに落ちていた八咫烏は喋っていないもう一人の雪女が回収して持ってきている。


 そして現代になってもよく分からないけど江戸や幕末なんかの頃の街並みのままの裏京都。そんな街並みを堪能しながら奥に進むと奥に大きな城のような建物が見えてくる。


「何度見ても無駄に荘厳だな」


 ここはマギルティア日本支部として使っているが、元々は日本妖怪の総本山になっていた場所だ。ようするに日本妖怪界での国会議事堂のような物だ。

 城の中で妖怪たちは人間と妖怪の付き合い方や、妖怪達の為のルールを作っていた。つまり中には日本中を代表するような有名な妖怪が無数に居る。


 茨木のオッサンと同レベルの奴も多くて城に近づくにつれて空気の圧のような物が増してくる。


「あぁ~鬱陶しい…」


「すみません。皆、貴方様の事を知っておりますので一目見たいようです」


「いや、ま…別にいいんだけど…」


 そうは言ったが城に入ってから感じるようになった無数の探るような視線、不快でしかない。排除するために魔力を放ちたくなる衝動を必死に堪えながら最奥まで進み続ける。


「では、私はここで…」


 最奥の他の部屋と比べて一段と豪華なふすまの部屋に着くと、案内してくれた雪女は短く挨拶をして去って行った。

 そして完全に1人になった俺に向けられる視線はより露骨な物に変わった。姿は見えないが確かに見てきている存在にいい加減に我慢の限界だ。

 ずっと見てきていた者達は能力や呪術などによるものがほとんど、なら対処は難しい事ではない。


 部屋に入る前にちょっとした掃除でもするとしよう。


「……」『呪詛返し・斬』


『『『『『『グァァァッ⁉』』』』』』


 どこからか複数の絶叫が聞こえてくる。

 今回使ったのは通常の呪詛返しに俺なりにアレンジを加えた攻性の防御術だ。普通の呪詛返しは効果そのままで術者に返すだけの技で、今回のような覗き見の術を返しても相手の姿を見る事が出来るだけだ。

 そこに俺のオリジナルだと覗き見や盗聴の術を返したうえで、込めた呪力や魔力に応じた威力の斬撃を叩き込むようにできている。


 ちなみに込めたのは魔力で量としては50階建てのビルを半壊させられるくらいだな。そうでもしないと今回の覗き犯共には大したダメージが入らないだろうからな。

 これでも10分もしないで大半の奴は回復するだろうけど、しばらくは警戒して覗き見はしてこないだろう。


 中には完全に防がれた反応も確認しているけど、そいつらはどうしようもないから諦めるしかない。


「ふぅ…よし!」


『早く入ってきな。もう待ちくたびれたよ』


「⁉」


 気持ちを落ち着けて部屋に入ろうとすると中から扉越しとは思えないほど澄んだ声がハッキリと聞こえた。同時に今まで以上に強く中からの圧力が増して押しつぶされるように感じて息を呑む。

 でも、こんな事で一々動揺してられるか‼


「失礼しますよ!」


 自分の体を魔力で保護して力を受け流し、気合を入れ直して部屋の中へと一歩踏み出した。

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召喚規則!強制召喚は禁止です‼ ナイム @goahiodeh7283hs

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