恋はギルド討伐で成就する

「しかも、回復魔法で身体の腐敗が隠されているわ。ねぇ、このゴブリンをどこで見つけたの?」


『森の奥にある滝の近くです。怪しい事に、その場所にギルドの人が来ていたのです。』


「なるほどね。という事は死霊術かしら?ギルドったら、とんでもない事してくれるわね。」


死んだ魔物を操る死霊術は、この国で禁止されている魔術。とは言っても、死者の尊厳とかが理由じゃない。


禁止の理由は魔物を操れるから。


ギルドがそんな死霊術を使う理由は分からない。でも、私に色々と隠し事をしていたし、きっと秘密を隠すのに利用してたのが理由かな?


考えてみれば、彼が村に来た時も魔物に襲われて大怪我してたよね。


もしかして、、、「ねぇ、この村に来る途中で魔物に襲われたわよね。どんな感じだったの?どこか様子が変じゃなかった?」


『ハイオーガを含めたオーガの群れだったな。二十はいた。いきなり現れて襲われたから何事かと思いましたね。


恐らくは、あれもギルドが操っていたのでしょう。この辺りの魔物を調査しに来た私を排除する為に。』


彼の話を聞く限り、事態は思ったより深刻みたい。聖女の私を騙し、その事を隠す為に死霊術を使うなんて。


「はぁ、どうしましょう。とにかく、ギルドは滝の裏で何かしてるのよね。まずはそこの調査からかしら?」


『そうですね、逃げましょう。ここは危険です。』「えっ?えっと、ちょっと待って!?」


私の抗議する声を聞かずに、彼は私を連れ出していく。


人目が付かない時間帯を選んだから、ギルドの人には見られてはないと思う。だけど、すぐにバレるだろうし危険すぎる。


だけど彼は止まらない。私を近くにあった馬車に乗せ、すぐにギルドから離れていく。


「ねぇ!逃げるってどこへ逃げるのよ!」『帝国騎士団までです!その後はここに調査団を送り、ギルドの不正を正します!』


「不正を正すなら、ちゃんとした証拠を集めてからでも遅くないでしょ!?」『えぇ!ですがこれ以上、貴女を危険な場所に置いてはおけません!』


そう言われたら、なんだから納得してしまった。だって、彼は本気で私の事を思って行動してるから。


「、、、分かった!私、貴方を信じるわ!」こうしてギルドから帝国騎士団までの、短くて長い逃避行が始まった。


~~~~~


作戦とは大抵の場合、失敗を前提として考えるものだ。今回の場合で言えばギルドの追手、もしくは奴らが操る魔物に見つかる事だろう。


運の悪い事に、その両方と出会ってしまった。目立つ道は使わない様にしたのだがな。


『すみません、見つかりました。』「言われなくても分かるわよ。それで、何かいい作戦はあるのかしら?」


『一つだけ。私がこいつらを引き付けますので、貴女は馬車で逃げて下さい。なるべく大人しい、操りやすい馬を選びましたから。』


かなり無茶な作戦だ。例え成功しても、私は死ぬ可能性がある。だが、それでもやり遂げなければな。


彼女をこれ以上、不幸な目に遭わせない為にも。


「そんな作戦、ダメに決まってるでしょ。私は馬車とか操れないし、それに私は聖女なのよ。


正しき人を回復させる、その誓いを破らせる気かしら?」


~~~~~


大見得を切って、カッコイイ事を言ったのはいいわ。でも、明らかにこの状況はマズい。


四方八方を囲まれて、戦える人は彼一人。私に出来るのは回復ぐらい。


まぁ、回復魔法には自信があるしそこは問題ないわ。けど、戦っている途中で回復させるのは経験がない。


とはいえ、今はごめんで許してくれる雰囲気じゃない。覚悟を決めるしかないわね。


「ほら、これで怪我してもすぐに回復するわ。ここは一緒に頑張るのよ。」『分かりました!それでは!』


ありったけの回復魔法と身体強化魔法。他にも色々と魔法を掛けた彼は、あっという間に敵を切り裂く。


剣が舞い、くるりと回り、私の周りを回る様に守護してる。「どう!?大丈夫そう!?」


『えぇ、バッチリと!任せて下さい!すぐに道を切り開きますから!』そう話す間も、彼は守りながら攻めていく。


一人、また一人敵を倒し、すぐに最後の一人以外は倒された。そうして見えたのは、見覚えのある顔。


「ギルド長!」私を騙し、私腹を肥やした張本人がそこにいる。『ギルドを導く長が、死霊術に手を出し聖女を殺そうとはな。』


彼はひたすらに命乞いをしているけど、私は一言も聞きたくない。「早く、彼を黙らせて。」


『分かりました。』そうして、彼の首が飛んだ。


~~~~~


「ねぇ、今すぐ殺す事はなかったと思うけど。」帝国に向かう馬車の中、私は彼と話している。


「村を騙した悪人なのよ。裁判をして、村の前で死刑にするべきだったわ。」


『その通りだと思います。ですが、もし逃げられでもしたら困りますからね。それに、この馬車に縛った彼を乗せる隙間はありませんから。』


「それもそうね。、、、ねぇ、名前を教えてくれない?」『名前ですか?』「考えれば、ここまで冒険してまだお互い名前も知らないわよね。


それじゃあ寂しすぎるでしょ?私の名前は聖女、サフィル。貴方は?」『帝国騎士団の第一師団、ゾールディンです。よろしく。』


これが私と彼の恋物語の始まり、幸せで波乱万丈な恋物語のね。

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冒険者ギルドの回復術師は、聖女である私だけ!? アイララ @AIRARASNOW

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