第105話 異世界で新年を祝う

「もうすぐ年が変わるけど、ララベル。この世界では、新年にお祝いすることがあるのかな?」


「新年にパーティーを開くのが習わしだな。王家や貴族の家なら、かなり豪勢な料理やお酒が出る。客を呼ぶから、見栄を張る必要があるので贅を尽くす家が多い」


「王族や貴族らしいね」


「家族総出でパーティーの参加者を迎え入れるのだが、私は『新年早々お前の顔を見たら客が不快になるから顔を出すな!』と兄に言われ、参加したことはないが」


「……」


「ララベル様、私も同じですよ」


「オレもだぜ。家族にも婚約者にも、『お前が新年のパーティに出ると、酒と飯が不味くなる!』ってさぁ」


「リトルウォーターヴィレッジは貧しいので、新年の宴は最低限のものしかしていませんでした。私は参加したことがありませんけど……。『お前に新年なんて関係ない! 獲物を沢山狩ってこい!』って……」


「……今年は豪勢なパーティーを開催するぞ! 『ネットショピング』で沢山買い物をしないと! あっそうそう! 私の世界では新年にお寺や神社にお参りに行くんだ。それを初詣って言うんだけど、この世界では年明けに、教会に初詣に出かけないのかな?(ふう……話の切り替えに成功した!)」


「ハツモウデ? 新年だから行くというものではなく、可能な限り教会に行くのが信者の義務というか……。タロウ殿の世界では、そんな慣習があるのか」


「新年に行くなどの決まりはなく、可能な限り教会にお参りに行くのが信者の務めと言われていますけど、努力目標ですね。教会にお金を預けている人は、お金を出し入れするついでに礼拝はするものです。タロウさんの世界だと、新年に教会にお参りに行くんですね」


「それを初詣というんだよ。私はこの世界の教会の信者じゃないから、詳しい事情はよくわからないけど、私のいた世界では、新年になったらお寺や神社にお参りに行くのさ」


「テラとジンジャ。マリリン様とウリリン様が神殿に置いている神具が置かれている、タロウ様の世界の神殿ですね」


「タロウの世界って、いくつも宗教があるんだな。よく争いにならないな」


「争いにはなってるけどね。人間というのはなかなかわかり合えないものだから」


「世界が変わっても、人間はなかなかわかり合えないんですね」


「フラウの言うとおりさ」





 私がこのグレートデザートに飛ばされてから、初めて年が明ける。

 グレートデザートでは、日本みたいに大みそかに年越しそばを食べたり、新年に初詣に出かけ、おせち料理を食べる風習は存在しないようだが、新年に可能な限りのご馳走を用意してパーティーをするそうだ。

 可能な限りなので、多くの来客があるので贅の限りを尽くす王族、貴族、金持ちと、できる限り豪華な料理を用意する平民との間には、決して超えることができない壁があるのだけど。

 ただ私は、南西諸部族連合の大族長にして、特殊なスキルである『ネットショッピング』を持っているので色々と買い物ができる。

 まだ年は開けていないが、新年パーティーで食べる食材やお酒を大量に購入し、万全の態勢で臨んでいた。


「うほほいゴリ!  有機無農薬栽培の超高級バナナが食べ放題ゴリ!」


 ただ、この移動都市の管理人……人ではないか。

 電子妖精であるゴリマッチョだけは、せっかく用意した本マグロ、イクラ、ウニ、伊勢エビ、カニ、アワビなどの豪華海鮮などには目もくれず、バナナだけを食べていた。

 お餅は自分たちで作ろうと思って臼と杵も購入したのだけど、試しに高級品のお餅を食べてみたらとても美味しかったので、結局倉庫の肥やしになってしまった。

 やはり餅は餅屋。

 プロに任せるのがいい。

 他にも高級オセチ料理、松坂牛など選りすぐりの高級和牛、高級フルーツ、豪華デザート、その他お菓子、ジュース、お酒等々。

  せっかくの新年なので、大量に購入して準備を整えている。

 もし余ったら、サンダー将軍たちに配ればいいから無駄にはらないだろう。

 これらの高級食材にはまったく興味を持たず、いつもどおりバナナを大量に食べていた。

 安上がりでいいけど。


「乾杯! いやあ、このお酒は実に美味いですな」


 今日は仕事納めということで、自宅に帰る前のサンダー将軍たちに高級シャンパンを振舞った。

 日本でも古い会社だと、仕事納めにお酒で乾杯することがあるので、それと同じようなものだ。

 私をそれほどお酒に詳しくないのだけど、高価なお酒を手あたり次第に購入しておいたので、栓を抜いて、やはり『ネットショッピング』で購入したクリスタルグラスに注いでいく。

 『ネットショッピング』で購入できるお酒の転売はとても儲かるし、サンダー将軍以下軍人たち、 シュタイン国務大臣以下文官たちに振舞うととても好評で、砂漠エルフたちへの贈り物としても大人気だった。

 

「大族長、こんなに洗練されていて美味しいお酒は飲んだことがないが、いくらで購入したんです?」


「ええと、二百万イードルクくらい」


「たまげましたな。これ一本で、バート王国軍の兵士の年収と同じですか。まさに王侯貴族ですな」


「バート王国から南西諸部族連合に鞍替えして正解でしたな」


「そんな理由で先祖代々仕えていた国を脱出したと公言するのはどうかと思いますが、確かにこのお酒は凄い」


「大族長が用意するお酒は、安酒でもバート王国では高く売れますからね。どうにかこのレベルのお酒を、このゴリさんタウンで作れるようになるといいのですが……」


 シュタイン国務大臣、ネルソン運輸船舶大臣、シップランド商務大臣も、シャンパンが注がれたグラスを片手にご機嫌だった。

 この世界のお酒ではどうしても、現代地球の醸造技術を用いたお酒に歯が立たなかったからだ。

 もっともシップランド商務大臣は職業柄、どうやってこの世界でこれと同品質のお酒を造るか、思案に耽っていたけど。


「お土産に一本ずつ渡すので、新年ぐらいは家族のもとで過ごしたらどうです?」


「そうですね。これから我々もますます忙しくなるでしょうし、新年ぐらいは家族と羽を伸ばすとしましょうか」


 サンダー将軍たちが、私から貰った高級シャンパンの瓶を両手で恭しく両手で持ちながら家族が住む屋敷へと戻ったあと、時計を見るとあと一時間ほどで日付が変わり、新年を迎える時刻となった。


「年越し蕎麦を食べよう」


「タロウ殿の故郷の風習だな。このソバという麺は実に美味しい」


「ソバにのっているテンプラも美味しいですね」


「あっ、それ。私が揚げました」


「フラウは本当に料理の腕が上達したなぁ。エビ天うま」


 みんなで年越し蕎麦を食べる。

 蕎麦には大きなエビの天ぷらがのっており、これはフラウが揚げてくれたものだ。

 彼女は日本語の上達が早く、『ネットショッピング』で購入した料理本を参考に、私の故郷の味をほぼ作れるようになっていた。


「美味いゴリ」


「ゴリマッチョ、珍しくバナナ以外の食べ物を……うげっ!」


「オッサンも食べるゴリか?」


「いや……いい……」


 ゴリマッチョは、温かい蕎麦ツユの中にバナナを入れたものを食べていた。

 どう見ても美味しそうじゃないのに、ゴリマッチョは大喜びで食べている。

 当然だが、私ばかりでなくララベルたちも引いていた。


「美味しいゴリよ」


「ゴリマッチョが満足してくれてよかったよ」


 ゴリさんタウンは、ゴリマッチョが適切に管理することで機能が維持される。

 さらに今では、南西諸部族連合の統治もかなりの部分ゴリマッチョに頼っており、彼が機嫌よく仕事をしてれるのなら、大量のバナナぐらい安いものだ。

 私たちは、蕎麦ツユに浸ったバナナだけはゴメンだけど。


「ふう、ご馳走様」


「タロウさん、美味しかったですね」


「そして、もう年が明けているぜ」


「あっ、本当だ」


 アイシャに指摘され、すでに日付が変わっていることに気がついた。


「明けましておめでとうございます」


「タロウ殿の世界の新年の挨拶か。明けましておめでとう」


「タロウさん、今年もいいことがあるといいですね。あけましておめでとうございます」


「私がタロウ様のお嫁さんになるまであと二年。明けましておめでとうございます」


「今年はタロウと子供ができるといいな。オレ、婚約者に捨てられた時、もう結婚はできないって思ってたからさ。ララベルも、ミュウも、フラウもそうだろう?」


「子供かぁ。兄にトドメを刺せなかったが、あれだけの損害を与えるはしばらく動けないだろう。南西諸部族連合は時間があればあるだけ国力を増せるから、私も子供が欲しいな」


「いいですよね、子供は可愛いですから。是非欲しいです」


「それなら、タロちゃんの世界と同じく初詣をするのがいいの。このゴリさんタウンでは、初詣を慣例行事にしてほしいの」


「それはいいですね。是非私たちの神殿に初詣に来てください」


 朝九時~夕方五時、週休二日という勤務体制を頑なに守り、神殿に通勤する時間以外は私たちのお屋敷で人間と同じように暮らしている海の精霊マリリンとウリリンは、フラウが作ったエビ天蕎麦の大盛りを食べながら、新年は自分たちの神殿に初詣に来るようにと言い始めた。

 この世界の教会に初詣の習慣はないから、私の話からや、最近フラウのように『ネットショッピング』で日本の書籍を買って……主に漫画だけど……楽しんでいるので、そこからの知識らしい。


「それはいいんですけど、初詣した神殿にマリリンとウリリンがいないと意味がないような気が……」


「安心してなの」


「これから出勤します!」


「「「「「ええっ!」」」」」


 普段はワークバランスが重要で、夜に働くなんてもってのほか、とよく口にしているマリリン……ウリリンはあまりそういうことは言わないけど……が、夜に神殿で仕事をするなんて……。

 私たちにそこまで初詣をしてもらいたかったのかと、思わず驚きの声を上げてしまった。


「ぷはぁ……オソバ美味しかったの。ウリリン、仕事なの」


「みなさんも一緒に神殿に向かいましょう」


 年越し蕎麦を食べ終わったマリリンとウリリンを先頭に、私たちは屋敷を出て神殿へと向かった。

 日付が変わったばかりで街中は暗かったが、ミュウが『ライト』の魔法で照らしてくれるので問題なく歩ける。


「じきに、電灯が使えるようにする予定ゴリ」


 私たちについて初詣に参加するゴリマッチョが、もう少ししたら夜にゴリさんタウンの主要部にある街灯を照らす予定だと教えてくれた。


「修理はもう終わっているんだろう?」


 街灯は、元々移動都市に完備されていた。

 修理はゴリマッチョが済ませているはずなのに、そういえばまだ街灯が灯っていないのはどうしてだろう?

 疑問に思ったので本人に聞いてみた。


「今、人が住んでいる場所だけ街灯を灯せるように、配線と送電システムを弄っているゴリ。人がいないところを照らしたところで電力の無駄ゴリ」


「なるほどな。確かに電気は節約しないと」


 電気はゴリさんタウンの中心部にある核融合炉で大量に作られているが、他に使い道がいくらでもあるので、無駄遣いはしないに越したことはない。

 移動都市には、現代日本には存在しない高性能な大容量蓄電池も存在するから、常に電力が供給される核融合炉とはいえ、夜中に無理に電気を使うことはなかった。


「綺麗……。神殿が見事にライトアップされているの」


「綺麗……。神殿を管理する精霊としては大いにやる気が出ますね」


 神殿が見えてきたが、ライトアップされていてとても綺麗だった。

 実はマリリンとウリリンに頼まれて、『ネットショッピング』で購入した電飾を神殿に飾り付けておいたものなのだけど。

 誰もいないので電気がついていないと思ったのに、ゴリマッチョが電気を流してくれたようだ。

 二人は、ライトアップされた神殿を見て感動していた。


「ところでタロウ殿、ハツモウデとはどうするのだ?」


「いつもどおり、神殿で祈るだけだね。新年最初に詣でるから初詣なわけで。新年最初だから、お供え物は奮発した方がいいかな」

 

 私たちは、神殿に『ネットショッピング』で購入したお酒とお菓子をお供えし、お参りをして初詣を終わらせた。


「すぐに終わってしまいましたね。タロウさんがいた世界でも、ハツモウデはこれだけで終わりですか?」


「もっといっぱい参拝者が来るから混んでいて、お祈りできるまで時間がかかることが多いかな。あとは、神社やお寺を管理している人たちが参拝客にお酒を配ったり、お守り、お札、破魔矢、御朱印などを販売したり、神職の人にお金を払って個別でお祓いをしてもらったり、神殿の敷地内で屋台が出たりして盛り上がるんだけど……」


 やっと神殿の管理を手伝ってくれる人が一人できた状態なので、日本のお寺や神社みたいに初詣の準備をすることは不可能だ。

 そもそも神殿の主たるマリリンとウリリンが、これから一眠りしてから開催しようと思っている新年パーティーも欠席するわけない。

 神殿に祀られている精霊がお休みなのに、ゴリさんタウンの住民たちに初詣を強制するのはどうかと思うのだ。


「みんな、祈りは終わった? じゃあ帰るの」


「年明け、神殿に参拝に来る人たちのため、新年から働くつもりはないのか?」


「ないの。新年くらいはみんな休むの。参拝はそのあとでいいの」


「参拝客が来ると、私たちも休めませんからね。新年休み明けでいいと思います」


 本来年中無休の精霊なのに、お正月はきっちり休むと宣言するマリリンとウリリン。

 初詣の準備を手伝ってくれと言われると面倒なので、私たちはお参りは済ませたことだし、お昼に始める予定のパーティーに備えてひと眠りするとしよう。






「「「「「「「「乾杯!」」」」」」」」


 年を越して簡単な初詣を済ませてから一眠りした私たちは、お昼頃からパーティーを始めた。

 屋敷のホールには『ネットショッピング』で購入した多くのご馳走が並び、みんなで乾杯してからそれぞれ好きなものを食べ始める。


「このグレートデザートでは貴重な魚がとても美味しい」


「ララベル様、脂ののりもいいですね。この大きなエビの身は甘くてプリプリですよ」


 ララベルとミュウは、ホンマグロと伊勢エビのお刺身を堪能していた。

 前世の私のサラリーでは購入量に著しい制限が課せられる高級品だが、今ではいくらでも購入できる。

 私も生ホンマグロのお刺身を食べるが、脂がトロけて最高に美味しい。

 

「中トロも大トロも、とろけるような美味しさだな。年を取ったから大トロの脂がクドいのではないかと心配だったけど、そんなこともなかった」

 

 これも、このグレートデザートに飛ばされてから体を鍛えてレベルを上げたおかげかもしれない。

 見た目以上に肉体年齢が若返っているのだろう。


「しかしながら、白身のヒラメとタイも美味しいなぁ」


 しなしながら私も年を取ったので、白身の魚の美味しさも理解できるようになっていた。

 『ネットショッピング』で購入した豪華お刺身盛り合わせだが、この世界ではどれだけ大金を積んでも購入できない最高の贅沢だろう。

 

「生の魚の身なのに全然生臭くなくてうめえ。切り方も綺麗だな」


「オサシミは、私が切りました」


「フラウ、上手じゃねえか」


「タロウ様に『ネットショッピング』で買ってもらった調理用の包丁がとてもよく切れるんです」


 私たちの料理を作ってくれることが多いフラウのため、『ネットショッピング』でとても高価な包丁や調理用ナイフ、他にも様々な調理器具を購入したけど、しっかり使いこなしているので道具も本望だろう。


「タロウ様、ご飯も炊けていますよ」


「それはありがたい」


 丼にご飯をよそってから、その上にお刺身や、イクラ、ウニをのせて豪華海鮮丼を作る。

 フラウがお味噌汁も用意してくれたけど、出汁と具はお刺身を取ったあとの伊勢エビの頭だったので、これは二重の喜びだ。


「伊勢エビの頭の身をほじって食べると、ミソの部分は濃厚で、身も素晴らしい美味しさだ。ウニも甘いし、プチプチなイクラも最高!」


「タロウ様、タロウ様の世界では、多くの平民たちがこんな新年を過ごしているんですね。このグレートデザートとは大違いです」


「全員がここまで贅沢に新年を祝っていないけど、一年に一度くらいはいくつかの高級食材を購入できることは事実だね」


 それを考えると、現在日本というのは悪くなかったのかもしれない。

 ララベルたちと暮らしていると色々あって楽しいから、つい日本での生活を忘れてしまうことが多いのだ。

 そしてそれが悪いことだとは思っていない自分に気がつきつつある私だった。


「私の故郷の村では、新年になってもせいぜい砂大トカゲのお肉が多めに食べられるくらいでしたから」


「この世界は砂漠だらけだから、どうしても食べる物のレパートリーが偏ってしまうんだろうな」


 砂獣の肉はかなりの量が手に入るから、実はグレートデザートで飢え死にする人は少ないと聞いている。

 だがとても暑くて乾燥しているので住みづらいし、農作物と畜産物の生産量が少ないから、平民ほど食べられる料理のレパートリーが非常に少ないという欠点があった。

 もし『ネットショッピング』がなかったら、私も毎日同じようなものばかり食べていた可能性が高い。


「順調に砂漠は減少しつつあるし、農地の開発も進めているから、じきに誰もが気軽に色々な食べ物を食べられるようになるはずだ」


 野菜や果物は種や苗が『ネットショッピング』で購入できるので、砂を『ゴミ箱』を用いて取り除き、やはり『ネットショッピング』で購入した肥料と土壌改良剤を用いて農地を開発しているところだ。

 野菜と果物はそう遠くない未来に生産量が大幅に上がるはず。

 魚は……マリリンとウリリンが、どれだけ早く極南海を海洋生物が溢れる海にできるかどうかにかかっているけど。


「一日も早く、極南海を豊かな海に戻したいから、これからもちゃんと定期的に神殿にお参りに来てほしいの」


「精霊も崇拝されることで力が増しますから。少し前までは私たちをブサイク呼ばわりしていたものだから、力が落ちてしまっているんです」


「……知らないって怖いなぁ」


 マリリンとウリリンをドブス呼ばわりして邪険にしたばかりに、中央海が枯れ果ててしまったことを、バート王国のみならず、この世界の人間たちは誰も気が付いていないのだから。


「今日は新年なので楽しみましょう」


「高級フルーツジュース美味しい」


「ウリリンはお酒が苦手だものね。私は、高級ワインで乾杯なの。タロちゃんの故郷では、見ていると目がグルグル回りそうなお菓子を食べるのね」


「マリリン、それは伊達巻っていう料理だから」


「でも、甘くてお菓子みたいで美味しいの。黒い粒も甘くて美味しくて、ワインにぴったりなの」


「これ、よく伸びて美味しいです。黄色い粉も甘くて美味しい」


 みんなそれぞれに、日本のお正月によく食べられる料理やお菓子、お酒、飲み物を楽しんでいた。

 しかしマリリンは、本当におせち料理の黒豆とワインが合うと思っているのかな?

 一方、お酒は飲まないウリリンは、きな粉餅を美味しそうに食べていた。

 

「そういえば、肉もあったんだ」


 新年といえば、お高いお肉ですき焼きをする人が多いのが日本人だ。

 だからお店でも値段が高い豪華なお肉を販売するし、『ネットショッピング』でも普段以上に色々と売っていたので、すき焼き用と焼き肉用のお肉を大量に購入していた。


「お肉を煮ますよ」


「「「「「「おおっ!」」」」」」


「あっ、お構いなくゴリ」


 私たちは、昭和時代の子供みたいにフラウが作る関西風すき焼きを眺めていた。

 バナナしか食べないゴリマッチョは、マイペースで高級バナナを食べ続けていたけど。


「ショウユも、ちょっと奮発しました」


 スーパーでお買い得な醤油ではない、老舗の醤油倉が手間暇かけて作った高価な醤油をフラウは購入していた。

 普段は普通の醤油を使っているけど、新年くらいはお高い醤油を使うのも悪くないと思うのだ。


「まずは牛脂をよく焼いて、すき焼き鍋に脂をコーティングします」


「フラウ、その作業になんの意味があるんだ?」


「お肉を焼いても、くっつきにくくなるんですよ」


「へえ、そうだったんだ」

 

 アイシャが感心するなか、フラウは大量購入した松坂牛をすき焼き鍋に広げ、そこに醤油と砂糖を振りかける。

 関東風の割り下で煮るすき焼きではなく、関西風の焼くすき焼きだ。


「お肉が焼けましたよ」


 焼けたお肉を溶き卵に浸して食べると、お肉が甘くて柔らかくて天にも昇る味だ。

 当然だが、生卵も『ネットショッピング』で購入したものだ。

 この世界の卵は大半が砂獣から手に入るものだし、暑いのですぐに悪くなってしまう。

 生食には向かなかった。


「砂獣の肉もいいが、畜産のお肉もいいな」


「タロウさん、いつかこのグレートデザートでもこういうお肉が作れるようになったらいいですね」


「肉、うめえな。すげえ柔らかいぜ。砂獣の肉は、硬いのが多くてな」


「最高に美味しいの」


「お肉も焼きますね」


 『ネットショッピング』で購入したバーベキュー台と炭を用いて、高級和牛肉を焼き始めるフラウと、それを手伝いながら焼き肉も堪能するみんな。

 野菜も焼くと、品種改良された日本の野菜はとても好評だった。

 

「ネギ塩も購入しているので、タンはこれとレモン汁で食べると美味しいよ」


 やはり焼き肉といえばタンだ。

 少々高かったが、新年くらいは贅沢しないと

 砂獣狩りや、『ネットショッピング』で購入した商品をバート王国に転売して莫大な利益をあげているので、このくらいの贅沢は全然問題ないのだけど。


「砂獣の舌も食べなくはないが、硬いからモツと共に平民が食べるものとされている。だが、これはとても柔らかくて美味しい」


「スキヤキのお肉もそうですけど、お肉に白い脂がマーブル模様のように入っていて、とても柔らかくて美味しいです」


「砂獣で、こういうお肉を見たことがないですね」


「畜産農家が、こういうお肉になるように手間暇かけて育てているからね」


「凄いですね。タロウさんの故郷って」


「お肉、美味しいです」


「フラウは沢山食べて大きくならないと」


 故郷の村にいた頃は、フラウが命がけで砂獣を沢山狩っていたのに、ほとんど取り上げられてあまり食べられなかったと聞いた。

 狩猟なんてしないあの幼馴染のセーラが肥え太っていたので、そんな予感はしていたけど。


「タロウ、ハラミも美味いな。これ、内臓肉なんだ」


「確か、牛の横隔膜だったはずだ」


「レバーは肝臓で、シマチョウは大腸で、ヒモは小腸、ハチノスが胃か。タロウの故郷って、内臓肉も丁寧に扱うんだな。全然臭くないぜ」


 砂獣を狩ると肉が最優先だし、町に持ち帰るまで炎天下に置きっぱなしにされることも珍しくない。

 炎天下に置かれた砂獣は内臓から悪くなっていくので、砂獣の内蔵は安く取引される。

 農地が少ないので穀物、野菜、果物の方が高く、内臓肉は貧しい人たちの貴重なタンパク源であった。

 なのでお金に余裕がある人ほど、砂獣の内臓肉を嫌う。

 でも、『ネットショッピング』で購入した和牛の内臓肉は臭くないので好評だった。

 その代わり、いいお値段だったけど。


「なにを食べても美味しい。最高の贅沢だな」


「今年も頑張ろうって思えますよね。この国のため、タロウさんの世界にある電気で動く便利な道具を魔力で動くように改良、生産して販売できるようにしたいです」


「私ももっとレベルを上げて、頑張って色々な料理を覚えます」


「オレは砂獣を沢山狩るのと、砂上船の経験を生かして水上船の操船もしっかりと覚えるぜ」


「みんな、神殿で私たちを祈れ、なの」


「きっとご利益がありますから」


「バナナ、美味しいゴリ」


 精霊二人と電子精霊の新年の抱負が微妙だけど、今年もみんなで楽しく暮らせたらいいかな。

 バート王国の様子は気になるけど、この前戦で散々に撃ち破ってすぐに攻め込んでくる余裕もないし、これからも『拠点移動』を用いて『ネットショッピング』で購入した品を高額で売り捌いて金を吸い上げ続け、バート王国の国力を上げないようにしないと。







「……どいつもこいつも! 余に反抗的な貴族たちの領地を占領してみたら、ほとんど蓄えがないとはどういうととなのだ?」


「それが……このところ、商人が他国から魅力的な贅沢品を持ち込むことが多かったそうで、それの購入に充てられたとか。贅沢のしすぎで商人に借金がある貴族も少なくなく、商人がバート王国にその返済を求めてきております」


「どうしてバート王国が、そんなものを払わなければならないのだ?」


「借金は、その貴族の領地を継承する王国が払うべきものだと。実際、法律に照らし合わせると、バート王国に支払い義務があるのです」


「うぬぬ……。そのようなバカ貴族が贅沢するために作った借金をバート王国が支払う義務などない! 支払わないと言え!」


「陛下、それは難しいかと……」


「なぜだ?」


「バート王国が借金を返さない前例を作りますと、どの商人もお金を貸してくれなくなります。そうなると、かなり不都合が生じるかと……」


「……支払ってやれ!」


「畏まりました」


 これから世界制覇を目指すバート王国としては、商人を敵に回すわけにいかない。

 だが、お金に汚い商人風情が覚えているがいい!

 余がこの世界を統治するようになったら、必ず取り返してやるからな!


「余に散々偉そうなことを言っておいて、貴族たちはこの様か。自分の財布と家と領地の財政の区別もつかぬ愚か者共が!」


「彼らは長年、誰もチェックも受けないままオアシスの領地で好き勝手やれましたからな。節制ができぬ者も一定数います」


「多くの貴族たちの領地を奪い取り、代官を送って直轄地化したのはいいが、王国の国庫が寂しくなってしまった。大体、余たちが国のために戦争していた時に、借金までして贅沢だと! しばらくは、貴族たちに贅沢を禁じる命令を出す! あと戦費も足りない。ハンターたちの王国軍加入を促進するため、フリーのハンターたちの税を九割とするのだ」


「畏まりました」


 これで、余が自らが差配するバート王国はさらに大きくなるだろう。

 再び戦力を整えたら、必ずや南西諸部族連合を名乗る叛徒共を討伐し、バート王国の領土をすべて回復させる。  

 そして、余に逆らったさえない『変革者』よ。

 必ずお前を殺し、余のためになる新しい『変革者』を召喚し直すのだ!

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砂漠だらけの世界で、おっさんが電子マネーで無双する Y.A @waiei

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