おになのかおになのか

詩一

おになのかおになのか

 鯱九度しゃちくどレイちゃんと郎朗ろうろうカイゴくんは話し合いました。


「わたしたちがこんなにもくるしいのは、だれかのせいにちがいない」

「ぼくもそうおもう。きっとそいつはおにだよ」


 二人は話し合った結果、どうやら大恩だいおんゾウシくんがいけないと言うことがわかりました。きっと彼こそが鬼なのだと。

 お互いに集まれる日を決めて、ゾウシくんを懲らしめる計画を立てました。


 ついにその日がやって来ました。それはレイちゃんの250連勤が明けた日でもあり、カイゴくんがなんとか親戚の人に親の面倒を頼めた日でもありました。


「いこう」


 二人はゾウシくんの豪邸にやって来ました。呼び鈴を鳴らすと玄関からゾウシくんが出てきました。


「やあふたりとも。なにかようかい?」


 ゾウシくんはにこにこ笑って言いました。


「あなたのせいでわたしたちはふこうよ」


 ゾウシくんはますます笑います。


「わっはっは。それはしかたのないことだよ。しほんしゅぎこっかにうまれたことをのろうしかない」


 レイちゃんはゾウシくんを黙らせるために顔面に一撃を加えると、そのまま四肢ししをもぎ取りました。

 しかしゾウシくんはケロッとした顔で、二人を見ます。レイちゃんもカイゴくんもぎょっとしました。


「きみたちはなにをやっているんだ」


 そこへゾウシパパが現れました。またまた二人は驚きましたが、ここに来て引くわけにはいきません。レイちゃんは言います。


「わたしたちがふこうなのは、しかたのないことといいやがったのよ。ひんこんにあえぐわたしたちをみくだしてそんなことをいえるだなんて、まさにおにのしょぎょう。せいさいをくわえてあげたのよ」


 ゾウシパパは眉を吊り上げます。


「ばかみたいなりゆうでひとにてをあげるきみこそおにだ。まさにおに。きいてまわってみるがいい」


 言われてレイちゃんはビックリしてしまいました。


(おになのかしら? わたしおになのかしら?)


 周りの人々に聞いて回ります。


 おになのかおになのか。どんどん聞いて回ります。


「ねえ、わたしはおに?」


 通行人を呼び止めて聞きました。


「うん。きみはおにだよ。ぞうしくんのししをもぎとったからね」


 そう言って通行人はレイちゃんを殴りました。


「いたいよぅ、いたいよぅ」


 殴られたところを押さえながら、グッと涙を堪えます。


(いよいよわたしはおになのか)


 おになのかおになのか。どんどん聞いて回ります。


「ねえ、わたしはおに?」


 通行人を呼び止めて聞きました。


「うん。きみはおにだよ。どりょくぶそくをひとのせいにしたからね」


 そう言って通行人はレイちゃんをぱたきました。


「いたいよぅ、いたいよぅ」


 頬をぶたれたのに胸を押さえて帰ります。


(やっぱりわたしはおになのか)


 おになのかおになのか。


 カイゴくんのもとへ帰ります。


「どうだった?」

「やっぱりわたしがおにだった」


 ゾウシパパはうんうんと頷きました。


 懐からおもむろに札束を出すと、それをゾウシくんのもがれたところにあてがいました。するとなんと、なくなった手足が、にょきにょきにょきにょきと生えてきたのです。


 ゾウシくんは立ち上がりました。


「ありがとうぱぱ」


 ゾウシパパはにっこり微笑みました。


 それからゾウシパパは大きな声でお友達を呼びます。


「おーい、ふたりともきてくれ」


 ゾウシパパに呼ばれてきたのは、景紫蘇けいしそウカンちゃんとおかシラくんでした。二人は大の仲良しで、手を繋いで現れました。繋いでない方の手にはそれぞれ拳銃とドスを持っています。ウカンちゃんが拳銃で、シラ君がドスです。


 ——ぱんぱんぱん。


 ウカンちゃんは出し抜けに発砲してきました。

 三発もろにくらってしまったカイゴくんが倒れます。


「いたい、いたい」


 目からはボロボロと涙が零れます。レイちゃんもカイゴくんも、痛さを感じます。ゾウシくんのようにケロッとした表情にはとてもなれません。


「いきなりこんなことをするあなたたちこそおにじゃないの」


 レイちゃんは物凄い剣幕で怒りました。友達が撃たれたのだから当然です。


 ウカンちゃんとシラくんは二人で顔を見合わせました。


「あたしはおになのかしら?」

「おれはおになのかな?」

「みんなにきいてまわりましょう」

「そうしよう」


 おになのかおになのか。どんどん聞いて回ります。


「ねえ、あたしはおに?」


 通行人を呼び止めて、こめかみに拳銃を当てながら聞きました。


「いいえ。あなたはおにではありません」


 ウカンちゃんは喜んで、通行人に見逃してあげる約束をしてあげました。


 おになのかおになのか。どんどん聞いて回ります。


「なあ、おれはおに?」


 通行人を呼び止めて、咽喉元のどもとにドスを当てながら聞きました。


「いいえ。あなたはおにではありません」


 シラくんは喜んで、通行人に守ってあげる約束をしてあげました。


 おにではないおにではない。


「ほうら、けっきょくあなただけがおになのよ」


 おになのかおになのか。


(けっきょくわたしはおになのか)


 絶望に暮れるレイちゃんの横では、カイゴくんが息も絶え絶えです。


「いまらくにしてやる」


 シラくんがそう言いながら、ドスをカイゴくんの心臓に刺し込みました。

 カイゴくんは何も発しないままにぐったりしてしまいました。


「かいごくん!」


 レイちゃんはカイゴくんを抱き寄せました。そこでレイちゃんはびっくりしてしまいました。なぜならカイゴくんがとても幸せそうな顔をしていたからです。息を引き取る前はあんなにも苦しそうだったと言うのに。


「やれ」


 ゾウシパパが冷たい声で言い放ちました。その声にウカンちゃんは拳銃を構え、シラくんはドスを握り直しました。


 こんな状況でありながら、レイちゃんはもう一度カイゴくんの幸せそうな寝顔を見て、胸がいっぱいになりました。


(わたしもしんだらこうなるのだろうか。そうすればおにではなくなるのだろうか)


 おになのかおになのか。

 おにではないおにではない。


 もしもこうなることでしか幸せになることが出来ないのだとしたらそんな世界はもう——




 おしまい。

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