ただの青春初恋物語では終わらない、生々しい肉の描写
- ★★★ Excellent!!!
告白の結果見事に玉砕した高校生の少女が、その恨みからついやってしまった小さな復讐と、その後の顛末の物語。
全体を通じて、というかただお話の筋そのものを見たなら、思春期の少年少女の甘酸っぱい恋物語です。なのですけれど、でもただそれだけでは終わらないというか、所々に癖の強いフックが仕込まれているから侮れません。どの辺が、というとまあいろいろあるのですけれど、特にはっきり大きなところを二点挙げると、まずはこのお話が復讐という後ろ暗い行為から始まっている点、そしてもうひとつは予想以上に高火力だった性描写です。
冒頭から行われるえげつない行為。級友らの集まるSNSにおいて、とある男子に対する事実無根の悪評をばら撒く、という嫌がらせ。動機は復讐であり、主人公の少女『海野』はつい最近、先述の男子『真夏』に告白して玉砕していたのだった、というお話の筋。
なかなかにえぐみの強い滑り出しで、でも動機が逆恨みによる復讐であることが見えてくる段になると、それなりに共感……はしないもののでも「あー」となるというか、まあそんなこともあるよねとゴニョゴニョしちゃうような感覚。他人のしたことと思えばひどいとしか言いようがないんですけど、でも「もしこれが自分のやらかしたことだったら」と思うといろいろ言い訳できちゃいそうな感じ。やってることは陰湿な陰口で、それも身も蓋もない下ネタが飛び交う有様、恋愛劇をやるのに(これは読後だからわかることですが)いきなりこんなところから入ってくるわけですから、もうそれだけでいろいろ打ちのめされたような気分になります。
その上で、というかその流れのままに一気に畳み掛けるかのような、予想外の性描写。詳細は述べませんけど、強いです。半ば混乱するくらいの生々しさ。ある種のグロテスクさすら感じるくらいで、いやそもそも人の肉欲自体にグロテスクな側面があるといっても、しかしなにより凄まじいのはそれらの苛烈な要素が、そのまま主人公の中の甘酸っぱい恋と並び立ってしまっていること。この感覚、主人公の生きている世界を、わかりやすく翻訳せずに活写する書き方。
強烈でした。ガツンと頭を殴られたような感じ。私たちが物語の向こう、瑞々しい青春年代の少年少女に、つい求めてしまいがちな何か。それをことごとく裏切ってくれる——というか、裏切った上でのこのお話の筋。あくまで彼ら自身は青春の中を生きていること。予想外の方向から読み手の情動を振り回しにくる、なかなか容赦のないお話でした。