大馬鹿者と呼ばれ続けた底辺領主による大改革。~身分関係なしに優秀な人材を取り立てて、最強の軍勢を築き上げる~

あざね

プロローグ その大馬鹿者、領主となる。






「オルタ様、いい加減にしてください……!」

「どうした。言いたいことがあるなら、ハッキリ言えば良いだろう?」

「………………」



 俺がそう言うと、老齢の従者――デイスは押し黙った。

 しかし意を決したように、彼はこう口にする。



「領主様のご子息として、自覚をお持ちください」――と。



 その言葉に、俺は鼻で笑って返す。

 自覚をしろだなんて、今さら言われても笑い種だった。だけども、その内容には興味がある。俺はデイスの皺だらけの顔を観察しつつ、こう訊ねた。



「具体的には?」

「街の者と、気安く戯れるのはおやめください! しかも先日に至っては、貧困街の者と剣を交えたそうではないですか! そのようなこと、前代未聞です!!」

「ふむ……」



 デイスの言葉に、俺は少し考え込む。

 そして、こう答えた。



「ならば、俺がその先例となれば良いだけの話だろう?」

「な、んですと……!?」



 老齢の従者は、あからさまに表情を強張らせる。

 こめかみを震わせて、怒りとも憤りともつかない感情を露わにしていた。その様子を見て、俺は少しばかり残念に思う。


 生まれた頃から俺を知るこいつも、結局は理解できないのか――と。



「お考え直し下さい、オルタ様! ――現領主のお父様が未知の病に伏せる今、貴方がこの領地を支えることになるのは時間の問題なのです!!」

「うるさいな。小言は聞き飽きた」

「オルタ様!!」



 食い下がるデイスを突っぱねる。

 部屋に入り、内側から鍵をかけて俺はベッドに寝転がった。しばらくするとアイツも諦めたのか、ドアの前から気配が消える。

 それを察して俺は起き上がり、窓際へと移動した。


 すると眼下に広がるのは、どこか寂れた印象を受ける街並み。

 その外れには痩せこけた大地に、木の板を立てただけの家々が見えた。



「ふん、なにが領主の息子としての自覚だ。民の食い扶持もまともに保証できない奴らが、偉そうな口を叩くな」



 ほんの少しだけ悪態をついて。

 俺はふと、臣下の者たちが自分をどう呼んでいるかを思い出した。



「大馬鹿者のオルタ・デオリウス、か」



 ハッキリ言って、いまの臣下たちからの評価は高くない。

 そのことは重々承知している。それでも俺は、自分の考えを曲げるつもりはなかった。その証拠に――。



「オルタ様!! 領主様の呼吸が――」



 部屋を強くノックする音。

 そして、父の訃報を聞いてもなお動揺はなかったのだから。







「……集まったか」



 数日後、俺は領主として席についていた。

 目の前には臣下の者たちが膝をついて、深々と頭を垂れている。



「オルタ様の晴れの日に立ち会えたこと、心より嬉しく思います」

「………………」



 黙っていると、そのうちの一人がそう言った。

 心にもないことを言うものだと、内心で失笑したが、俺は咳払いを一つ。



「そうだな。今日はお前たちに、大切な話がある」

「大切な、話……?」



 そう切り出すと、先頭の者が面を上げた。

 彼の目を見て改めて知る。そこには、軽蔑の色が浮かんでいた。

 確実に俺のことを下に見ている。自分より格下の相手に、なぜ頭を垂れないといけなかったのか。そのことに対する不服が、滲み出ていた。


 しかし、今はそれより重要なことがある。


 だから俺はあくまで冷静に、こう臣下の者たちに告げるのだった。



「お前たちは、今日限りでクビだ」



 ゆっくりと立ち上がり、感情を込めず。




「これからは、俺が認めた者のみを取り立てることとする」――と。




 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

大馬鹿者と呼ばれ続けた底辺領主による大改革。~身分関係なしに優秀な人材を取り立てて、最強の軍勢を築き上げる~ あざね @sennami0406

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ