怪物は大体プールにいる

@195l2017

第1話

僕が彼女に初めて会った時、彼女は全裸だった。

 14歳の夏、学校に来たはいいものも教室の異常な閉鎖空間に僕は飽き飽きして、保健室に向かうフリをしてプールに向かった。学校は嫌いだ。同級生は僕よりひどく子供に見えるし、本を読んでばかりの僕を陰で悪口を言うのにもむかつく。留年しない程度に適度に学校を休んではいるけれど、時々今日の様ななんとも言えない居心地の悪さに見舞われる時がある。そう言う時は、大抵家に帰るか、学校のプールに行く。初夏の風に身を委ね、水面が均一な速さで波を打つのをみていると自然に心が落ち着いていくんだ。でも、今日は違った。

 静かに一定の距離を保って揺れていた波が突然大きくなった。ぶくぶくと泡が水底から立ち上っている。まるで何かがしたから水を突き上げている様に。僕はおよそ自然の摂理とは思えない現象を目を見張ってじっと見ていた。あまりの状況に逃げ出すこともできなかった。次第に水面の一部が黒くなっていった。と思った次の瞬間、顔が、少女の顔が水面から現れた。彼女はまるで人魚の様に僕のいる方へ泳いでくる。僕のことにはまだ気付いていないみたいだ。彼女は美しいフォームのまま僕の真横に乗り上げると、やっと僕の存在を認知し、それでもさほど驚いた様子はなく一方的に喋りまくった。

「あ!あなた隣のクラスの宮野裕介くんね!私は2の2の河野憂理。よろしく。」

満面の笑顔で確かに彼女はそういった。肩まで伸びている髪が水に濡れて光っている。

「突然だけどこのことは誰にも言わないでほしいの。もちろん私がプールから登校してきたなんて誰も信じないと思うけど、それでも変な噂が立ったらめんどくさいし。」

この時の僕は終始自分でも呆れるほどの間抜け顔だっただろう。秘密?プールから登校?何を言ってるんだこの女は。頭おかしいだろ。だって、想像してほしい。この一連の出来事は僕が冒頭で書いたとうり彼女、河野憂理は生まれたままの状態だったんだ。つまり、全裸だったんだ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

怪物は大体プールにいる @195l2017

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る