最終話 新世代へ…【魔法少女まさき】

 エピローグ


 四月、入学式を終えた新入生が期待を胸に膨らませ、新たな学生生活が始まる。


 同時、魔法少女事務所バベルにも、新たな魔法少女が二人、加わった。


 緊張した面持ちで事務所を訪ねた二人の魔法少女は、数日前に自己紹介を済ませていた月子マネージャーに案内され、一人の魔法少女と顔を合わせる。


 ……予定では、この場にいるのは二人のはずだったのだが。


「まさきは?」

「多分寝てる」


「いや、起こしてあげなさいよ、同室でしょ!?」


 春休みから、事務所の一つ上の階に作られた寮に、まさきとみにいが同室で住むことになった。


 まさき曰く、


「絆を深めるなら一緒に寝食を共にする、それが一番!」


 と言ったためだ。


 元々、上の階は別の店舗が借りていたのだが、まさきの実家はそれなりのお金持ちだったようで、都合を合わせて寮にすることも可能だった。


 互いのことを知らないからこそ、新たに知った一面である。

 と、目の前でこそこそと話し始める新入生を、みにいが睨み付けた。


「ひっ!?」

「そういうの、ムカつくからやめろ。言いたいことがあるならはっきり言えって」


 威圧ではなく、これからチームとして共に行動するなら当たり前のコミュニケーションだと教えているのだが、先輩からそう睨み付けられたら誰だって萎縮する。


 それが分からないのは、みにいの欠点だろう。


「はいはい怯えない怯えない。みにいは……まさきを呼んできて」

「なんであたしが……仕方ないなあ、もう。あいつ……自分で起きるって言ったくせに」


 ぶつくさと言いながらも、案外軽い腰を上げてみにいがまさきの元へ。

 月子マネージャーが、小さくも大きな背中を見つめながら、


「あれでもかなり丸くなったのよ? 大丈夫、頼れる先輩だから」



 まさきの自室を開けると、抱き枕を抱きしめるだらしない同級生の姿があった。


 寝間着のまま、へそが見えるくらいにはだけている。

 むにゃむにゃと気持ちよさそうな表情を浮かべて、それを見ていると無性に転がして落としたくなった。


 で、実行。

 ベッドの上に飛び乗ってまさきの体を足蹴にして床に落とす。


 うげっ、と声を上げたまさきが、地震!? と慌てふためく。

 その様子を見下ろしながら、みにいはにやけ顔が引きつって固まったように戻らなかった。


「起きろバカ。約束の時間、とっくに過ぎてんだろ。新入生が下にいんぞ。リーダーさんよお、お前が遅刻したらはずれチームを引いたって思われるだろーが」


「おはよお、みにい」

「おはよお、じゃなくてさ」


 未だ寝ぼけているまさきが、両手を上げてバンザイの体勢になった。


 ……着替えさせろと?


「まあ、いつものことだけどさ」


 寝間着を脱がせ、着替えの服を着せて――と、それを全身おこなっている最中に、みにいが気配を感じた。

 ばっ、と入口の方を見ると、扉の隙間からこちらを覗く、新入生の二人がいた。


「な、な……ッ!?」

「あ、あの、マネージャーが、面白いものが見られるからって……!」


「そーですあたしら悪くないでーす」

「お、お前ら……ッッ」


 顔どころか全身を真っ赤にさせてぷるぷる震えるみにいの前で、

 まさきが大きなあくびをして、やっとまともな意識を取り戻した。


「あ、みにいおはよ。ん、あ。着替えさせてくれたの? いつもありがとね、ちゅう」


 もちろん、口ではなく頬だったが、今のみにいには最悪の一手だった。


「こ、殺すッッ!! 後輩の前でなにしてんだお前ッ!!」


 威厳とかイメージとか、そういうものがガラガラと崩れていく。

 みにいはマイナスに捉えているが、新入生からしたら良い方向へ働いたようだ。


 わーきゃーとベッドの上で、喧嘩なのかじゃれ合いなのか分からないやり取りを見て、


 新入生二人は、内心でこう思う。


 ――あ、このチーム楽しそう。



 なんやかんやあって(みにいからまさきへの説教が長引いた)。

 予定時刻よりも三十分遅れて、新体制チームの初打ち合わせが始まった。


「――とまあ、こんな感じで、魔法少女の仕事は理解した?」


 新入生二人は互いに見合ってから、頷いた。


「じゃあ、最後にわたしから、意気込みというか、目標なんだけどね」


 事務所の窓を、ぱぁんっ、と開け放ち、まさきが目の前に見えるビルの看板を指差す。

 現在、バベルで人気ナンバーワンの通称ラッキーちゃんが映っている街頭ポスターだ。


「わたしたちで、あれを引っぺがす。そして、次に貼られるのはわたしたちよ!」


 先輩が取り戻せなかった看板を、今度はまさきが取り戻す。

 それは、頂点への足がかり、長い道のりの第一歩である。




 通勤ラッシュを少し過ぎた頃、満員よりは少し空いている電車の中で、聞き慣れた怪人警報に体が反応してしまった。

 避難よりも、自分が出なければ、という反応だった。


 ――もう、魔法少女でもないのに。


 警報は隣町のようで、この電車が止まることはないし、避難する必要もない。

 窓から外を見れば、遠くの方で怪人と戦う魔法少女の姿が見えた。


 さすがに、知り合いかどうかは分からないほど、豆粒ほどの大きさだ。

 だけど、なんとなく、あの子かな、と思った。



「……がんばれ、まさき」



 そして、目的の駅へ辿り着く。

 イヤホンをはずし、英会話学習のプレイヤーをオフにする。


 やがて、扉が開いた。


 高原さらんが、新しい世界を歩き始めた。

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魔法少女=(デミ)ウィッチ 渡貫とゐち @josho

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