最終話 未来への展望


 この世界で暴れていた悪魔たちは、イヴたちによっておおよそ三時間ほどでほぼ捕獲。

 先ほど出したイヴの数は百余だったが、総勢は一万ほど。

 悪魔が三十万ほどいれば勝負になったが、わずか三千体しかいなかったのでただの蹂躙だった。

 ちなみに数体ほどはわざと見逃した。今後の進化に期待するとしよう。

 悪魔との戦いで、ボロボロになってしまった王の間。

 その玉座に座っているアリアと、その傍に立つリタに視線を向けた。

 

「これで悪魔事変? とやらは終了だな。各地の復興などは君たちの仕事だ」

「わかってる」

「あれだけ必死に戦ってたのに……スグルが来たら一瞬で終わっちゃったなぁ」

「当然だ。戦うための準備をしてきたのだから」


 悪魔とやらは恐ろしい存在のように思える。

 だが実際は異常なのは電撃や炎を吐くだけ。

 他は象くらいの力と、鷹の飛行能力を持っているだけだ。

 化学兵器の前では決して怪物とは言えない存在だ。

 二十一世紀くらいの軍事技術でも勝てるだろう。

 そんなことを考えていると、アリアとリタがこちらにいきなり頭を下げた

 

「ありがとう。スグルがいなかったら全部終わってたよ」

「スグルはこの国の恩人」

「礼を言う必要はない。私はこの国の軍事顧問だからな」


 私の言葉に二人は首をかしげた後、驚いた顔をこちらに向ける。

 長い付き合いだけあって私の言葉の意図を理解したらしい。


「軍事顧問って……スグル、こっちの世界に住むの!?」

「元の世界の私の物はすべて引き払った。天才は場所など選ばない」

「……いいの? 元の世界に帰りたがってたのに」

「この世界でも研究はできる。それに…………君たちがいたほうが有意義だ」


 困惑するリタとアリアに対して、私はずっと考えていた言葉を述べる。

 ほんの少し言い淀んでしまったのは失態だが、嘘偽りのない本音である。

 この世界に戻ってきたのも結局は彼女たちがいたからだ。

 彼女たちに会うために、元の世界で普段よりも必死にタイムマシンの研究もした。

 非合理的ではある。だが私が考え抜いて出した結論だ。


「無論、他にも理由はあるがね。元の世界では人権や倫理や法律が厄介だが、この世界ならば蹂躙できる」

「それはダメ」

「そっちがメインでしょそれ……」


 とりあえず捕獲した悪魔たちの再研究からだ。

 群体になると生態系が変わるならば、その状態でも調査せねば。

 

「理由はどうでもいいだろう。重要なのは私がこの世界を拠点にすること。それだけだ」

「…………まぁそうだね。ある意味、スグルは悪魔よりも目を離せないし」

「改めて確認するけど、スグルは王になる?」

「興味がない。研究の時間が減る」


 アリアとリタが笑顔を浮かべる。

 それを確認した後、近くで倒れていた無能を蹴り飛ばす。

 ホバーブーツの空圧で弾き飛ばされて、無様に床を転がった後に無能は目を覚ました。


「む、むぅ……ここは……はっ!? ど、どうなって……!?」


 無能は辺りを見回した後に、私の存在を確認すると顔に笑顔を浮かべる。

 立ち上がれないようで、這いつくばりながらこちらに寄ってくる。

 同じ空気を吸う気はないので、無様な芋虫を電磁障壁で弾き飛ばした。

 再度吹き飛ばされて床に叩きつけられながら、無能はこちらに視線を向けて叫んでくる。


「おお! スグル様! よくぞ戻られました! 貴方様が戻れば悪魔を滅ぼすことも……!」

「もう滅ぼしたが?」

「……流石でございます! では是非、今の無能な王に変わってスグル様が王に……」


 さてどうするかな。もはや問答をする意味もない。

 処分方法も決まっているし時間のムダか。

 近くで空を浮遊しているイヴに向けて命令を繰り出す。


「剣の性能実験だ。身体の何割が欠損するまで生きれるか試せ」

「承知しました」


 イヴは頷くと無能の首を持って身体を片手で持ち上げる。

 無能は私の言葉が理解できないのか、目と口を大きく広げてこちらを見ていた。


「な、なぜですか!? 私は貴方の一番の忠臣である自負があります!」

「その言葉自体が論外だ。イヴ、連れていけ」


 イヴが無能を連れて転移でこの場から消えた。

 亜空間に置いている研究所に運んだのだろう。

 あの無能は元より不和の種になる予感はあったのだ、早々に処分しておくべきだった。

 そもそも私は王ではないと言っている。忠臣などという言葉がおかしい。

 

「あの男は処分する。問題はないな?」

「ないよ。悪魔に魂を売った人間だからね……生かしていたら何するかわからないし」

「私もない。ただ、あまり必要以上には苦しませないで」

「善処する」


 本当にアリアは優しすぎる。裏切り者にも安らかな死を願うとは。

 本来ならば公開処刑でもすべきところなのだが。

 あの無能のせいでアリアもリタも傷を負った。その分くらいは苦しめてから処分するつもりだ。

 

「スグル、国を立て直したい。建物の修復や民衆の食事に力を貸して」

「……私は軍事顧問であって土木建築や食料係ではない」

「兵士の生活を安定させるのは軍事に関わる」

「……それは否定できんな。やれやれ、今後もこき使われそうだ」


 悪態をつくが内心は嫌がっていないのも事実だ。

 元の世界にいた時は、自分のしたいこと以外は決してやらなかった。

 だがこの世界では興味のないこともきっとやらされるだろう。


「土木作業用の機械も連れてきている。被害の大きいところを重点的に派遣しろ」

「わかった」

「次にこの国の強化だ。機械兵器を大量生産して、他国を滅ぼして領土にするぞ」

「「それはダメ」」


 今後はこの国に科学を浸透させていく。

 以前は自分がいなくなれば、科学を分かる者がいないので自重していた。

 だがもう必要ない、二度とアリアやリタを危険に晒すまい。

 この世界にはまだ未知なる生物もいるだろうが、この私がいるのだから何一つ問題はない。

 それに未知なる生物がいるということは、研究対象が多いということだ。


「……スグル、邪悪な笑みを浮かべてるんだけど」

「失礼な。科学者の知的な笑みと言ってくれたまえ」


 リタに対して反論すると、そのやり取りを見ていたアリアがほほ笑んだ。


「言い忘れてた。おかえり、スグル」

「…………ああ」


 この言葉は私にとって喜ばしいものだった。

 喜びの理由を解明することを、今後の課題にするとしよう。

 それが私の、この世界での最も大きな研究対象だ。


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最後までお読みいただきありがとうございました。

他の作品も連載していますので、よろしければ見て頂けると嬉しいです。

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天才科学者の異世界チート暴走記 ~SFの力で街づくり~ 純クロン @clon

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