第3話「出会いのあとに」

落下物を観測した少年、優希の名を見ればわかることだが、彼の家は日本にあって、その中の北部に位置していた。

庭の面積は大型バスを凌ぐものであったが、家屋はごく一般的な外観をして、築13年の歴史をもっていた。

今現在、優希と身元不詳の少女の眼前に存在する家が、それである。

優希はこの家で生まれ育ったわけではない。

それでも、たった一人の家族と共に生活を営む場所としては、嫌いではなかった。

これは、部外者を寄せ付けたくない理由になる。


「俺は状況を見てお前を助ける判断をしたが、世話をするとは言ってないぞ」

「少しだけ。少しだけいさせてよ。遠くから来て心細いんだよ」

「お前みたいな調子のいい人間は、約束を有耶無耶うやむやにしがちなんだよな・・・」

「約束は守るよ。あてもあるしね」

「そのあてを、くだらない理由とかで抜け出してきたんだろ?」

「どーかな」

「含みがあるんだな」

「まぁいーじゃん。悩みごととかあれば、お姉さんが聞いてあげるよ」

「言いたいことは他にもあるが・・・歳は俺と同じくらいに見えるが、違うのか?」

「いーから、細かいこと気にしないの」

「わかったよ・・・」


現実主義的な考えをしがちな優希は、少女の行き当たりばったりな考え方に理解が追い付かなかった。

もちろん、少女は持ち前の器用さを生かしてきたし、稀にみる強運の持ち主だったから、廓然かくぜんとした楽観的な考えに至るのだ。

そうでなければ、判断力が致命的に欠如しているとか、無責任と言われても、全面的な否定はできないだろう。

つまり、この少女の性情を知らない優希には、いいかげんな奴、として認識されているのだ。

いかにもステレオタイプな考え方をしたものである。

これが現状の人間の情報収集、判断の流れだ。

だから、優希は数刻前から少しの違和感を感じ取っていたのだが、違和感という形而上けいじじょう的すぎる感覚の発生原因を考定するには情報が足りず、判断などできなかった。



談話する少女を見据えて、少年よりもはるかに多くの視覚情報を集め、洞察をする2つの眼。

それはまるで獲物を品定めする鷙鳥のように、静閑だった。

違和感の正体は、ここにあった。




白戸家の門をくぐった2人は廊下を通って、自室へ向かう少年と1階に留まる少女に分かれた。

別れ際に優希は2階の奥にある部屋を使っていいと言ってくれたが、少女は居間へ向かうことにした。

1階の方が部屋が広いし、映像や音声を符号化したデータの再生ユニットらしきもの――つまりテレビの音声が聞こえて、人気ひとけがあるのがわかったからだ。

白戸家の、もう1人の家族だ。


「あれっ、兄のお友達さんですか?」

「わたしはイルドゥナ。あなたは家族の人?なんていうの?」

「妹の優花ゆかです。もしかしてイルドゥナさんは外国の方とかなんですか?」

「宇宙の方だね。本当は、イルドゥナ・イスタシャ・グランシャリオなの。でも長いからイルって呼んでいいよ」

「わあ・・・すごいですね」

「わたしにも妹がいるの。ユカよりは少し年上かな?」

「ってことは、中学生くらいなんですか?」

「あっ・・・まぁそんなとこかな。そういえば兄の方・・・あの人はなんていうの?」

「えっ、兄さんの名前も知らずに付いてきたんですか?」

「地球のことはよくわからなくて、つい」

「・・・あの人は優希ゆき白戸優希しらとゆきといいます」

「ユキね。ユキにも用があるから、ちょっと話してくるよ。またあとでね、ユカ」

「えぇ・・・」


優希の部屋へ上がり込んだイルドゥナは、先の件で使用した銃の内部を展開していた。

後で聞くことになる話だが、大気圏内で使用するには冷却機能が追い付かず、基盤やらが焼き付くので、いちいちオーバーホールする必要があるらしい。

それを修理している手は量り切れないほどの機械油がしみ込んで、数多のメカニクスを作製してきたものだという過去を、優希はまだ知らない。


「で、お前を追ってきた連中は、どう説明するんだ?」

「あれはわたしの護衛だよ。ガミガミうるさくてさ」

「やはりくだらない理由じゃないか・・・」

「でも宇宙の実状を知れば、そうも言えなくなるよ・・・」

「よほど単純なんだな」

「単純って、いろいろあってここまで来たのに」

「お前の性格の話だ。嫌なものから逃げてきた。この大前提は変わらないな?」

「それは・・・!」

「・・・俺はまだ、お前の味方でもなければ敵でもない。俺には守らなきゃいけない家族もいるし、手を貸せるのは少しだけだ」

「えっ?」

「何日かはここにいていいってことだ。わかったら、向こう行って静かにしてろ。俺はもう寝るからな」


ベッドに横たわった優希は背を向けて、一切の応答をしなくなった。

その様子を見たイルドゥナは銃を仕舞い、渋々しぶしぶと与えられた部屋へ向かった。

彼女にはあまり時間はなかったが、一度話を聞くことをやめた人間に再び声を届けるのは容易ではないと、いたからだ。

そうでなければ、地球まで脱走してくることもなかっただろう。

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