走れ、サンタクロース

 サンタクロースは激怒した。必ずクリスマスを爆破しようと思った。もう嫌だ。我慢の限界だ。まず、世界中の子どもから届く手紙、これが問題だ。生意気になりすぎている。世界が欲しいと言われて地球儀を贈ったら壊された。「うちの子は世界を支配するロールプレイングゲームが欲しかった、サンタは何もわかっちゃいない! せっかくうちの子ががんばって手紙を書いたのに!」こんな手紙をいくつも貰った。親も問題なのだ。去年のクリスマスの朝には、モンスターペアレントからクレームの電話が鳴り響いた。トナカイまで駆り出して電話対応に追われた。サンタクロースには今のおもちゃがわからぬ。今の子どもが欲しがるのはカードやゲームや化粧品ばかりだ。ゲームなんて、あんなの、サンタクロースに言わせればピコピコだ。よろしくないおもちゃだ。


 クリスマスを爆破といったって、2000年前に戻ってイタズラするようなことはできない。2013年、タイムマシンはまだ開発されていない。どうすれば自分が贈り物を届けなくても良い世の中になるのだろうか。本当に爆弾を届けてしまおうか? サンタクロースは考えた。まず、敵を知ることだ。サンタクロースははじめて黒いスーツを着た。ぱつぱつだった。一番の相棒トナカイも黒いスーツを身にまとった。そして一人と一匹はサングラスを手に、クリスマス爆破計画のために偵察に向かった。


 12月22日のことである。向かった先は既にクリスマス一色だった。雪の降る中でもぴかぴかの明かりが飾られて、街行く人々もどこかそわそわと楽しげだ。サンタクロースは、はじめて世界各地のクリスマスの前を、ゆっくりと見てまわった。町はどこも幸福なぬくもりで溢れていた。一人と一匹は、町の人たちに暖かいもてなしを受けた。彼らは思った。知らなかった! クリスマスが、こんなに素晴らしいものだったなんて!


 やっぱりクリスマスにはサンタクロースがいなくっちゃ。彼らがプレゼントを届けにこなければ、クリスマスは子どもたちにとって不幸なものになってしまう。サンタクロースとトナカイは慌てて家に帰ることにした。グリーンランドまで競争で走って、家の中に転がり込んだ。そして22日の夜からみんなで徹夜でプレゼントの袋詰め作業をして、クリスマスイブに間に合ったのだった。メリークリスマス!



お題:幸福なぬくもり

必須要素:クリスマス爆破計画

制限時間:30分だった気がする

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おさかな即興小説 おらり @aur_rit

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