地上から遠く離れた二人だけの世界。それは楽園か、それとも……

月面基地で調査と探索を行うマイ。生活態度がだらしない相棒のユアと共に調査を続ける中で彼女はある奇妙な立方体を発見する。それは人の意識を過去に戻す力を持った物質で……。

月面という舞台設定に、過去に戻れるというガジェット、二人の関係性……一歩間違えれば過剰になりそうなこれらの三つの要素を全て無駄なく使って、短編として綺麗に収める手腕がお見事。

すれ違いが続く日々の中でようやくわかり合えたと思ったのに、自分たちが過去に戻れると知ったときの二人の反応の違いが実に残酷。この落差が巨大な位置エネルギーとなって二人は衝突するわけです。最高ですね。

また月面で仕事をするにはユアはあまりにルーズで、最初はちょっととまどうのですが、あとになってそういう意味があったのかとつい驚かされます。

伏線の張り方からストーリーの構成まで技巧に長けた作品であり、百合に興味がないという人も一読の価値ありな作品です。


(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=柿崎 憲)