テルクシノエーは泡と消ゆ
教室に入ると、
「あっ…あの…それで…話って…?」
そう言いながら
「うん…あのね…。
ドキっとした。やっぱり、その話題になってしまうのかと感じる。
「それはっ…その…
「それは確かに残念だったけどね…ぼくは君に嫌われたのかと思ってる。ぼくが何か君を傷つけてしまったのなら、はっきりと言ってほしいんだ…。」
「そっそんなことはないけど…。そ、そ、その…本当は、本当は…
話している内に、なんだか情けなくて涙が出てきた。涙の膜で、
「ちょっと!…ちょっと待った!いま、サラッとすごい事言わなかった?
「え?ええ…
「あっ…見られてた…いや、あれはその…とにかく、ぼくは知らなかったよそんなこと!」
彼は急に顔を赤らめながら、大きく手を振って大袈裟に驚いて見せる。
「知らなかった?」
「そう!知らなかった!」
「じ、じゃあ、どうして
「それはね、それは…それはね…」
そう言いかけて、彼の顔が耳まで真っ赤になっていく。涙目になって、大きな黒い瞳がより一層可愛らしく見えた。ふうっと一息ついて、彼が口を開く。
「つまり、ぼくは
一瞬、何を言われたのかわからなくて、頭が真っ白になった。
「あっ…えっ…で、でも…?わたし…かわいくないし…え?ええ??」
「初めて見た時から、かわいいと思ってた。みんなは気が付いていなかったけど…こうすると、かわいいのが、よく分かるよ。ほら」
彼が両手でわたしの長い前髪を優しく避ける。とにかく顔が熱い。熱い。熱い。彼の手が温かい。彼の良い匂いがする。泣きそうな気がする。
「あ、あ、あの、あの…嬉しいのですが…あの…恥ずかしいので…」
今起こっていることがどういうことなのか、わたしには全く理解が追い付かなくて、思わず敬語で話してしまう。
「あ、ああ…ごめん。はじめは、ね、ぼくは、
「幻滅しない…?」
「まさか!するもんか!奇跡みたいだなあ…。」
…これ、夢だったりしないわよね…?今この時の、わたしの胸のどきどきの中にある不安が、わたしに人魚姫の一節を思い起こさせる。
「…ぼくを助けた
それを聞いた
「それは…人魚姫の一節だよね?でも、ぼくはそんなこと言わないよ。ぼくは
なにも言わないわたしを、彼は黙って抱きしめてくれた。何も言わなくてもいいんだよ、と。わたしの中の
「でっ…でも…
「
「
わたしは少し戸惑ったけれど、彼はわたしの全てを愛してくれていて、彼にとっては
***
再び
ふわふわと尾ひれが舞うのを手で払いのけて、身を翻してみせる。ターコイズブルーのこの部屋の中でゆらゆらと踊り続けるわたしに合わせて、アクリルガラスの向こうに見える人だかりが、ゆらゆらと揺れているのが見える。その中に、
***
ヘッドギアを外すと椅子に腰かけた
「…やっぱり、こっちの君も素敵だな。」
彼が少し頬を赤らめると、わたしの頬も少し火照る。椅子から立ち上がってベッドに腰かけてくれた彼とわたしの指が重なり、また何度目かのくちづけを交わした。
テルクシノエーは泡と消ゆ QAZ @QAZ1122121
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