空戦艦級フランジュ

しろくま外伝

第1話 一兵卒の反逆者


「「我らクオラードの意思のままに!!!」」


大勢の兵士の雄叫びとともに軍略会議が終了する。


ここは連合国総本山、クオラード帝国。

隣国にある中立国家、ロメイア皇国に進軍するということで、

兵士達がクオラード平原に集められている。

その中の一兵卒のフランジュ・ヴィルナートは、

亜麻色の髪をかきあげ、欠伸をすると天幕前にある椅子に腰をかける。


「なんだフランジュ?相変わらず浮かない顔してるじゃねーか」


隣に座る大男はフランジュの肩を掴みながら言う。


「俺は動くのが嫌いなんだよ、それに...」


「それに?相手がロメイアだから...ってか?」


「そうだ。ロメイアとは不戦条約を保ってきたはずなのに、それを破って進軍なんて...」


フランジュは腕を組むと空を見上げる。


「まぁ確かに難戦だわな、おそらく今回は向こう側のフェルン共和国が大軍を差し向けてくるだろうからな。

だが今の帝国の軍事力は計り知れない。

共和国と雌雄を決するためにロメイアを蹂躙するのもやむ無し...というのが国王の意思らしい」


フランジュは隣で笑いながら話す大男を睨む。


「おいルゴル声がでかいんだよ。聞こえたら処刑もんだぞ今の」


「はははは。まぁここらにいる兵達はみな俺の部下だ、

この戦をよく思っていない連中達だよ」


大男のルゴル・ウォードンは立ち上がると、

フランジュの肩を思いきり叩く。


「ま、死ぬなよ青年!はははは」


「ってーな馬鹿力が、死ぬわけねーだろ...ったく」


立ち去っていく大男の背中を見つめ、フランジュは呟いた。


翌日、進軍を開始したクオラード軍は、ロメイア皇国を取り囲む大森林にさしあたる。

大森林を見つめるフランジュの肩を、不意に誰かが後ろからつつく。


「よく聞けフランジュ、行軍中は何があっても軍令に背くんじゃねーぞ。

即処刑もんだ。おそらく俺の力でもかばいきれねえ」


「わかってるってルゴル。大丈夫、おとなしくしてるさ」


「今回お前の上官はダレス大佐だったな...あいつの部下は躾がなってねーから用心しとけよ」


ルゴルは肩をポンポンと叩くと、指揮する自軍の方へと立ち去っていく。

フランジュはルゴルを見送ると、整列した軍の最前列に現れた男を見る。


「ダレス大佐である!!長らく続いてきた雌雄を決するフェルンとの戦いを、

再び始めるときがきた!!

我らが約束された勝利に、雄叫びをあげよ!!」


「「我らクオラードの意思のままに!!!」」


「全軍、先進!!!」


「「うおおおおお!!!」」


兵達が隊を作り次々に大森林に突入を開始する。

フランジュはしばらく全軍の隊列を確認してから、隊の最後尾につく。


「何をしているフランジュ二等兵、遅れるな!」


「...サー!」


大森林に突入してからしばらく走ると、

悲鳴があちこちをこだまし始める。

フランジュは耳を澄ませ、悲鳴の声を聞き分ける。


「...おかしいな、剣戟の音も兵士の悲鳴も聞こえないなんて...」


フランジュがボソッと呟くと、すぐ隣を走る同じ二等兵が、

嘲笑うように小声で話しかけてくる。


「何言ってるんだあんた。当たり前だろそんなもん、なんたって宣戦布告もしていない完全な奇襲なんだからよ?

この悲鳴は多分女の喚き声だぜ?

女子供は生け捕りらしいからな」


「奇襲だって!?じゃあ向こうはまだ迎撃に出てないっていうのか!?」


フランジュは咄嗟にその兵士の胸ぐらを掴んで問いただす。


「あ?なんだ離せよ!皇宮までたどり着くためだとかよ。

なんせ向こうには潜在能力アビリティ保持者が山ほどいるじゃねえか」


「ちっ...くそ、これじゃただの虐殺じゃねーか...」


「おっと!もうじき村があるはずだ、若い女見つけたら先にヤっとけよ?

大佐が来たら手が出せなくなるぜ?」


そういうと隣の二等兵が速度を上げ前に出る。


「は?おい!お前今な...」


「きゃあああ!!」


すぐ先で悲鳴が聞こえ、フランジュは息をのむ。


「......くそ野郎共が!」


フランジュが速度を上げ追い付いた先で、四人の兵達が一人の女を取り囲んでいるのが見える。


「おいなんだフェルンの貴族かこの女?」


「早く順番決めようぜ時間がねえからよ」


「大佐が来る前に早くしろ」


走るフランジュに兵達の声が聞こえてくる。

フランジュは大きく息を吸い大声で叫ぶ。


「何やってんだお前ら!」


四人がフランジュの方へと向くと、訝しげな表情になる。


「...なにって?ヤるんだろこれをよ」


フランジュが追い付くと、女の腕を掴んでいる兵士の肩を掴む。


「今すぐ手を離せ、さもないと...」


「さもないと、なんだって?」


四人の兵達はフランジュを睨めつける。

不意に地面に伏したままの女が声をあげる。


「なんですかあなた達は!この無礼はどういう事です!」


反射的に兵達が女のほうへと向き直る。

腕を掴んでいる兵士がフランジュを振りほどくように、

肘をフランジュの顔にめり込ませ、女を引っ張ろうとする。


「いつまでも掴んでんじゃねえ!邪魔なんだよ!

ふふふ、さあお楽しみだぜ女ぁ!」


「離しなさい!!助けて!!!」


女が叫んだ瞬間、フランジュの脳裏に過去の光景がよぎる。


あーあ、めんどくせえ事になっちまいそうだよ。

わりぃな...ルゴル大佐。


心の中で呟いたその瞬間、フランジュは兵士の首を掴んでいた。


「おい......離せって言ったのが聞こえなかったのか?」


フランジュが小声で呟くと、兵士達が振り返る。


「てめえ、誰の首に」


「来い、風の戦斧」


兵士が振り返る前にフランジュが囁くと、

四人の首がスパッと切断され地面に転がる。

血飛沫を上げて崩れ落ちる兵士の体を蹴り飛ばすと、

フランジュは女を抱き抱え村へと走り出す。


「あり...がとう。......あなた今風を...」


抱き抱えられた女が困惑した眼差しでフランジュを見つめる。


「ははは!ちっくしょ、やっちまったよルゴル!

これは処刑どころじゃないよな!」


一心不乱に走るフランジュに、女が声をかける。


「あの!話をお聞きなさい!」


フランジュが女の顔を見ると、耳飾りに見慣れた紋章が刻まれていることに気付く。


「...ったく、ただの奇襲なんかじゃないじゃないか。

その耳飾りはあんたの物か?」


「え...ええ勿論です。気付いたならまず降ろしなさい」


「黙ってろ、そんなもん今のあんたには何の力にもなりはしない...」


フランジュは険しい表情になり、前を向く。


「だまっ...!それで?どこに連れていくつもりなのよ!」


「きーきーうるさいんだからもう!

はぁ...まず村を救う、それで住民が避難できるよう軍を押し返す。

話はそれからだ、いいな?」


「軍を押し返すったってあなた...」


「そろそろ気付く頃だな、しっかり掴まってろよお嬢様」


「きゃあ!ちょっと!」


フランジュが速度を上げるとともに後方から叫び声が響く。




「反逆者だ!!!反逆者が女を抱えて逃げたぞ!引っ捕らえよ!」

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