終章 やはりそれは二百年位前の話

第39話 やはりそれは二百年位前の話

 ランカとルカはランカの家にいた。

「あんた。魔族の割にはいい奴ね」

「ええ、ありがとうございます」

 ランカはなにもして来ないし、助けて貰った礼を兼ねて、手料理をご馳走していた。メニューはクリームシチューである。

「これ、美味しいですね。初めて食べる味だ」

「なに、食べた事無いの?」

「ええ、魔族は食べ物を摂取しますが、手間暇かけて誰かが作ったりはしません。主にインスタントがメインです」

「そっ、そう」

 ランカは驚いていた。

「それより、あんた。何処に属している悪魔なの!」

 ランカは拳銃の弾の確認していた。

「と、言いますと?」

「この辺りには、三人の魔王がいるの、最凶の魔王ルシファー、蝿の王ベルゼブブ。そして、闇の道化師メフィストフェレス。私は魔王の首を取りに来たのよ。何処にいるか知っているのでしょう? 返答次第では撃つわ」

 ランカは銃を構えた。

「道化師は酷いな~せめて魔術師マジシャンがいいな~」

「あんた。メフィストフェレスの配下なの?」

「いや、私がメフィストフェレスだ。魔王とてバカではない。有名な本名をおいそれと名乗りませんよ」

「と、言って、簡単に私に名乗ったわよね。ってか、騙していたのね!」

 ランカは撃とうとしたが、その前にルカが武器を一瞬の間に取り上げた。

「いいえ。騙すつもりはありません。あなたがあまりにも美しかったから」

 ルカは弾を確認した。

「そんな言葉に騙され無いわ。返して、私の銃!」

「へー。いい銃だ」

 ルカは弾を取り出し、確認した。

「なる程、弾に仕掛けがあるのですか」

「いいから、返しなさい!」

 ランカは体当たりをして、銃を奪い取ろうとしたが、ルカは瞬間移動をして避ける。

「いいですよ」

 ルカは素直に手渡した。

「それにしてもあなたは、どうしてそこまで、嫌いなのですか?」

「あんたに説明する必要は無いわ」

「そうですね。それでは私はこれで、シチュー美味しかったです。ご馳走様」

 ルカはランカが構えた銃を無視して、玄関から出て行った。

「なによ。余裕こいて」

 ランカは機嫌を損ねていた。


 ルカはランカの家の前に立っていた。

「確かに、魔を撃つ銃のようだ」

 ルカの手には、銃の中に入っていた全ての弾を持っていた。

 その手の平は熱を帯びていないのに、火傷のような傷もあった。

 ルカはそっとポケットに入れると、もう一度手を見る。

 見る見るうちに傷が治った。

「これは興味深い」

 ルカは怪しい笑みを浮かべながら、歩き始めると、ランカの家の屋根が割れる音がした。

「ランカ!」

 ルカはいてもたってもいられなくなり、ランカの家に戻った。


「覚悟しなさい。魔族!」

 ニアは銃を構えた。

(やっぱり、魔族は信用出来ない)

 部屋の中に魔族が一匹いた。ルカが去ってすぐやって来たのだ。

「威勢のいい人間だ。しかし、俺様に勝てるのか?」

「ええ、勝てるわ!」

 ランカは自信満々に引き金を引いた。

 しかし、弾は出て来なかった。

「なんで」

 ランカは弾を確認すると空っぽだった。

(まさか、あの道化師)

 弾を取り出された事に気が付いた。

「どうやら、ただの脅しだったようだな。俺様の刃の餌食となれ」

 魔族は全身刃物に覆われランカを追い詰める。

 ランカは窓際に追い詰められていく。

(これまでね)

 魔族が刃で襲いかかろうとした時、目の前を何かが通過し、刃に当たった。

 刃は脆くも無いのに、それが当たった刹那、刃は折れてしまった。

「なる程、効果はありますね」

 窓からルカが現れた。

 その足が浮いており、胸の辺りにはランカの銃の弾が浮いていた。

「なにしに来たのよ!」

 ルカは窓を通り抜け中に入る。

 そして、浮いていた足を地に着けた。

「あなたを助けに来ました」

「信用出来ないわ。それにあんたが弾を抜かなかったら、こんな事にならなかったわ」

「そうみたいですね」

「ってか、返しなさいよ」

「ええ、これが終わったら、返しますよ」

「お前、魔族だな」

「魔族と言う呼ばれ方は好きでは無いのですが、まあ、あえて答えなら、魔族ですね」

「魔族が何故、人間に手を貸す」

「そうですね。美しいからですかね。正直、彼女に惚れてしまいました」

「そんな事して許されると思っているのか?」

「今は、許されないとは思いますが、直に許されるようになります。いえ、する予定です。それより、あなたは、ルシファーの部下ですね」

「そうだが、それがどうした?」

 折れた刃を修復した。

「大人しく、帰って頂けませんか? 同族を傷付けるのも主義に反します」

「何を余裕でいて、そんな態度を見せて後で後悔するぞ」

 更に大きな刃を作った。

「後悔なんてしません。本当に余裕ですから、あなたはもう少し、力量を量った方がいいですよ」

「なんだと!」

「だって、私の周りにあるこれを食らって、あなたの刃は折れた」

 デコピンをする要領で、弾を撃った。

 刹那、目にも追えぬ速さで弾は飛んでいき、魔族の刃に当たった。

 ひびが入り、再び割れてしまった。

「やはり、そうですか」

 ルカは納得している。

「何故だ。鋼鉄をも切り裂く刃が」

「簡単な事です。この弾が特殊なのです。あなたの刃はあなたの体の一部を変化したもの。この弾は、魔族の組織を破壊する物、相性は最悪な訳です」

「どうして、そんな物をお前が」

「さて、なんででしょうか」

 ルカは惚けた。

「それより、諦めて頂けますか?」

「んなもんする訳無いだろう!」

 魔族が突進してきた。

「攻撃する隙を与えなければ、問題は無い!」

 魔族はルカに近付き、刃物を振り回した。

 ルカは身軽に避け、当たらなかった。

「隙ありだ!」

 いきなりランカに手が伸び、魔族はランカを捕まえ、首筋に刃物をちらつかせた。

「ほれ、どうする?」

「全く、ルシファーの部下であろう人がそんな姑息な手を使うとは」

 ルカは呆れている。

「さあ、その浮いた弾を破壊しろ」

「仕方ありませんね」

 ルカは弾に集中し、弾を破裂させた。

「あんた。なにやっているのよ。どうしてそんな事やるのよ。バカじゃない!」

「バカでもいいです。私の気持ちは変わりません。まあ、しかし、それ以上の要求を呑むつもりはありません」

「なにを言っている。こっちには人質がいるんだぞ」

「そうですね。ですが、私も本気を出してはいません。私はどんな理由があろうと、下の者に負ける訳にはいきませんので」

「なに、訳分からない事を言っている」

「真実を述べているだけです。ランカさん。少し我慢して下さい。今終わりますから」

 ルカの目が鋭くなり、瞳が赤く変化する。

 耳が伸び、人間としての顔を失った。

「お前はまさか」

 魔族の体が震え始めた。

「無知とは恐ろしい物だ。安心しな殺しはしない。だが、ランカに手を出した事を後悔しろ」

 冷たくそう言うと、ルカは人差し指を突き刺した。

 すると、次の瞬間ランカは別の場所、ルカの目の前にいた。

 魔族を見ると、魔族は直立不動のまま、体を硬直させ動けないでいた。

「ちぃ、気に入らない」

 ルカが舌を打つと、魔族は床に叩きつけられた。

 重力がそこにかかっているのか、魔族はへこみ、床がミシミシと音を立て、

壊れかけていた。

「助けてくれ」

「命乞いですか? 分かりました。応じましょう。但し、条件があります」

 ルカは魔族に近寄り、笑顔で言う。

「まず、二度と、種族の名を傷つけるような卑怯な真似はしない事。そして、ルシファーに伝えて下さい。『私は人間を滅ぼさない』と」

「わっ、分かった」

「よろしい」

 ルカは呪縛を解いた。

 魔族は身動きが取れるようになり、素早く起き上がった。

「いいんだな」

「ええ、いいです。さっさと、尻尾巻いて逃げて下さい」

「くそー、人間、覚えていろよ」

 魔族は壊れた屋根から逃げ出した。

「ランカさん。お怪我はありませんか?」

 ルカは元通りの顔に戻り、ランカの側に寄った。

「ええ、無いわ。だけどね」

 ルカの額に銃を突き付けた。

「おや、私を殺す気ですか?」

「出来れば、そうしたいわ。でも、二度も助けた恩もあるし、もう少し話も聞きたくなったわ」

「では、これは何の冗談ですか?」

「冗談ではないわ。ちゃんと、弾は入っているわよ。あんた。人んち壊してなに様のつもり?」

「そっ、それは」

「とりあえず、直しなさい!」

「はあ」

 荒れ果てた部屋を見回した。

「これ、全部ですか?」

「当たり前でしょう! よく見なさい」

 床と窓、屋根が一番酷く壊れていた。

「あのー私は屋根を壊していないのですが」

「問答無用よ。同族なんだから、それに、私の大事な弾も破壊したでしょう?」

「あっ」

 とぼけた声を出した。

「それを踏まえてよ。文句があるなら撃つわよ! この距離なら魔族も関係ないでしょう」

「いえ、困ります。わっ、分かりました」

「それでいいわ」

 ランカは銃を下ろした。

「工具はこれね。材料は外にあるから」

 工具を出した。

「はあ」

 ルカは外に材木があるのを確認すると、一瞬にして部屋の中まで移動させた。

「お茶出すわね」

「ありがとうございます」

 ルカはイスに座り、全て自分の特殊能力で直していった。

「本当に器用ね」

 木を切り、釘を打ちつけるまで、全てである。

「まあ、この位は簡単です」

「それよりあんたはなんで、魔族を裏切ったのよ」

 ランカも席についた。

「別に、私は裏切っていません。考えてみて下さい。もしもこの戦争が今より激化した場合、どちらが滅ぶと思いますか?」

「そりゃ、魔族よ」

「いいえ。答えは両方です」

「なんでよ。数なら負けないわ」

「確かに人間は魔族に比べれば、繁殖力もあり、数では勝ります。実際、魔族はこの星に千人程度しか来ていませんし、力の無い魔族もいます。しかし、力のある魔族がその気になれば、数千の人間も簡単に倒せます。そうやって、消耗を繰り返していき、もし、魔族が勝っても、人間が勝ってもお互い大打撃を受け、種を残す事が出来なくなる。特に魔族は確実にそうでしょう。そうなれば……」

「死の星になる。そう言う事?」

「ええ、ですから、私はどちらも滅ぼしたく無いのです」

「なる程ね。あんたが、私やあの魔族を生かした理由は分かったわ」

「ご理解頂いて嬉しいです」

「それに随分な、変人な所もね」

「変人……ですか?」

 ルカは軽くショックを受けていた。

「道化師と呼ばれるのも頷ける」

「頷かないで下さい」

「でもね。こっちは魔族に沢山仲間殺されているの。私は敵を取りたいの」

「それはこちらとて同じです。しかし、憎しみの連鎖は断ち切らなければなりません」

「分かっているわ。でも許せないのよ」

「ランカさん」

「でもま。私はこのままあんたに恩をふっかけておく気はない、協力して上げる」

「いいのですか?」

「ええ」

「ありがとうございます」

「その代わり、他の魔王に会わせなさい!」

「へっ、なんでです?」

「なんでもよ。分かった」

(あわよくば、命を頂くわ)

 ランカはルカを利用し、魔王を倒す事にしたのだ。

「ええ、構いませんよ。どの道、話をつけなければ、なりませんから」

 ルカはそうとは知らず、簡単に引き受けてしまった。

 世界はこうして変わっていこうとした。


終わり。

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聖なる白き銃を持つ魔王の孫 叢雲ルカ @luke0811

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