やりまクリスティーヌと史上最強の童貞男の僕らのソーヤング
長月 有樹
第1話 ハッピーアイスクリーム
ヤレたらやってる。けどヤレてない事実がある。
悲しい事にソレは簡単な答えだった。ヤレないからやってない。
ヤレない理由は、沢山ある。きっと夜空を見上げると、目の前に広がるこの美しい星々と同じ数くらいには……
……と遠い目をしながら夜空を見上げてアホらしい事を考えてる自分を俯瞰で見ている自分を想像したら途端に馬鹿らしくなる。
手に持っていたソーダ味のアイスキャンデーがぼたりと塊が地面に落ちる。手には、溶けたアイスの不快なにちゃにちゃ感で、思わず顔をしかめながらT-シャツソレを拭う。去年までは大切に来ていた好きなバンドのツーマンライブの会場限定T-シャツ。あまりにもヘビーに着続けた結果、今は首元がだるんだるんになってる思い出の一枚。
あいつと最後に笑ってはしゃいで最高の思い出になった。思い出のライブTシャツ。今は何の気も無しハンカチ代わりに汚れを拭う。
思い出をけがしちまった。いや……けがされちまったのかもしれないと夜のコンビニ前で感傷にふける。ソレをまたも俯瞰で見ている自分がニョキッと出てきて、いやいやいや、マジ無いわー。うんマジでダサいわー。と乗ってきたママチャリの鍵を開けてサドルに股がる。
店内のゴミ箱に捨てればいいのに溶けて落ちたアイスキャンデーの棒を店の前にポイ捨てて、走り出そうと自転車のペダルを踏み出そうと、したとその時──
「あれえ?銀ちゃんじゃん?」
──大切な思い出が。いや大切な思い出にしときたかった甘い声が聞こえてきた。
声がした方へ視線を運ぶ。着崩した夏服の制服、に金髪ショートカット。しっかりと染め直して無いのか頭頂部は地毛の黒色が見え、まさにプリンみたいな感じになっている。
そして小首をかしげ微笑みを名前を読んだ篠田銀太郎、まぁつまり俺の方へと向ける。
可愛いのに妖艶な。が両立するような天使のような悪魔の微笑み。ソレをまた俺に向ける。と同時に笑っちゃうくらいに鼓動が高鳴る。
ドクドクドクと血が猛スピードで巡り出す。主に下半身。更に主にジュニアに。
魅力的な桃色の唇が次の言葉を紡ごうとプルンと震える。そんな事ですら酷く俺の煩悩が嵐の如く、心の中をめちゃくちゃにされる。されていく。
「いい加減さぁ、何意地はってるのかぁ、分かんないんだけどぉ……」
天使のような悪魔の笑顔。……いや間違いなく悪魔だよ、こんなん。と対峙する彼女の笑顔は先程よりもどこか冷たく、そしてどこか作られたみたいな。
あるいはソレは自動的にカタチづくられてるみたいな、どこか怖いと怯えに似た感覚を生む世界一美しい微笑み。そんな彼女は言葉を紡ぐ
「いい加減食べられちゃいなよ。ワタシに」
怖い。食べられる、その言葉が。SEXの意味合いではなく、肉体も精神も自分が持つ全て、思い出も……彼女との淡いけれども忘れる事もでき無い、忘れさせてくれないと思っていた大切な過去も。全てを食らわれる。動物的な本能でそう感じさせる。
彼女の笑顔にはそんなモノが間違いなく秘めていた。
食らわれてたまるかと必死に叫ぼうとするが、身体全身で震えを感じている。けれどもやはり食らわれてたまるかと、絶対にされてたまるかとか細く言い返す。
「………だっ……黙れよやりまクリスティーヌが、キメエンだよ」
一番長く同じ時間を過ごした幼馴染みに一番言いたくないあだ名をぶつける。
ヤリマンの栗須。やりまクリスティーヌこと、俺の幼馴染み栗須未唯奈。
俺の一番好きだった女の子。
その言葉と同時に中指を立てて全力でママチャリのペダルを踏み逃走する。
どんな表情をしているんだろうか。怖くて目を逸らす。
しかし通り過ぎり際にポツリと声が漏れるのは背けなかった。
「……早くヤラれちゃえばいーのに……何?かっこつけんの?……そしたら私がま………」
聞きたくないと更にペダルを回す速度を速める。
茹だるような熱い夏の日の夜。俺がコンビニ前に捨てたアイスキャンデーの棒には「当たり」の文字が刻まれていた。
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