第3話 夏の始まり!


『昨今は温暖化も解決に向かってきてはいますが、皆さんも夏休みだからと言って遊びに行った先の自然を汚さぬよう…』


 と言った感じに無駄に長々と真面目な話をしているのはドライアドで俺達の通っている学校の校長だ。見た目は20代と言われても疑う者はいないだろう程に綺麗な男性だ。

 新緑の葉が連なっていて髪のようになっているのがドライアドなど自然由来の種族の証明になっている。


 ただ植物など由来の種族達は、同類とも言える自然を過度に大切にする傾向が強くて校長も同じだった。そのために自然がいかに大切か、どのように自然と付き合っていけばいいのかを長々と話し続けた。

 途中から生徒だけでなく教師の中にも眠りかけている者が出てくるほどに長かった。


 おかげで終業式が終わった時には生徒も教師も全員が疲れ切っていて、最後のホームルームは味気ないほど静かに過ぎて終わると同時に各々仲のいい友達と帰って行った。

 そして俺と翡翠は今日も今日とてバイトのために中央管理局へと向かっていた。


「やっと終わった~!」


「本当に…やっと、って感じね…」


「あの校長、マジで話し長すぎるんだよなぁ」


 すでに俺達も2年生になって校長の話を聞くのは6~7回は聞いたが慣れる事がなく、移動しながらもくたびれていた。なにせ本当に話の内容が濃いのも相まって、普通に聞く以上に疲れるのだ。


「しかもあの人、、生徒達が嫌がって聞いてないの承知で話してるから質が悪い」


「半ば嫌がらせでやっているでしょうしね。この時期になると1週間前から現行用意しているって話よ」


「そうなのか…って、どこでそんな話し入れてるんだ?」


「森谷先生に前に愚痴に付き合わされた時に教えてもらったのよ」


「あの人も口が軽いな~と言うか校長は暇なのか?他にもやることあるだろうに…」


 前から長いとは思っていたけど1週間も掛けて内容を考えていたとは思わなかったが、それを愚痴ついでにポロッと話す森谷先生もどうかとは思うがな。

 きっと校長も話されたくはなかっただろうに、哀れだ。


「にしても、暑いな~」


「仕方ないでしょ、ここは空の上って言っても気候は地上と同じになってるんだから。むしろ、地上ではこれ以上に暑い日もあるらしいんだから」


「そうはいっても暑いものは暑いからな」


 そう言って空を見上げれば嫌なほどいい天気の空が広がっているわけだが、この空と街の間には魔術的なフィルターのようなものが張られていて気圧・温度・湿度が地上と同じになるように完全管理されている。

 唯一の違いと言えば紫外線なんかが地上よりも健康に考慮された値で固定されている。ちなみに夏になると日焼けしたいという人が一定数居たので、海水浴エリアでは夏場の日光を味わう事もできるようになっていた。


「それにプールも海も、どうせ今年もいけないだろうし~文句も出てくるってものだろ?」


「そうね…いい加減に人員補充してくれないかしらね」


「無理だろ。実力を持っている奴は仕事なんて選び放題、マギルティアも待遇や将来性はあるけど危険性も世界屈指のなんだから…」


 実際、マギルティアの発足した時には新規で入ってくる能力者は大勢いたらしい。

 しかし1年が経った時に他世界との交渉で死者が出たのを始めに、今まで隠れていた危険な能力者テロリストや怪物達が世界中で暴れて大勢の死傷者が出たのだ。

 各国の名家と呼ばれる者達もことごとくが破れ、残ったのは運のよかった者や戦いの中で拡声したような稀有な者達だった。


 そんな過去もあってマギルティアに対して懐疑的な能力者は多く、人材を集めようにも上手くいかないのが現状だった。


「「はぁ~」」


 過去の出来事を何年何十年も引きずられてもいい迷惑、なんて思うのは当事者ではないからいえる事なんだろうけど…現在進行形で迷惑をこうむってる俺達は生きてい頃の問題だし文句くらいは言わせてほしい。

 なんて考えていると、中央管理局のすぐ目の前へと着いていた。


「さっ!切り替えていきましょうか」


「うへぇ~」


 生真面目にやる気を見せる翡翠に少し辟易としながら呼び出されている茨木のオッサンの執務室へと向かった。

 執務室の中では数日前に有休の申請に来た時よりも大量の書類と格闘している茨木のオッサンに出迎えられた。


「おう、来たな」


「そりゃ来ますよ。というか、またえげつない量の書類の量だ」


「この季節ばかりは仕方ない。こっちの仕事しながら本題話すが問題ないな?」


「いいですよ。俺も勝手にくつろぎますから」


 忙しそうなので俺は勝手に自分の分のお茶を淹れて近くのソファーに座る。

 そんな俺の行動を見て茨木のオッサンと翡翠は呆れた様子だったが、いつもの事なので気にしない。どうせ何言っても俺が行動を変えないのを知っている2人は諦めて本題に入った。


「はぁ……まず翡翠には富士の樹海を中心に活動してもらう。この時期になると夏休みもあって観光客と同じくらい自殺者も増えるが、そんな人間達を標的にしたバカ共も出てくるからな」


「だからエルフの私ってことですか?」


「あぁ、樹海なんてエルフなんかの妖精種でもなければ妖怪でもたまに遭難するからな。他にも、翡翠は風と植物系の魔術が得意だから樹海は得意だろうからな。それと一応だが基本は警告と生け捕りを優先、話を聞かない相手・攻撃してくる相手には容赦は不要だ」


「わかりました」


 のんびりお茶を飲んでいると横で何やら真剣な感じで2人は本題を進める。なんか物騒な言葉の聞こえてくるが、毎年の事なので別に気にしない。

 と言うか気にしたところで意味ないしな。


「それで和弥の方は話を聞いてるか?」


「聞いてますよ~」


「……お前はだ」


「は?」


「和弥は京都担当だ」


「はぁ???」


 受け止めたくない内容に何度も聞き返してしまう。

 だが話している茨木のオッサンの表情を見た瞬間、冗談ではないことが分かった。

 普段だったら悪戯っぽくニヤニヤしていてもおかしくないのだが、目の前にはいつになく真剣な表情が浮かんでいた。


 その表情を見た瞬間に猛烈に嫌な予感がした。


「なにか言われてるんですか?」


「あぁ……今年はなんとしてでも和弥を京都に寄こせ!ってな。最初は断るつもりだったが、同じ内容の式神が日に10回以上きやがる‼俺に関係のない内容でも普通に気分が悪い‼という事で、和弥……俺の心の安寧のためにも行ってこい」


「要するに生贄に成れと?」


「そうとも言うな。まぁ、別に本当に死ぬわけじゃねぇんだし構わねぇだろ」


「俺の心の安寧は⁉」


 もっと深刻な内容かと思えば、まさかの根負けしただけだったとは思わなかった。と言うか、自分が面倒だと思う相手の所に人を送り込むんじゃねよ。

 なんていう思い全てを注ぎ込んだ渾身の叫びは、無情にも無視された。


「そんなことは知ったこっちゃないな。どっちにしろ京都に追加の人員は送らないといけないし、ちょうどよかった!なにより拒否権はない、諦めろ」


「まじかぁ…」


 京都には二度と近寄るつもりはなかったというのに、今年は有給の件と言い厄年なのか?本当についていない。

 あんな魔窟には一生に一度で十分だったんだけどな。


「わかりました。でも、危険手当と出張手当と他もろもろ報酬追加してください」


「言われなくてもちゃんと出るから安心しろ。あ、行くならついでにここにも行ってくれ」


 そう言って茨木のオッサンは住所の書かれた一枚のメモと封筒を渡してきた。


「なんですか、これ?」


「俺が贔屓にしている酒蔵だ。今日と行くならついでに注文書出しといてくれ、すっとくが切れそうでなぁ~」


「そんくらい自分でやれ‼」


 行きたくないって言ってる奴にお使いを頼む神経がわからん。

 思わず反射で投げ返していたが、空中で静止して勝手に俺の財布へと仕舞われた。まったく、だから無駄に強い相手はいやなんだ。


「ついでなんだから別にいいだろ。他にも生八つ橋よろしくな」


「あ、それなら私も2箱お願い。前に食べてから好きになっちゃって」


「っ!わかったよ‼買ってくればいいんだろ⁉」


「おう」


「よろしく」


 やけくそ気味に言っても2人には効果はなく軽く返されて終わった。

 もう何を言っても無駄だな。


「…用事終わったなら帰っていいですか?」


「おう、いいぞ…っていいわけないだろ。今日の仕事はちゃんとしてから帰れ」


「ちっ…わかりましたよ。それでは~」


 後ろで何か怒鳴っている気もするが、今日はもう2人の話を聞く気は失せたので仕事を終わらせて帰ろう。なにせ京都に行くのが3日後、それまでにしたくだのなんだの終わらせないとだしな。

 ついでに今回は付いてくるのかカレンに聞かないといけないし、思った以上にやる事が多い。


「はぁ~~~憂鬱…」

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