荒削りながら、情熱を感じる意欲的幕末伝奇アクション!

 新撰組副長・山南敬助といえば意外とその出自や新撰組での活動、収めた流派などの情報が曖昧な歴史人物。そんな山南敬助の本名が真門(まさかど)敬助で、「将門流陰陽術」の使い手だったら……? という大胆な発想の作品です。

 歴史人物を召喚して漂白された人類史を取り戻すソーシャルゲームで「山南敬助」が実装され、山南さんの名前に惹かれてやってきたら「聖杯争奪! 新撰組・山南敬助VS魔人・天草四郎!」ととんでもないキャッチコピー。

 こいつはトンチキB級アクションだな~ゲハハハハ! と意気揚々と読み始めると、意外とトーンはシリアス。しかしセックス! バイオレンス! グロテスク! で攻めていく由緒正しい伝奇物という感じです。
 それでも、最初のうちは山南さんが呪文を唱えたり式神を飛ばしたりすると、雰囲気が急激にファンタジー寄りになるので振り幅が大きいですね。

 最後の方では八話ぐらいずっと戦っていて、衝撃波でどっかんどっかん吹き飛ばされまくるし、五体のうち穴開いてない所もうないんじゃないのという有様ですが、禹歩反閇したり、聖獣を召喚する山南さんは「これが読みたかったんだよ!」とペンライト振りたくなりました。

 ただ本作、「新撰組もの」を読みたいと思って手を出すと、ちょっと難しいかなという悩ましさがあります。土方歳三まわりは「このころ新撰組は(史実的に)どうしていたか」という説明に留まる印象。でも歳さんがしゃべるシーンは全部好きです。毎回のように男前描写も入るしね!
 近藤さんはちょっと出番あるのですが、原田左之助や永倉新八、山崎丞はチョイ役。斎藤一にいたっては「あいつこの間見たよ」と思わせぶりな言及をされただけで、特に出番が回ってくることはありませんでした……。
 特に、出番はあるけれどとことん冷遇されているのが沖田総司! けっこう人気キャラのはずなんですが、こういう扱いをしてくるとは意表を突かれましたね……。

 そして「新撰組もの」としてオススメできない最大の理由が「葛城柔志狼」です。よろず荒事屋(という肩書きもかなり後半で出て来る)で、謎の気功術で沖田を軽くあしらったり、化け物をぶっ飛ばしたりし、最終的に山南さんと共同戦線を張るというほとんどW主人公の立ち位置。
 念のため検索しましたが、やはりオリジナルキャラクターのようで……彼を受け容れられるかどうかで、本作の評価は大いに分かれることでしょう。

 キャラクター配置には色々論を待ちたい所ですが、本筋となる陰謀は何と織田信長の死から始まる壮大なもの。天草四郎(天羽四郎衛門)が終始敵として立ちはだかるのですが、その彼すらもまた因果に絡め取られ……
 最後に出て来た童たちといい、「聖月杯」についてはまだまだ謎は残り……最後まで楽しませていただきました。