第3話

結局委員会・係決めは放課後に持ち越されることになった。

「泊、あれどうにかできないか?」

洞爺は休憩時間になってすぐ俺の席に来た。

「あの調子だと長引きそうだな。」

「おれはやくかえりてーよ。」

「俺もだよ。」

実際この問題を解決するのは難しい。解決するためには、阿部もしくはすでに決まっているだれかが代わりに入るしかない。阿部のあの態度からいって阿部が入ることはまずないといっていい。もし強制的にいれたとしたら、クラスに大きなしこりが残るのは確実だ。阿部は、それだけのクラスの立ち位置を占めている。そうなると、代わりに入らされても文句をいわない声なき者ににやらせるはめになるだろう。おそらく、放課後の話し合いはそれをあぶりだす空虚な時間になるに違いない。もし、だれもが傷つかない方法があるとするのならそもそもの問題をなくせばいいのだが、そこまでする理由が俺にはない。

「それでは話し合いの続きをやります。時間をとるので少し周りの人と話し合ってもください。」

いつの間にか、休憩時間は過ぎいつ終わるともわからない会議が再開された。俺の周りはというと、右隣に洞爺、その後ろに水無月、前の席は女子たちで話始めていたので、流れ的にこの三人で話すことになるのだろうか?

「ほかのクラスもう帰ってんじゃん。いいなー」廊下を他のクラスが帰っていく様子をみながら、洞爺は椅子を傾けて遊んでいる。

「ほかのクラスは順調に決まったみたいね。」

「やっぱり応援団委員会なんていらねーよ。なんで委員会のなかに応援団が含まれてるんだよ。もっと同好会とか部活にしてやりたいやつだけやればええやん。」

今回余った委員会とは、応援団委員会といわれるものでうちの学校の特徴ともいえる。応援団委員の仕事はおもに体育祭や部活の大会などにおもむき応援することなのだが、委員会のなかで断トツで人気がない。理由はいろいろ考えられるが、時間を取られたり、ハチマキ巻いて袴を着たくなかったり、練習がきつかったりなど、いまどきの高校生には前時代的なことが多い。もともとは部活だったのだが、だんだんと生徒の人気は衰え確実に人員確保のできる委員会へと変わった。その結果、伝統というより悪しき慣習として生徒のあいだではとらえられている。

「毎年やりたい人が一定数いるから、いままであるみたいだし。なかなか難しいんじゃない?一組なんて定員人数超えるくらい人気があって、普段より多くとったらみたいね。」そんな洞爺のつぶやきとそれに対する水無月の丁寧な返しを聞いているうちに時間は過ぎた。

「それでは、だれか応援団委員会に移ってくれる人いますかー?」

そんな清水の呼びかけに誰も応じる気配はない。さすがに清水もあせってきているようで、いろいろと考えているようだ。一方、島田は特にあせるような様子もなくむしろ、この会議はあと数分で終るかのような顔をしている。嫌な予感がする。島田の目線の先には渚沢夏美がいた。渚沢夏美、先ほど男子の会話のなかにでてきた学年の人気者。水無月とは、まったく異なるベクトルの人気を持つ。いわゆるかわいい感じの雰囲気で胸もでかい、性格も明るくて誰に対しても距離が近く、男子と女子の垣根を越えてくるような存在だ。水無月とは異なり、浮いた話もうわさであるが耳に届くことがある。渚沢を見てみると、少しうつむきなにか考えているようだ。なるほど、島田は渚沢が移ってくれることを確信しているのか。さきほどの話し合いの時、島田はきっと最前列に座っている渚沢と話して移ってもらえるようプレッシャーを与えたのだろう。渚沢は俺が知る限り、クラスの雰囲気を重んじるタイプだ。自分がここで移動して収まるのなら、それを実行するだろう。きっと、今悩んでいるのは応援団委員にはあまり気が乗らないからだ。島田は、俺より渚沢と付き合いがあるしきっと間接的に渚沢が移るよう誘導している。なにより、渚沢は以前島田と付き合っていたという噂を聞いたことがある。それが真実かどうかはわからないが、仲がよいのは確かだろう。「先生、このままだと埒が明かないので最初から決めなおすのはどうでしょうか?」島田は教室を見渡したあと淡々と言い放った。確定。島田《コイツ》は絶対そんなばかげたことをしないことを知っている。クラスのほとんどが反感をもつであろうやり方を実践することをほのめし、渚沢に「このままだと余計空気がわるくなるぞ」と脅迫している。おれはそういうやり方は嫌いだ。いまので決めた、島田がどうしても誰かを犠牲に人員を確保しようとするのなら俺はその必要をなくす。

「あのー、応援団の足りない部分はそのままでいいんじゃないでしょうか?」

「えっ、それどういうこと?」清水は、半信半疑で聞いてくる。

「たしか、応援団委員会の人員って各クラス2人以上が通例になってるけど、実際は学年全体で10人以上いればよかったと思うんですよ。ほかのクラスの結果を聞く限り二組以外全員二人以上は選ばれているようですし、一組は5人くらい応援団に入ったらしいので、学年10人はすでにいってると思います。」

その瞬間清水を含め、クラス全体の雰囲気が明るくなった。島田を除き。

「先生、それで大丈夫ですか。」

「各クラスの結果を見ていないのでなんとも言えませんが、もし渡良瀬君がいった状況なら問題ないでしょう。」

「それじゃあ、すいません。皆さんお疲れ様でしたー。」

清水の号令とともに多くの生徒が、よかったーとかいいながら帰っていく。

「泊ー、解決策あるんじゃん。早く言えよ。おらはもう帰っぞ。じゃあなー。」そう言って、洞爺も帰っていった。

実際、洞爺に最初解決策あるか聞かれたとき、解決方法は思い浮かんでいたもののそれを可能にする情報とそれを行う理由がなかった。この解決方法は、実際単純なものだ。クラスの一部もきっと気づいていたはずだ。なのに、それが実行されなかたったのは、他のクラスの情報を知りえなかったからだ。委員会決めが難航してからいまの会議まで他クラスはホームルームをしていて、休憩時間のときもほかのクラスの人と話せなかった。だから、俺が一組に多く応援団委員がいることを知ったのは偶然だ。それに島田が悪意をもって決めようとしていたのをその時はまだ気づいてなかったし、実行する理由もなかった。と誰に対してだかわからない言い訳を心の中でしているうちに違和感に気づいた。一組の応援団委員の情報を知ったのは偶然?そんなはずはない。なぜならそれを言っていたのは―。それにもう一人、島田の俺が解決したときの顔、あれはこの解決方法を知っていた顔だ。普通に考えれば、委員会決めが解決することは島田にとってもいいことのはずなのに、あの顔はなんだ?渚沢を陥れること自体が島田の目的だったのか?わからん。とりあえず、それよりも彼女を見つけないと。

 「水無月さん!」そう彼女水無月朱鷺羽も一組の情報を知っていた。洞爺と話し合いの時ボソッといっていたのを聞いたからこそ俺はしった。でも、あの状況で彼女がその情報を知っているのもおかしいのだ。

「渡良瀬君どうしたの?」始業式の放課後、昇降口で靴を履き替え帰る寸前の彼女を見つけられたのは幸いだった。

「なんで一組が応援団委員多いことを知っていたの?」

「友達から聞いたからよ。それがどうかしたの?」

「そうですか。すみません、変なこと聞いて。それじゃあお気をつけて」

「…ふふっ。お気をつけてなんて普通同級生に言わないよ?渡良瀬君 それじゃあまた明日」

「それじゃあ、また...」

春の温かい日差しを浴びながら、春の香りにつつまれた彼女が颯爽と去っていった。結局友達から聞いたと言われるとこちらも引き下がるしかなかったけれど、きっと彼女は質問の意図をわかっていたと思う。なぜなら、質問した時、一瞬だったが彼女の凛とした表情が崩れその質問をされたことに驚いていた顔をしていたからだ。

 



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

風紀部 @naoki_nakin

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ