第48話 水の都市

 ここは、水の都市。


 ありとあらゆるものに水が利用され、人々は、水なしでは生きていけないほど、水に密着した生活を送っていた。


 この都市では、雨は降らない。

 では、どこから、水を得ているのかというと、都市の中心部が山の頂上のようになっており、そこから、絶え間なく水があふれ出ていた。

 その水が、どこから来ているのかなど、この都市で暮らす人々は考えたことがない。

 そこから、水があふれ出ることが、人々にとっては、当たり前のことなのだ。


 一番高い場所にある、都市の中心部からあふれ出る水は、そこから色んな方面に流れていき、その水が人々の生活を豊かなものにしていた。


 そして、今、私は、ちょうどその中心部に立っていた。

 ここから見る景色は眺めがよく、水が流れていく様子は、とても壮大で、きれいだった。

 その水が流れる様子を見ながら、私は、ふと思った。

 この水は、どういう経路をたどって、下まで流れているんだろう。


 私は、水の流れていく道筋を、歩いて確かめてみようと思いついた。

 だが、ただの気まぐれなので、散歩がてらに確かめるくらいの、軽い気持ちである。

 都市の中心部から一番下までは、ずっと坂道になっているので、気ままに下っていくことにした。


 まず、少し下っていくと、そこには上に続く小さな階段があった。

 その階段を、数段上がると、小さな鐘があり、誰でも気軽に鳴らせるようになっていた。

 そして、その鐘の下の部分から、都市の下の方まで、ずっと水が流れていた。

 よく見ると、その水の流れは、途中でいくつかの分岐点があり、それぞれ違う方向に分かれていた。


 私は、試しに鐘を鳴らした後、その水の流れを追っていくことにした。

 そのまま、まっすぐに下まで追うこともできたが、それでは単純すぎて、つまらないと思い、どこかの分岐点を追っていくことにした。

 特に理由もなく、これだと思った分岐点の方向へ進んでいく。


 すると、水の流れは、どんどん細くなっていったが、それでもしっかりと途切れることなく街中に流れていた。

 細くなっていく水の流れに、細くなっていく道を歩いていると、小さな広場に出てきた。

 そこには、数人の人たちがいて、休憩する人もいれば、楽しそうに遊んでいる子供もいた。


 水の流れはというと、この場所では、とても細くなっており、十センチほどの横幅しかないところを流れていた。

 しかも、広場の周りは、急な斜面になっていたが、水の流れは、左右へ折り返しながら、上手に斜面を下っていた。

 上手に考えられているなと、人々の知恵に感心しながら、広場を抜けて、またその先を下っていった。


 緩やかな坂道を下っていくと、道はさらに細くなり、人は誰もいなくなった。

 それでも、水だけは、途切れることなく流れていく。

 ふと、建物と建物の間を見てみると、今度は下に続く小さい階段があった。

 階段の先は、水が奥の方までずっと溜まっており、深さは一メートルほどあった。

 それは、まるでプールのようで、見ていると、私は何となく、泳いでみたくなった。


 すると、私はいつの間にか、浮き輪を体に通しており、腰の部分で持っていた。

 これは、もう泳ぐしかない。

 そう思って、私は階段を下りていき、水の中へ入っていった。

 思っていたより、水は冷たかったが、浮き輪を使って、一人泳ぎだした。

 周りに誰もいなかったが、泳ぐのはとても楽しく、奥の方まで泳いでみた。

 まるで、私一人だけの貸し切りプールである。


 しばらく、ここで泳いだ後、私は満足して、このプールから出た。

 本来は、プールではないのかもしれないが、とても楽しかった。

 気付けば、浮き輪はなくなっており、服も乾いていた。


 その後も、水の流れを追って、坂道を下っていくと、大分、下の方まで来たのか、街の端っこが見えてきた。

 上の方を見てみると、最初に自分が立っていた、都市の中心部がとても高く見えた。

 水の流れを追って、こんなに下まで来たのかと、少し驚いたが、ここまで来たら、最後まで水の流れを見届けようと思った。


 この辺まで来ると、分岐していた水の流れは、逆に集まっていき、細かった水の流れは、どんどんと太く大きくなっていった。

 そして、最後は、街から全て流れ出て、街の外は、海のようになっていた。

 ここが、水の流れる終点だった。


 水が、あふれ出る都市の中心部から、最後に流れ出るこの場所までの間、水の流れは、さまざまな大きさに変化して、いろんな場所を流れていた。

 この都市の人々は、水が流れる様子を当たり前だと思い、気にもしていないが、こうやって追いかけてみると、いろいろと発見できて面白いなと感じた。


 今回は、一つの分岐点しか、水の流れを追ってこなかったが、分岐点は他にも何か所もあった。

 また今度、散歩するときには、違う分岐点の水の流れを追ってみようかなと思った。

 そこには、また違う水の流れや使われ方があるのだろう。


 私は、この水の都市が大好きだが、水の流れを知ることで、さらに大好きになった。

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