part.E『@頂上』
#――そして駅に到着した。
〝尾城雲ヶ丘駅〟緑の坂の終点。
下車してからのわたしたちは、言葉少なげに並んで歩いて、それから駅舎を出た。
恥ずかしがってるのか、ナグモちゃんは、わたしより少し後ろを歩いて、泣き跡をみせまいと顔をそむけている。
「んっん~……ッ」
わたしは両腕を広げて伸びをする。そのあとゆっくり深く息を吸いこむ。
ずいぶんながいこと夢を見ていたみたいな魔法の時間を過ごしていたような気がするけど、こうして外界の空気に身体をふれさせて、ならしていくと、その非現実感は徐々にほころんでいくように思えた。
(あ……)
まぶたをあけて見上げると、新緑の天蓋が頭上を覆っていて、枝葉の隙間から洩れた光がちらちら眩しい。坂道にそって並んでいた街路樹がここまで続いていたのだろう。
さわさわ枝葉が擦れる音とともに、爽やかな風が吹きぬける。その風を受けて、服がふくらんでいくと、身体がふわっと浮く感じがした。
まだ夏には早い新緑の季節――
わたしは、いっぱいに吸いこんだ空気を吐き出す。
「ぷはぁ」 ――そして、振り返る。「もうすぐ夏になるんだね、ナグモちゃん…………って、あれ?」
あたりを見回してみたけれど、さっきまで、そこにいたはずのナグモちゃんの姿は消えていた。
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