雫を見る。 ②

「はい、これ、マララちゃんがくれたクッキーよー。ハワイ土産ですってー。」

誰だよ、マララって、という感じだが、さすがにこの時間になるとお腹が空いてきたのでマララ'sクッキーを頂く。ジニーさんには謎の友達が多い。

「美味しい・・、これ。」

「でしょ?マララちゃんに報告だわ、!」

「てか、マララさんって、誰なんですか?」

泳いだ、ジニーさんの目が。私は絶対見逃さない、嘘とか、そんなものずっと隣り合わせで生きてきて、何度も騙されたから。

「んーー、友達、よー。」

元々低い声がさらに低くなる。

「あ、そうそう、梅雨入りですって、みいちゃん、知ってる?」

話を変えられた。

 何か触れられたくない話になった時、ジニーさんのような話し方は人を不快にさせずに突き放すことが出来る。それも、この領域に入って来んなよ、というメッセージを漂わせて。

「・・。知らなかったです。梅雨、ですか・・。もう、六月も中旬ですもんね。」

「私思うの。梅雨ってね、毎日毎日雨が降ってね、場合によっては人の命をも奪ってしまう訳だけど、梅雨があるとね、ああ今年も憂鬱な季節が来たなーって、思えるじゃ無い?そういう、人の感傷と四季が重なり合うって素敵なことだなーって。浅はかな考えだって言われるかもだけど。」

 そんなこと、私は思えない。憂鬱なものは憂鬱なだけだし、私には素敵だ、とかそんな思いに浸る余裕なんてない。黒はクロ、白はシロ。そこで妥協してしまったら、いろんな物が混在して、何も見渡せなくなる。


「美春ちゃん、時間、大丈夫?」

 時計の針は十時半を刺していた。高校生が一人で街を歩き回るには遅い時間帯だ。いつも顔を合わせている人たちとはいえども、私を心配するのは当たり前だろう。

 スマホの画面を見ると、母親からの着信が何件も表示されていた。もう、いいかげん帰らないといけない時間か。

 

 私は重い腰を椅子から上げた。そして置き勉をしまくっているために全く重量のない鞄を片手に、尚も人が溢れる店内の活気に身を潜めて店を出て行こうとした。

 しかし、案の定、ジニーさんに呼び止められる。

 「あー、みいちゃん帰るのねー。そうだ、マララちゃんから貰ったクッキー、持って帰りなさーい。ほら、みいちゃん、美味しいって言ってたじゃなーい。沢山貰ったから困ってたとこなのよ。ほら、ね?」

甘い物大好きなジニーさんがクッキーを貰いすぎて困るなんてことはなかろう、と思ったが、差し出されたクッキーが数枚入った袋を快く手に取る。

「ありがとう、ございます。」

「よし!よく食べて、よく寝て、大きくなるのよー!」

 クッキーを食べても身長は伸びねーよ。てか、中学2年のの時からとっくに止まってるわ。 なんてことを思いつつも甘いものを躊躇わず貰ってしまう私はやはり、甘いものの誘惑に弱いのである。


 



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雫が枯れないように。 京我華流 @094284

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