ネタバレします!
しょっぱなからスランプの葵くんが、熱き血潮をたぎらせて走る姿を、読者として隣で見ている感じがします。
そのあとで昴との会話があって、スランプなんだよと葵くんがいいます。
次の章で昴から詞のしたためた「手紙」を小説として受け取ります。
ここで、視点は葵くんのものになり、昴を異性として認めています。
そして、
On Your Mark.
でまた天から葵くんを見守り、そばで見つめている感覚がします。
彼がゴールテープを切るところでは、自分が風になって一緒にゴールしたような気持になります。
わかったのは、この物語は詞視点で終わりを迎えるんだということ。
もう、この世にいない詞が、読者をエンディングまで導いて、葵くんに青春の片道切符を握らせるのです。
風になって、自分の役目なのだと言って、詞がずっとずっと葵くんのそばにいるのを感じます。
陸上の、それも短距離の疾走感が好きな人は多いと思います。
位置につき、走り出すための心と体の準備をして、スタートをするまでの短いようでいて長い時間。それまでのトレーニングと支えてくれた人たちへの想い。スタートの合図とともにそれらが弾け、前に進むための力となる‥‥。
王道ともいえるこの展開を、私たちは大好きなはずです。
この『空に走る』は主人公の葵、そして詞と昴の姉妹が織り成す透き通った青春の物語です。夏が嫌いだった、の冒頭で始まるこの話のゴールがどう終わるのか、そしてタータンの陽炎が消えたその先にあるものは何か、ぜひ一読して確かめてください。
うだるような夏の暑さを、一陣の風が吹き払い、読者を爽快させてくれることを保証します。