決して『出落ち』には終わらない、どこまでも強い王道のエンタメ小説

 海難事故に遭い無人島に漂着した青年と、同じく遭難したお嬢様のサバイバル冒険譚。
 勢いとパワーのあるコメディ作品、には違いないのですけれど、でも決してそれだけにとどまらないお話です。一見飛び道具的というかむしろ出落ち気味というか、奇抜な設定が売りのお話のようにも見えるのですけれど、さにあらず。
 いやその辺りも別に嘘ではないというか、タイトルやキャッチから受ける強烈な印象そのままにお話が展開していくのは事実で、でもその先にあるものが本当にすごかった。王道かつ正統派のボーイ・ミーツ・ガール、ひとりの青年の冒険譚であり、そして成長物語。
 本当にもう、ただただ「よかった……」となるお話。なにどうよかったか、どういうラインの「よい」なのかと言えば、「こういうお話が読みたかった!」というような感覚。誤解を招きそうですけどそれでもあえて言いますと、自分の中ではこういう物語を『ライトノベル(少年向け)』の基本線であり理想系と捉えています。ジュブナイルをエンタメ小説の形に徹底的にはめ込んだ作品。太古の昔より伝わる王道を王道のままに、ものすごく食べやすい味付けにしてしまう神業のようなお話。
 総じて、この作品の姿勢そのものが大好きなのですけれど、特にクローズアップして言及するのであれば、やっぱり登場人物のキャラクター性が好きです。
 例えば、本作無二のヒロインたるお嬢様。相当に風変わりで個性的で、でもその突飛さがあくまで自然な範囲に着地しているところ。一見めちゃくちゃなようでいて、でもしっかり地に足のついたひとりの人間として描かれているのがわかって、だから尖っていても浮ついてはいない、身近な存在として認識できる。彼女のわかりやすい設定(お嬢様然としたところ等)はあくまで取っ掛かりでしかなく、その本当の魅力はもっと軸の部分というか、〝物語に沿わなければ見えてこない程度には深いところ〟にある、というこの造形。
 惚れ惚れします。というか、惚れました。いわゆる「魅力的なヒロイン」って、ここまでやらないと張れないんですよね。相当なことで、それは主人公についても同じです。詳細は割愛します(というか読めば一発でわかると思います)が、最高でした。完璧に役割を果たしていたし、して欲しいこと(あるいはそれ以上)をちゃんとやってくれる主人公! そうだよ! それが見たかった! お前最高! 好き!
 いやもう、本当、面白かったです。面白かったし最高でした。繰り返しになってしまうんですけど、こういうお話が読みたかったんです。もちろんネタ成分というかパッと見の飛び道具感も大好きで、それがトラップのように働いたというか、コメディとしての面白さをデコイに王道勝負を仕掛けてくる、この豪腕っぷりがもうただただ好きです。太くて強い物語。娯楽作品としての理想系を見た思いでした。