趣味、教えて…藍戸辺君…

主人公の名前は藍戸辺(あいとべ)比嘉(ひが)です。分かりずらくてすみません。


「青空さん。」

時刻は放課後。俺は、言われた通りに進路調査表の紙を書き上げ、夕陽に渡す。

「そう。もういいわ、帰って。ご苦労さま。」

俺の進路調査表をチラッと確認して、こちらを向くことなく冷たく告げる。

「……」

俺は特に何を言うことも無く、無言で教室を去る。こんなものだろう。俺と彼女の間には埋めることが出来ない溝がある。埋める気も無いが。

「あ、あの。藍戸辺(あいとべ)君。」

校門を出ると、そこには遠田の姿があった。

「どうした?」

「あ、あのね。その…えっと、」

と、言うだけで中々次の言葉が出てこない。

「…どうした?」

少し待ち、もう一度聞く。

「あっ、そ、その。私に藍戸辺(あいとべ)君の趣味、を教えて欲しくて…」

そう、細い声で言う遠田に俺は驚き、固まる。俺にアニメを、ラノベを、ボカロを教えて欲しい。という解釈でいいのだろうか?

「あー、えーと、」

「だめ、かな?」

「いいぞ。」

不安そうな、うるうるした目で上目遣いされたら無理だろう。これを断ったらオタクである以前に男が廃る。それに、2次元は素晴らしいものだ。それを、共有出来る仲間が増えるのかもしれない。それなら喜んで教えよう。

「あー、でも、だな。どこで教えれば…」

「そ、それなら、私の家で、今日は親がいな…はっ!!」

遠田が固まる。

「あー、えー、」

こういう時、どういう反応すればいいんだ?

「ち、違うの。そ、そ、そういう意味じゃなくて…その…」

頬を赤くさせ、アタフタする遠田。かわいい。

「わ、わかってる。とりあえず、水飲んで落ち着くか?」

そう言い、さっき買った飲料水を手渡す。


「落ち着いたか?」

俺たちはとりあえずと、近くの公園に向かい、そこのベンチに腰を掛けた。

「ありがとう。藍戸辺(あいとべ)君は優しんだね。」

ペットボトルを眺めながらそう口にする遠田。

「そんな事はないさ。で、どうして急に俺の趣味を教えて欲しい、なんて言い出したんだ?なんかの罰ゲームか?」

「そ、そんな事ないよ。わ、私ね。絵を描くのが好きなの。」

そう言うとカバンから1冊のノートを取り出す。そこに描かれていたのは人気作品Fateのセイバー。黄金に煌めく剣を掲げ、今にも振り下ろさんとする姿はなかなかの迫力だ。

「これ、遠田が描いたのか?」

「そう。変かな?」

「そんな事ない!すげーよお前!」

「藍戸辺(あいとべ)君?」

「あっ、すまん。」

しまった。遠田の絵のクオリティーに思わず感情が昂ってしまった。

「それでね、私、このアニメ見たの。」

と、次のページをめくる。姿を現したのアーチャーとランサー。どっちも躍動感があり、彼女が描いたとは、にわかに信じられないくらいの完成度だった。

「すげぇな。」

感嘆の声が漏れる。

「ありがとう。でね、私、感動したの。もちろんストーリーもなんだけど、このキャラクター達が動いてることに感動したの。」

余程感動したのか、語っている彼女はとても楽しそうだ。

「1枚の絵を何枚も何枚も繋げて1つのアニメにする。その中に何人の努力が詰まっているのか。想像するだけでワクワクするの。それでね、私もこのワクワクを届けれるような人になりたいなって思ったの。」

「と言うと。」

「私ね、アニメーターになろうかなって。でも、そのためにはアニメの事を知らないとだし、だから、アニメに詳しい藍戸辺(あいとべ)君に教えて欲しいなって思って。」

こちらの目を見て真剣に語る遠田を見て、思わず固唾を飲む。彼女は夢を目標を見つけたらしい。

「そうか、アニメーターについては難しいがアニメについてなら任せてくれ。明日、おすすめのアニメを何個かまとめてくるよ。」

そういうと、彼女はとても嬉しそうに微笑む。

「ありがとう。」

「とりあえず、今日はここら辺で。また明日の放課後でもどうだ?」

「うん、分かった。今日はありがとね。藍戸辺(あいとべ)君。」

「ああ、こちらこそ。気をつけてな。」

時刻は5時を過ぎた頃。俺はどんなアニメをおすすめするか考えながら帰路に着いた

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藍戸辺比嘉というオタクの物語(仮) 野内ラス @thy

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