雫を見る。
ただ、当てもなく夜の道を歩いた。
高校からの帰り道、直接家に帰らず、帰路の途中で電車から降りて、隣街の繁華街に向かうのが日課だった。少し騒がしい繁華街は私もこの夜の活気を感じられるようで、でも、私のことを放っておいてくれる。そんなこの空間がとても楽だった。
「あらー、みいちゃんじゃないのー。今日も来てるのー?ほら、危ないからうちにあがんなさーい?」
「ジニーさん・・・。」
「え、なにー?今、物思いにふけてた、みたいなー?やーね、いっつも私ったら、タイミング悪いんだからー。あ、そうそう、今日ねー、マララちゃんからおいしいクッキーもらったのよー。ほら、一緒にたべましょー?」
「え、あ、ありがとうございます。」
「もー、やっぱり私ナイスねー、あんな神妙な顔をしてたみいちゃんをイチコロで射止めたのよー。恐るべし、わたしぃー。」
ジニーさん・・・、言っていることが支離滅裂だし、イチコロの使い方、間違ってるし・・・。突っ込みどころが多すぎて、何から言えばいいのか。
ジニーさんというのはこの繁華街にバーを構える人で、私が繁華街に繁盛に来るようになってからしばらくして知り合った人だ。だから、知り合って、4ヶ月くらいになる。高校生が一人で夜の街を歩くのは危ないと言って、何かと気にかけてくれる。私は一人でもかまわないのだが、向こうがうちに来なさいと言って譲らないので、お世話になるようになった。
「じゃ、女子トークしましょー。ほら、トロピカルハートへゴーゴー。」
私はジニーさんの大きな手に連れられて、ジニーさんのバーへと向かった。
ちなみに、トロピカルハートというのはジニーさんのバーの名前だ。センスを少し疑ったが、傷つくだろうと思って、本人にそのことをいったことはない。
バーに着くと、10人くらいのお客さんがそこにいた。店内はとても狭いので、10
人もお客さんがいるとかなりパンパンだ。トロピカルハートというアホらしい名前からは想像できないが、バーは訪れるたびにお客さんでいっぱいなのである。しかも、バーと言うから最初高校生の偏見もあって、変なおじさんばかりかと思っていたが、女性のお客さんが大半なのだ。それがとても疑問だったので、他にもおしゃれなバーはたくさんあるのに、なぜここに来るのか、とあるお客さんにきいたことがある。すると、
「あら、美春ちゃん、そんなことをおもっていたのー?うーん、何でかしら?分からないけれど、包容力かしらねー。」
と本当にそれが理由なのかよく分からない返答をされてしまった。
でも、実際にジニーさんはそういう包容力があるのだと思う。私のことを気にかけてくれるように、いろんな人の心に棲んで包み込んでいるのだろう。だからといって、私の心の奥まで介入して来るわけでも無い。ほのか
に感じる温もりがどこか心地よかった。
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