第88話 西方戦線
「貴官が噂のリルト少尉ですか……」
「はっ。本日よりこの西方戦線に加わります」
挨拶に向かった西方戦線の司令官レギン少将は、メガネを中指で押し上げながら静かにこちらを見つめる。
噂の、というのが何を指すのかは心当たりが多いので判断がつかなかったが、あまり歓迎されていないことだけはその表情、態度からひしひしと伝わってきていた。
そしてそれを証明するように、レギン少将はこう付け加える。
「先に言っておきましょう。ここでは勝手な真似は許しません。貴官は駒に過ぎない。その駒に勝手な振る舞いをされれば、私の指揮に悪影響を及ぼします。訓練校でどこまで学んだかわかりませんが、私は無能でも有能でも言うとおりに動けばそれで優遇します。好き勝手動く駒の面倒を見るつもりはありませんので、覚えておくように」
グガイン中将とはある種、対極的な存在かもしれない。
いかにも神経質そうな表情と、細身に合わせてきっちりと着こなされたスーツ。
西方戦線は長年硬直状態が続いていると聞いていたが、総司令官の性格が良く出ている部分かもしれない。リスクは取らずに徹底した基礎戦術により鉄壁を築きあげる力量は、帝国内でも有数の戦略家とのことだった。
「逆に……」
レギン少将の言葉が続く。
「貴官がこれまで通り好き勝手動きたいと言うのであれば、いますぐ任地変えを申し出てください。いまなら私が手続きは済ませても良いですが、いかがです?」
すでに厄介者認定されてしまっている様子だった。
まあ、色々やらかした上でなので仕方ないのは仕方ないんだけどな……。
中尉でなくなったにも関わらず俺はアウェン、メリリア、サラスの三人を率いてやってきた形になっている。ここで勝手なことをすれば三人にも影響があるのだ。
レギン少将の言葉に俺は、これだけ返すことにした。
「私は帝国軍人ですので」
「……」
沈黙。
メガネの奥の鋭い眼光が俺を射抜かんと注がれている。
しばらくしてレギン少将はまたメガネを中指で押し上げながらこう言った。
「そうですか。ではこれからのことを話します」
淡々と事務連絡が始まった。
◇
帝都での裁判を終えて俺は予定通り西方の戦線に加わっていた。
変化があったのは裁判を経て俺が少尉に降格されたことと……。
「なに? しばらく保護すると言ったのはあんたよ? リィト」
「姫様……ですがこんなところまで付いてこられるなんて……」
「今の私は姫様じゃないと言ったじゃない。ただのキリクよ。そう呼びなさい」
「キリク様……」
「様もいらないわよ!」
結局あの屋敷に姫様を一人で残すわけにもいかない。国王が知れば保護をしたんだろうけど、そこまで待つ猶予も俺にはなかった。
仕方なく王都に手紙だけ送って俺が姫様の保護をすることになったんだが、まさか西方遠征にまで付いてくることになるのは想定外だった。
グガイン中将やギルン少将のおかげで姫様は今客将という扱いになり、表立った動きはないもののアスレリタ王国とガルデルド帝国は事実上同盟関係を結んだ。
帝国としては他国との戦線がある中で大国の一つであるアスレリタ王国とことを構えずに済んだことと、それでもなお一触即発の爆弾であるカルム卿を抑え込むために。
王国としては王女か領土を失う危機を“帝国軍人”に救われたという負い目から、この同盟は成立している。
その過程で俺の素性や行動は色々表沙汰になったんだが、グガイン中将とギルン少将、そしてメリリア殿下の尽力があってこうして無事降格処分までで軍人生活を送れるようになったわけだ。
逆にこのせいでカルム卿はさらに追い詰められる事態になり、ギーク共々領地に釘付けにされる状況になっていた。
何が起こるかわからないものだ。
わがまま王女に仕えた万能執事、隣の帝国で最強の軍人に成り上がり無双する すかいふぁーむ @skylight
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。わがまま王女に仕えた万能執事、隣の帝国で最強の軍人に成り上がり無双するの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます