9話『サプライズ』

 あぁこれは夢だなと、すぐに気が付いた。骨壷に両親の遺骨を入れている。早く醒めてほしいなぁと思いながら場面は転換し勤め先の社内に。パワハラ先輩が顔に無理やり布を乗せて馬鹿にしている。それを俯瞰的に眺めていた。瞬間、全身の筋肉がつっぱりその先輩の首を絞め上げていた。あったなぁこんなことも、と貝沼はため息をつく。手に痛みを感じ体が透けるような感覚になり目が覚めた。両手がカチコチに握りしめられている。イタタっとゆっくりほぐしながら手を解く。過去の記憶。それがそのまま夢に出てよかった試しがない気がする。どろりとした何かを飲み込むようにし、気怠げにベッドから這い出た。今日は遅刻だなこれは、とゆっくり身支度をする。


 憂鬱な寝起きを気取られないように顔をムニムニほぐしながら広間に向かおうとしていると、何やら子供達とシスターが話し合っているようだった。雰囲気的に今入っちゃダメな気がしたので、聞き耳を立てながら待っていると

「サプライズのパーティーがいいと思うのよ」とハーフメロウのメニアがキャッキャと楽しそうに提案している。すると「ぼ、ボクもメニアにさ、賛成かなぁ」とハーフオーガのルガンが様子を伺うように小声で賛同している。何のサプライズパーティーを計画してるのか本気で分からなかったが、1番年長のハーフリザードのジークが「サンシローさんが来てくれていっぱいお世話になっているし、僕も良いと思うよ。ウェルカムサプライズパーティーってやつ」と言ったのでドキッと理解してしまった。そしてしまったなぁとも思った。これじゃサプライズにならないじゃないか。でも、気持ちだけでとても心が温かくなった。朝の憂鬱はどこへやら、貝沼はニマニマ顔を抑えながら少し遅れて、わざとらしく物音を当てながら広間に入っていった。


 今日も今日とて領外の森で食糧採取。子供達やシルファさんの笑顔が見れると思えばしんどさも軽減する。この調子なら鬱病も治ってくれるかもしれないなと本気で思う。狩りの方も順調で、女神アウラニイスさまさまで食べ盛りの子供達を満足させる量を確保できていた。そろそろ帰ろうかという頃だったが、朝の密談を思い出す。もしかしたら今日かもしれない。自分に催されるパーティーがである。そうなると準備など時間がかかるのではないだろうか。子供達だけで作る料理があったり手作りのプレゼントなんて用意してくれるかもしれない。顔がポッポする。側から見れば森の奥で薄気味悪くニヤニヤした男が獲物を解体している。誰かと思えば貝沼である。完全に浮かれているようだ。時間を潰すためにももう少し食糧採取を続けますか! と意気揚々にアウラニイスと一緒に森の奥に進んでいった。


 空が夕焼け模様から夜の暗闇へ移り変わる頃、流石にそろそろ大丈夫だろうと帰り支度を始める。森を抜け街に近づいていた時だった。なんというか慌ただしさを感じた。どうしたのだろうと、いつものように領門でチェックを済ませ、帰路を歩く。するとどんどん喧騒が、激しくなっているような……。もう少しで孤児院につく曲がり角を曲がった時、貝沼は信じられないものを目にした。


 孤児院が黒い煙を上げながら轟々と燃え盛っていたのだった。


「……は?」

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