第7話  初恋で今恋で

 咲に土下座して謝ったあの日。と言ってもまだ二日しか経っていない今はまだあの後悔は抜けないでいた。咲の優しさに触れてどれだけ私の事を思ってくれていたのかを実感したのは確かだけど、咲はどんな風に私の事を思っているのだろう。心の狭い奴だと感じた?幻滅させてしまっただろうか?嫉妬深くて面倒な彼女と感じていないだろうかと考えていた。


「楓、なにそんな難しい顔してんの?」

「いや、別に」


 咲は前と変わらず、いたって普通に接していてくれているように思う。咲はこの前の事それほどあまり深くは考えてないのかな?私のしてしまったこととか、私が嫉妬してどうしようもなかった事とか考えないんだろうか。あれで私の事許してしまっていいの?


「咲、一昨日の事なんだけど」

「んー」


 スマホに集中している咲に話しかける。普段通りの咲に言いにくい事をネット検索に夢中な咲をいいことに隣に座ってる咲の横顔を見ながら切り出した。


「この前のさ、喧嘩っぽくなったじゃん」

「そだね」


 未だにスマホに夢中な咲に「ねぇ聞いてる?」と言えばやっとスマホの画面からこちらに顔を向けてくれる。


「この前の事なんか気にしてるの?」

「うん・・・。咲はさ、私の事信じてくれてるってのは解ってるんだ。けど・・・」

「うん」

「何か心配になっちゃうんだ。咲だからというか、何て言ったらいいのかわかんないけど、私らしくないっていうか。」

「え?楓らしくないって楓じゃん?」


 今まで通りじゃん?ってさも当然だと言う咲に私は混乱した。いや、私の今までの経験上ではこんな事は無かったと思う。これが私?彼女に嫉妬してあんなに取り乱す事なんて無かったと思う。どっちかと言うと嫉妬されて愛想尽かされるみたいな事はあったのだけど。


「いや、今までの経験上そんなんで乱されてなかったっていうか・・・」

「そ?私には楓らしいなぁってしか思わなかったんだけど」

「え?どゆこと?」


 当たり前みたいに言われても実感がわかない。寧ろこんな経験が私には皆無だった。あんなに取り乱してお酒を呑んで紛らわせようとして、しかも最悪な感じで咲を求めてしまって・・・。どう考えたって私って最悪な彼女じゃん?


「自覚ないの?じゃあ、あんときも嫉妬してたの解って無かったんだ。納得だわ」


 一人で納得している咲。こっちは全く意味が分からなくて、聞き返すと、笑いながら咲が「私に彼氏が出来た時」って昔話を始めた。

 確かあの時の咲の彼氏は束縛が激しい奴で、イケメンと言われる類だとは思うけど、性格が難ありな感じだったよなと思い出した。そんで別れ方が最悪。当時咲と付き合っていた彼氏というのがチャラい奴で、咲を束縛するけど自分はされるのが嫌という典型的な俺様タイプ。女子との交流が盛んな男子であった。それでも健気に咲は彼のいう事を利いててさ、そんな中、咲が目撃しちゃったんだ、相合傘で他の女子と帰る彼を。目撃してしまった事を彼に問い詰めた咲だったんだけど、彼から言われたのが「あの子の方が好きだったんだ」それ聞いて私は激怒してさ、本当ムカついた。それって、咲が一番じゃ無かったって事で、本命が他にいたって事だったんだよね。しかも、その本命の子と浮気してた訳で。

 泣く咲を慰めると同時に彼に殺意が芽生えてどう仕返ししてやろうかめちゃくちゃ考えていたのを思い出す。咲と付き合えるだけでもラッキーなはずなのに咲を裏切りしかも本命ではないとかふざけるのもいい加減にしやがれって心穏やかでは居られなかった。アイツの事は本当に今でも許せない。

 今でもあの事を無かった事にして普通に咲に話しかけようもんなら、自慢のサラサラの髪の毛むしってやろうかと思案してしまうほどに。


「楓今みたいな顔してたよ?」


 会いもしてないのに元彼への復讐を考えていた私。咲に笑ってほっぺをつつかれた。あーあれはもしかしなくても嫉妬だったんだと今更思うとどうにも恥ずかしい。

 友達を泣かせた彼氏だけだったらそこまで感情が高ぶらない気がする。咲を慰める事に必死になりそうな気がしないでもない。お前は付き合えてただろうが!それなのに浮気だと?という感情は羨ましいのと同時に大切な咲を簡単に傷つけたからだった。


「は?はず!」

「無意識って怖いね」


 笑いながら何だか嬉しそうな咲を見ながら、こんな嫉妬深い奴だったのか私って・・・。とてつもない羞恥心に襲われていた。


「マジヤメテ!最悪」

「いいじゃん、そういうとこ可愛いと思うよ」


 ケラケラ笑う咲を恨みがましくにらんだ。カッコ悪い事この上ない。さっき気づいたばかりの嫉妬深さは咲にとっては私の日常だったりしてたわけだから尚更恥ずかしかたりする。何しろ、咲の前で全面に出してたってわけだから。


「もう最悪・・・」


 いたたまれなくて、咲の膝に顔を伏せると、私の髪を撫でながらまぁまぁって言いながら、優しく撫でてくれてる咲の手が心地よくてただされるがままされていた。


「別にいいじゃん、今はちゃんと両想いなんだから結果オーライでしょ」

「そりゃそうだけどさ」


 そうだけど、納得したくはないし、ちょっとカッコ悪いじゃんかと言う私にそれも楓なんだから私は好きだけどななんて咲が言うものだから、嬉しくもあって・・・そんなん言われたら何も言えなくなるじゃんか。


「私も幸せ楓も幸せ。違う?」

「・・・違わない」

「じゃあいいじゃん?」


 それでいいのかな。うまく丸め込まれてしまった気はしないではないけど、私はすごく難しく考えてしまっていたのかもしれない。好きな人と一緒にいる事が奇跡でいつかはいなくなってしまうとどこかで思っていたのかもしれない。

 こんなに好きになってしまったのはこの人だけ。初めて好きになった人で好きでどうしようもなくて気持ちはあの時のまま。本当に一生、死ぬまで、いや死んでからもかも。ずっと好きな人でこれ以上好きな人は絶対現れないだろうという事は断言できてしまう。


「咲」

「ん?」


 咲のお腹に顔を向けて膝枕してもらってた身体を仰向けにしたら自然と咲と視線が合った。


「私の初恋で今恋は咲だね」

「どうしたの急に言われると照れるんだけど」

「んー、一生好きだわ」


「やめてよ」と言いながら顔を赤くし、恥ずかしいのか視線を逸らして何でもないみたいに取り繕ってるけど、嬉しいのが隠せてなくてニヤけちゃってるし。咲にしてやったりとニヤッとしたら、馬鹿っと仕返しにデコピンされそうになって、こっちはそうはいくかとデコをピンするために構えた咲の手を取った。悔しそうにしてる咲にへらっと笑ってみせて膝枕してもらっていた頭を起こしながら咲の手をそのまま軽く引っ張ってちゅっとキスをした。


「不意打ち」


 ししっと笑えばまた馬鹿と言われた。まったくもー!と言いながら「楓は嫉妬深くて悪戯好きだもんね、本当昔から変わんないわ」なんて聞こえたんだけど?咲の表情見てる限り怒ってはないんだけどね。


「こんな私嫌い?」

「そんな訳ないじゃん。好きだよ?多分・・・」

「は?多分?」

「多分・・・私も一生好き」


 ふふっと笑いながら咲が私がさっき言った言葉を言ってくれたのだった。





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