善いも悪いもリモコン次第なら……

@HasumiChouji

善いも悪いもリモコン次第なら……

 おかしい……何故、あいつが、この国に居る?

 私の祖国であるC国で、私達「民主派」を弾圧し続けてきた奴が……。

 私は、反射的に逃げ出した。

 そして、ある事に気付いた……。

 と言うより、何故、今まで気付かなかったのか?

 以前、このA連邦の首都であるW市の住民で一番多いのは……アフリカ系だと聞いていたのに、今まで見掛けたのは白人ばかりだ。

 そして、この町で初めて見掛けた白人以外の人種の人間は……よりにもよって「あいつ」だったのだ。

 慌てて、近くの喫茶店に飛び込むが……。

「な……どうなってる?」

 誰も居ない。客も店員も……。


 あたしはデモの様子をスマホで撮ってSNSにUPしようとした……。

 けど、次の瞬間、スマホの画面に表示されたのはエラーメッセージ。

「もう、あそこには写真はUP出来ない」

 デモに参加していた名前も知らない誰か……多分、あたしより若い子が、そう言った。

「大統領令に抗議して……今朝、サービスを停止したらしい」

「そ……そんな……」

 「テロ」対策の名目で発令された大統領令。

 そのせいで……主要なSNSには連邦政府職員がダイレクト・メッセージや鍵アカウントの投稿内容を見る為のバックドアの設置が義務付けられた。WEBサイトの開設には連邦政府の許可が必要になった。ゲームやスマホアプリのチャットや掲示板機能でも、特定のワードが使われた場合には政府機関へ連絡を入れる機能を実装する必要が出て来た。

 あたしたちは、その大統領令に抗議するデモを何回か行なったが……今後もデモが出来るかは判らない。

 大統領は、1つ、また1つと……あたしたち若者が、ネット上で政治活動をする手段を潰していこうとしていた。


 私は、祖国であるC国から、このA連邦への亡命を手助けしてくれたNGOの事務所にやってきた。

 そうだ……この国で、私の「知人」と呼べるのは彼等ぐらいしか居ない。

 ビルに入り、事務所が有る階に行ってみると……何も無い。そして、誰も居ない。

「どうなってるの?」

 私は崩れ落ちた。

 一体、何が起きているのだ? 本当にここはA連邦の首都のW市なのか? そもそも、ここはA連邦なのか?

 恐怖と暑さの余り、汗がダラダラと流れ……鼓動が高まり、その場に膝を付いた。

 更に、この町について奇妙な事に気付いた……。白人以外の人種だけではない……。子供も見掛けない。

 それに……今日は祭日の筈なのに、町で見掛けたのは、ビジネス・スーツ姿の人達ばかりだ。

 そして……この季節、この緯度にしては暑過ぎる。

「私には夢がある」

 その名言を残した人物の記念日に……私は悪夢のような不条理な状況に囚われていた。


「催涙ガス弾を撃て」

 警官隊の指揮官は僕にそう命令した。僕たちが「鎮圧」しようとしていたデモの参加者の多くは……ボクと同じ位の年齢としの若者だ。

「ですが……」

「撃て。命令だ」

「了解」

 僕は銃を構え……。

「おい……ブリーフィングの時に寝てたのか、若造?」

「えっ?」

「今回の出動では、特に指示が無い限り、

「ちょ……ちょっと待って下さい……」

「質問は後だ。


 どれだけ逃げ続けただろう?

 一体、私はいつから騙されていたのだろう?

 砂漠の真ん中に、ぽつんと有る町。信じられない事に、そこが今まで私が居た場所だった。

 まるで……そう……まるで……。

「まるで映画のセットだ……。そう思いましたか?」

 背後からヤツの声がした。

「だとしたら正解です。ここは〇〇ゼロゼロ年代に映画撮影用に作られた『町』なんですよ」

「私の負けのようだけど……せめて、どうなってるか説明してもらえますか?」

「ああ、この国の大統領が『テロ』の取り締まりの為に、我々が貴方達を取り締まってきた方法を参考にしたいと言ったらしくてね……。そして、取り締まられる側と、取り締まる側の両方から事情を聴く事になった。我々としても、貴方を確保出来る上に、貴方の仲間を取り締る方法を改善する為の情報が手に入るので、悪い話じゃなかった」

「ど……どう云う事?」

「判りませんか? 例えば、貴方達が我々の目を逃れてネット上で連絡を取り合うのに使っていた手段は、『テロリスト』達がネット上で連絡を取り合うのにも有効な手段と成り得る。一時が万事、そんな感じで、政治的な価値観を全て排してな目で見てみたら、貴方達『民主運動家』と『テロリスト』のやってる事は、極めて良く似てるんですよ」

「そ……そんな……」

「では、帰りましょうか……へ。諦めなさい。いずれ世界中のほぼ全ての国が、私達の祖国のような社会に変る。次の時代に世界の覇者になるのが、どの国かは判らないが……次の時代に世界を征服するのは、私達の祖国の価値観だ。では、祖国で、ゆっくりとしてあげましょう。理想ゆめを見ている若者を卒業して、私達のようなになれるようにね」

 ……I lost my dream.

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