第2話 消えない
どうしてこうなったんだろう。どうしようも無かったのか?どうしてこんな感じになってしまったんだろう。
俺と栗須未唯奈はどうしてこんな関係になってしまったんだろう?とママチャリを漕ぎながら俺は考えてる。
どうしてこうなったんだろう?が絶えず俺の頭に波状攻撃みたいに。連続で脳を埋め尽くす。落ちゲーでまとめて連鎖させボーナスポイントを貰うため積み上げていたのだが、それが自分の想定外の事が起き。消せず。溜まり。そしてゲームオーバー。そんな感じでどうしてこうなったんだろうが積み重なり、うがぁと声を上げたくなる。
「ウがぁ!!!あーーっもうっ!!……」
どうしてこうなったんだろう?の疑問が脳のキャパを遥かに超え、思わずうがぁ!が口に出る。
叫んだ後の自分の目に入ってくる光景に思わず自転車のブレーキを急に踏む。
公園。そこいらの町の至る所にある小さな公園。砂場、ブランコ、ジャングルジム、時計、ベンチくらいしか無い小さな公園。まさにフツーの公園。
けど俺にとっては思い出の公園。
公園の入り口付近に自転車を止め、ベンチに座る。
ジーンズのポケットからくしゃくしゃになったソフトパックのタバコと100円ライターを取り出す。一本取り出し、口に咥えて、手慣れた手つきでタバコに火を付ける。
深く。深く吸い込みニコチンを脳内に急いでぶち込み、紫煙を吐く。スウッと少し心が落ち着く。もう一度吸おうと人差し指と中指に挟んだタバコを咥える。
高校二年生。17歳。当然未成年の喫煙は駄目であるし、普段は家や学校では吸わないようにしているし、人前でも吸わないようにしている。
俺、そして今頭の中で一杯になっている栗須未唯奈が通っている高校は県立の男女共学では県内で五本の指には入る進学校だ。
当然、喫煙をしていることがバレたら退学になるし。俺はそんな事でまだ社会のレールとやらから外れたくは無い。
苦労しないに越したことは無い。リスクは無い方が良い。何かに挑み続けるくらいなら変わらない毎日がいい。それが俺こと、篠田銀太郎の信条であるし、その心情を常に自分の中に携えながら生きてきた。
けど、あいつに。栗須未唯菜に。やりまクリスティーヌに。俺の幼馴染みに。3歳の物心ついた時から常に隣にいたあいつに。崩された。
どうしてこうなったんだろう。
──銀ちゃん。私……初めては銀ちゃんがいい
どうしてこうなったんだろう
──何で?私の事が嫌いなの?
どうしてこうなったんだろう
──ならいいよ。私は進むよ。
どうしてこうなったんだろう
──もうあなたの知ってる私じゃなくなっても知らないからね。
どうしてこうなったんだろう
──じゃあね。バイバイ。大好きだったよ──
台風が来て、俺の部屋の窓の外では大雨が降り続けいた。親も姉も留守にしていた。変わらずに幼馴染みが隣にいた。
けど顔を紅くさせながらも覚悟が現れていた彼女。はだけたブラウス。その奥から見えてしまった彼女のイメージと異なる黒い下着。いつも通りではない。いつも通りには戻れない。そんな状況。
どうしてこうなったんだろう。その答えは多分めちゃくちゃ単純で。毎回、いつも同じ答えがストンと降りてくる。
「俺が童貞だからじゃん」
心の中だけじゃしまって折れず、ツイ口に出る。
彼女の決意。覚悟を。俺が拒んだ。
それで俺は相変わらずのゴリゴリの童貞で。そして栗須未唯菜はやりまクリスティーヌと言われるようになる。
やるせなくなり。二本目のタバコを口に咥えて、火を付ける。
「あー……やるせねえ、やるせねえよ……」
「……やっときゃ良かったんか、あの時」
また心の声を思わず口に出す。そしてまた繰り返されるどうしてこうなったんだろう。
空は暗闇に包まれる時間になっても不快な暑さの公園で一人。電灯の下のベンチで煙草をくゆらせながら俺はまたどうしてこうなったんだろうを繰り返す。答えはちゃんと出てるはずなのに。
俺は当然明日の事なんて何一つ考えてはいないし。知りもしなかった。
明日、大きく変わることをこの時の俺は知らない。
具体的に言うと17年間引きずり続けていた童貞の喪失の機会が訪れる。
つまりソレはセカイが変わることになる。
やりまクリスティーヌと史上最強の童貞男の僕らのソーヤング 長月 有樹 @fukulama
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