ヤバめな風水避難訓練

ちびまるフォイ

風水的に正しい場所

「……今日はやけに人が少ないなぁ」


生徒が教室に遅刻ギリギリで入ったが、そこには誰もいなかった。

昨日は普通に登校していたはず。


今日が創立記念日で休みなんじゃないかと思い、

教室に貼られているカレンダーを確かめた。


「今日は……ふ、風水避難訓練?」


見たことない文字に目を奪われていると、

学校内に警報が鳴らされた。


『風水避難訓練をはじめます!

 生徒のみなさんは風水的に安全な場所へ避難してください!』


「風水的に安全な場所ってなんだよ!?」


みんなが今日にかぎってボイコットしていた理由がよくわかった。

こんなめんどくさい行事に参加する人はいないだろう。


「風水なんて全然わからないぞ!? どうすればいいんだ!?」


他の生徒についていこうと思ったが自分以外の生徒はほぼいない。

自分の判断で風水的に安全な場所を探さなくちゃいけない。


廊下に出ると観葉植物が意味わからない場所においてあったり、

変な磁石がそこかしこに置かれていたり、赤い壁紙が貼られていたりする。


「これがヒントなのかな……」


なんかいろいろ置物がおいてある場所は風水的に安全なのか。

金ピカの石で囲まれた怪しい部屋に入ってみたが、校長先生はいない。


「よくここがわかったな」


「きょ、教頭先生!?」


「しかしここは風水的に安全な場所ではない。立ち去りたまえ」


「それじゃ教頭先生はここでなにしてるんですか!?」


「ここは風水的に金運アップと出世できる空間なのだ。

 私は授業中にはいつもここにいる」


「仕事してください」


「もちろんしている。君もこの幸せになれる

 黄金のブレスレットを買って幸せになりなさい」


教頭先生の本職がわかったところで部屋を出た。

風水グッズの量だけで判断してはいけないと思った。


目のチカチカするようないくつもの壁紙を抜け、

グラウンドの中央へたどり着く頃には日も暮れかけていた。


「はぁっ……はぁっ……やっと、たどり着いた……」


校長先生は妙に高いお立ち台でストップウォッチをにらんでいる。


「校長先生?」


「君がこの風水的に安全な場所に避難してくるまで、6時間かかったぞ」


「これでも必死に探したんですよ。お疲れ様のひとことあってもいいと思いますけど……」


「目下の人間へのねぎらいの言葉は風水的にNGなのだ」

「うそつけ」


「単に君の風水についての学がないばかりに到着が遅れた。

 そのうえ頑張ったから褒めてほしいなど風水的に悪い気が集まっている証拠。

 さぁ、この金色の八角形鏡で悪い気を吹き飛ばしなさい」


「ここ学校ですよね!?」


「風水は学問です」


あらゆる開運グッズを自腹で購入させられた翌日。

風水避難訓練に参加した生徒は学校に来なくなった。


「やはり悪い気に当てられたんでしょうね。

 でも開運グッズをいくつも与えましたから、すぐに戻るでしょう」


と先生たちは職員室で余裕たっぷりにコーヒーを傾けていた。

いつまで経っても生徒が復帰しないことに焦り始める。


「いったいいつになったらあの生徒は戻ってくるんだ!」


「風水グッズを買わせたのが響いたのか?」


「それとも風水避難訓練で校長が上から目線で

 くそ偉そうに説教たれたのが尾を引いたのか」


先生や担任は風水的になにかまずかったんじゃないかと慌てたが、

あれだけ風水に固執していた校長先生だけはちがった。


「バカ言うな! あの生徒の不登校と風水はまったく関係ない!」


「そうなんですか? 校長」


「当たり前だ。今の若いやつは少しでも嫌なことがあると逃げる。

 なにかを新しく学ぼうともしない。ふてくされで、堪え性がない。

 私が若い頃はそんなことはなかった。どんなに辛くても頑張ったものだ」


「風水的に考えて、単に勉強が嫌になっただけかもしれませんね」


「近頃の若いヤツときたら、まったく……」


「理由が何であれ素性がわからないのは問題なので風水的に探してみます」


学校に来なくなった生徒がいったいどうなっているのか。

現状を確かめるとあっさり見つかった。


家で引きこもっているかと思いきや、元気に別の学校へと登校していた。


「なに!? 別の私立の学校へと転校している!?」


「はい、同じ私立のうちとしては痛手ですね。校長、どうしますか」


「ちょっと行ってくる!」


校長はあらゆる開運グッズとパワーアップするシールを肩や腰に貼った。

パーフェクト校長となってから金の鎖をジャラつかせて、相手の学校へと乗り込んだ。


「たのもう! ここに〇〇という生徒はいるな!」


呼ばれて見知った顔が出てくると校長の説教モードのスイッチが入る。


「ちょっと叱られたくらいで学校から逃げるだなんて、

 君はなんて根性無しなんだ。そういうところに悪い気が集まる。

 いいか、私が君くらいのときはもっと理不尽なこともあった。

 でも私は必死に堪えて努力したから今こうして

 風水グッズをたくさん買えるくらいのお金を手にしている。

 人生において我慢が求められるシーンはある。

 そこで逃げないかどうかで人間の人生は決まる。わかったか!」


「校長先生、なにか勘違いしていませんか?」


「勘違い? そんなものはしていない。

 私は君よりも何十年も長く生きている。

 風水に関しても君よりずっと知識があるんだ!」


「先生のいる学校の立地が風水的に鬼門だったことに気づき

 僕はこっちの学校に風水避難してきただけですよ?」


生徒は校長に元の学校の立地条件がいかに危険なのかを風水的に証明してみせた。

ひとしきり説明してから生徒は校長に聞いた。



「ところで、風水に長けた校長先生は

 風水的に危険なこの学校へ戻られるんですよね? それはなぜですか?」

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