向日葵と蝉と…。

宇佐美真里

向日葵と蝉と…。

ジジジジジジジ…。

蝉の鳴き声はそれだけで暑さを倍増させる。

それも耳元であれば尚更だ。

此処は田舎のバス停留所…。

すぐ脇に立つ木の上で、

壊れてしまった機械のように、

蝉はその鳴き声を止めようとしない…。


目の前の、辺り一面に広がる真っ黄色な景色も

暑さを倍増させている要因だろう…。


  黄色く波打つ向日葵の『海』。


青空にぐんと伸びる、大輪のその華はまるで

夏の青空に挑んでいるかのようだった。


汗が頬を伝う。

しかしバスの姿は、まだ見える気配すらない。

久し振りに逢う待ち人は、

こんな狂った暑さとは無縁のような人だった。

いつも涼しげな装いで、もの静かに振る舞っていた。

時の経つのは早い。もう…あれから三年。



三年前の夏…。

五つ歳の離れた従姉弟の結婚式に、僕は出席できなかった。

タイミング悪く夏風邪を引いた僕は、

ひんやりとした消毒臭い病室の窓から

ずっと夏空を眺めていた。汗ひとつ掻かずに。


親戚中から散々に文句を言われたが、本当はタイミングよかった。

従姉弟の結婚は突然、決まった…。

婚約していた相手の海外赴任ということで

急遽、式を繰り上げることになったらしい。

従姉弟はそのまま、新しい苗字となって海外へと行ってしまった。

それ以来、三年ぶりの夏。

従姉弟が久々に田舎へと帰って来る。

でも、その待ち人は…、

もう僕の知っていた従姉弟とは違うわけだ。


ブルルルル…。

相変わらず鳴き続ける蝉の声に交じって、

ようやく遠くからバスの近づく音が聞こえてきた。

黄色い向日葵の絨毯の向こうから、バスが徐々に近づいてくる。

バスの音が近づくにつれ、蝉も負けじとボリュームを上げた…。

ジジジジジジジジジ………。


目の前にバスが停まる。

扉が開き、中から…。

向日葵が飛び出してきた?!


  黄色い小さな向日葵


僕の腰ほどの高さで、

麦わら帽子を両手で押さえ、

黄色いワンピースに身を包んだ小さな女の子が

僕を見上げて満面の笑みを見せる。


「ほ~らっ!挨拶はどうしたの?」

麦わら帽子の後ろで声がする。

小さな向日葵の後方へと僕は視線を移す。

そこには夏の空のような、真っ青な服を着た従姉弟が居た。


「はじめましてっ!!」

小さな向日葵は、周囲の大輪の向日葵にも負けない、

こぼれる様な笑みで僕に挨拶をした。


そして…、向日葵を後ろで見守る母親の表情は、

昔と変わらずに涼しげだった。


あの頃と何ひとつ変わっていない…彼女の涼しげな笑顔。

蝉の鳴き声も心なしか弱まった…。

一瞬、そんな気さえ…僕はした。



-了-

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向日葵と蝉と…。 宇佐美真里 @ottoleaf

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