第2話 有給申請《拒否》
結局、あの説明させられてから他の教師達にも注意するように話を通されたようでさぼることができなかった。
「疲れた…しかも、宿題大量に出しやがって…」
そして今日の不真面目な態度と3大都市についての説明が大雑把であったことなど、全部を合わせた罰として補習を見逃されたが通常の2倍の宿題が出された。
一応でも合格にしておいて後で罰を出すのはずるくないか?ずるいよな‼文句を言おうとも思ったけど、先読みした森谷先生に睨みつけられて大人しく受け取った。
「はぁ…帰ったら爆速でやるしかないな…」
もう受け取ってしまったからにはやらないほうが後が怖いので諦めて真面目に片付ける。なにより、こんなことに悩んでいると今目前に迫っている重要事項に集中できなくなってしまうからな。
という事で、今日もいつものように中央管理局の特別処理課まで来ている。
ただ、いつもと違う事が2つある。
1つは普段は一緒に来ている翡翠が今日は委員会の仕事でバイトは休みという事で1人できている事、2つ目は普段仕事するのに使っている部屋ではなくて今日は茨木のオッサンの執務室に来ていた。
「おじゃましまーす」
「上司の部屋に友達の家のよう挨拶で入ってくるな…」
「どうせ気にしてないくせに、誰かいる時は真面目にしますよ」
「はぁ…」
部屋に入るなり茨木のオッサンは呆れたように盛大な溜息をもらす。
ちょっと挨拶しただけでこの反応は納得いかないが、常識的に考えれば俺が悪いのはわかっているから文句はない。では、何故に悪いと分かっていてやるのか?と聞かれることもあったけど答えは簡単『真面目な空気が嫌い』だ。
挨拶なんて丁寧にしようが、適当にしようが意味合いはほとんど同じだろうと考えているだけだ。
さすがに時と場合をわきまえるくらいはするけどな。
「それで、今日は何の用で来たんだ。何か用があったから来たんだろ?」
なんてことを考えている間に茨木のオッサンは机の上の書類を処理しながら要件を聞いてくる。
「夏休みに遠出したいので有給の許可ください!」
「却下」
「なぜ⁉」
有給は国際的にも新たに成立された公式の精度のはずなのに即答で拒否された。
ろくに有給を使ってなかったから問題ないと思って申請したのに、おかしいと思い茨木のオッサンの顔を見ると小さく溜息をつかれた。
「はぁ…夏場だぞ?」
「わかってますよ。だから申請してるんですから」
言われずとも夏だからこそ有給の申請をしているのだ。
今年の夏だけでもゆっくりと季節という物を味わうためにも意地でも申請を通してほしいのだ。
そんな俺の反応に茨木のオッサンは睨むように見てくる。
「…お前、わざとわからないふりしてるんじゃないだろうな?」
「………なんのことですか?」
「おい、とぼけるにしてもこっちを見てから言え」
呆れたように言われ、仕方ないので俺は茨木のオッサンの方へと向くが表情に嫌だな~って思っている事が出ていたようで、もはや疲れたように小さく息を吐いた茨木のオッサンは書類仕事を横において立ち上がった。
「夏場は日本などを筆頭に怪奇現象が起きやすいシーズンの一つだ。基本は地上は、地上の支部が担当する事になっているが今は日本上空に来ているために高天原…つまりはこの支部にも応援要請と増援を贈るように指令も来ている。で?そんな状況下で、どうしたいって?」
「有給ください!」
「ふざけてんのか?」
「っ!」
冗談などではなく茨木のオッサンから伝説の妖怪としての本来の威圧が放たれる。
ちょっと油断していたのもあってもろに受けてしまい体が何かに押しつけられるような衝撃を受ける。
でも、殺そうとしているわけではないので少し魔力で体を強化すれば問題ない。
そして動けるようになると諦めの感情が出てくる。
「…やっぱりダメですか??」
「ダメだ。この時期は人手不足が深刻、そんな状況で和弥ほどの実力者を遊ばせておく余裕はない」
「数日でもダメですか?」
「無理だな。ただ完全に拒否っていうのも悪いし、学校に話を通しておくから夏休みの後に数日休暇をだそう。それで納得しろ」
「えぇ…」
忙しい時期なのは承知の上でお願いしていたが完全拒否。妥協案も悪い内容ではないけど季節限定の物はほぼ終わっているので、それを目的としている俺にとっては何の魅力もない提案だった。
しかし全力で不満を表に出しても茨木のオッサンは表情一つ変える事はなかった。
「納得いかないようだが、こちらが出せる最大限の譲歩だ」
「……はい、わかりました。もう、それでいいですよ」
これ以上粘っても何も変わらないと感じたので本当にあきらめる事にした。
毎年の事ではあるのだがマギルティアは基本的に万年人不足だ。
解決のために一応募集もしているようだがマギルティアは組織の性質上、中途半端な実力の物は臨時職員に雇う事すら難しい…と言うよりも不可能なのだ。
それほどまでにマギルティアの仕事は表のオフィスを除けばすべてが専門職でなければ請け負う事が出来ず、だからこそ後進を育成して人材不足を解消するために各魔導都市に複数の教育機関を設立したのだ。
そんな事情も知っているからこそ不可能なことだと分かっているので諦められるのだ。
「いい加減に妖怪も統率取れるようにしたらどうですか?」
夏場が忙しい原因の一つは妖怪達の中に古来からの風習を辞められない、真玉止めようとしない者達が多いからだ。
だからこそ伝説にも語られる妖怪の一体でもある茨木童子の茨木のオッサンに提案したのだ。もちろん無理だとわかったうえでだけどな。
「無理だな。鬼だけならともかく、他の妖怪たちは各々の長にしか従わない。長達も他の妖怪からの意見など聞きはしない」
「本当に面倒ですね。妖怪の世界も…」
人間の社会も複雑だけど妖怪の社会も複雑にできているようだ。
こうして結局は有給の申請も通らず、無駄に溜まっている仕事の処理を手伝わされて今日は過ぎていく。
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