10話『願いは呪い』

 轟々と黒煙をあげながら燃え崩れていく孤児院。顔面から血の気が引いていく。心拍と呼吸だけが早くなり、何がなんだか分からなくなる。だが孤児院のみんなの顔を思い浮かべたらいても経ってもいられなくなる。近くの井戸で水を被りまくり、今にも燃え崩れそうな孤児院へと入る貝沼だった。


 みんなの名前を呼びながら、煙を吸わないように進んでいくと、広間にシルファさんが倒れているのを発見する。急いで駆け寄るとそこは血溜まり。シルファさんの腹部から血が広がっている様子だった。今にも叫び出したいのを我慢し、シルファさんの意識を確認する貝沼。呼びかけると息も絶え絶えだが意識はあったので「シルファさん! 何があったんですか! 子供達は! いや、とにかくここから脱出しましょう!」と抱え起こそうとするも、拒むシルファ。なぜ?と疑問に思いながらもそれでも一緒に脱出しようと試みると「私はもう手遅れです。なので子供達を……子供達を助けてください」と絶望的なことを貝沼に突き付けた。貝沼が「子供達はどこにいるんですか?助け出しますから一緒にここから」というと「賊に攫われたんです。奴隷紋で抵抗できないようにして。私が抵抗したらこの有様で。だから子供達はここにはいません」腹部の血はどんどん広がっていく。素人目から見ても手遅れなのが分かる。分かってしまう。悔しさで涙が溢れるが炎で蒸発し掻き消されていく。最後にシルファさんは「奴隷紋を使っているので奴隷商か金貸の可能性が高い」ということを伝え終えるとどんどん呼吸が浅くなっていった。安心させるため「分かりました! 必ず子供達は助け出します! 絶対に助け出しますから! だから、安心……ッしてください」と貝沼は言い残し孤児院を出て行った。願いを託され涙も止まった。孤児院はどんどん倒壊していくのだった。


 シルファは後悔していた。私の願いはきっと彼を傷つけてしまう呪いの類になってしまうだろうと。どうか、神様、彼と子供達を無事に助けてください。そう願い、倒壊していく孤児院の中、シルファは息を引き取った。


 孤児院から脱出した貝沼は、泣き出したいのを堪え、野次馬たちに子供達の行方を聞き出そうとしていた。何人もハズレを引いていく中、近寄る1人の老人。なんだろうと思うと「子供らがどこのもんに連れ去られたか知りたいのか」と核心をついてきた。何度も頷くと「ラフラルバ卿が牛耳っている奴隷商人たちだよ。分かったところであきらめな。あっちは貴族様がバックについてる組織だ。かく言うワシの孫娘も奴らに攫われた。生きているかも分からん。悪いことは言わんから諦めなさい」と諭す。貝沼はひとまずありがとうございましたと情報提供に感謝する。貴族。貴族と自分は縁があるらしい。苦々しい記憶が蘇る。が、瞳に光が灯る。力が漲る。必ず助け出してみせる、と心の中でシルファさんに誓った貝沼だった。

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鬱病なので異世界とかどうでもいいです 蝕 カヲル @6483kaoru

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