平和
四百文寺 嘘築
揺れる
歪むビル群、割れる地面。空は煌々と赤く。今まさに、人類は最終楽章に突入していた。
マイナー調に揺れる摩天楼。狂乱の声。人々は絶望を目の前に、膝を地面に打ち付ける。
しかし、人々が地獄のような様相を呈する中、地球は至って平和。世界は新たなる時代の到来を歓迎する。新しい時代が産声をあげるのを、今か今かと待ち望んでいるようだ。
私もまたその一人である。
人の波に逆らって歩く中、私は改めて人間の愚かさを呪った。
愚か、実に愚かだ。
私は観測者。したがって特定の種族に肩入れすることはなく、人間諸君には想像もできないような時間、こうして世界を見守ってきた。
世界は、いまだかつてない程に汚れている。
言うまでもない、世話もない。
技術、教養、倫理、社会、そして宗教。
斜に構えているわけではない。人間諸君だって気づいてはずだろう。足りない頭で理解していただろう。
技術は世界を滅ぼすために、教養は洗脳のために、倫理は同一化のために、社会は自動化のために。
神は存在しない。
いや、これには語弊がある。正しくは「私こそが神だが、私は自分を神だとは思っていない」だ。
私は君たちが思うように、全知全能ではない。観測しているだけだ、君たちより一つ上から。
利便性の兼ね合いで人の形を取っているが、実際の私は無形の概念。その点ラヴクラフト氏は、かなり真理に近づいていたと言えるかもしれない。確かに、この世界は私が見ている夢のような物である。
言い訳をさせてもらうが、この滅亡は私が引き起こしたわけではない。まあ、これがなければ、数百年以内に私が引き起こしていたかもしれないが。
これはあくまで地球という名の生命体が持つ、一つの防衛機構だ。君たちは彼に異物だと判断された。それ以上でも以下でもない。
ただのくしゃみだ。
君たちはそれで滅ぶような脆弱な存在でしかない。
仮そめの平和はさぞ気持ちよかっただろう。人類讃歌なんて笑わせる。
どうもありがとう人間諸君。
それでは皆さん、さようなら。
音を立てて世界が崩壊する。それはまるでディストピア。あるいはユートピア。
赤い空には、青い月。私と同じように世界を見守っている。
緑は鮮やかに映え、世界中が幸せに満ちている。
次はいつになることやら。
平和 四百文寺 嘘築 @usotuki_suki
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