秘密の倶楽部

雨世界

1 あなたに会いたいな。

 秘密の倶楽部


 登場人物


 杉浦最愛 全寮制のつまらないお嬢様学校に通っているお嬢様


 素敵な女の子 消えてしまった女の子


 プロローグ


 あなたに会いたいな。


 あの本当に素敵な女の子を、……消してしまったのは、いったい、誰? (ノートの端っこにあったかすれた、消えかかっていた文字)


 本編


 ……君はもう、どこにもいないんだね。


 他人とは、(あるいは人とは)希望そのものである。つながり。希望。人とつながることで、人はきちんと、ようやく、自分の人生を生きることができるようになる。


 杉浦最愛の元に、秘密の招待状が届いたのは、夏の終わりのころだった。全寮制の学生寮の中で、ひそひそと生徒たちの間で語り継がれている、伝説の秘密の倶楽部への招待状。

 その秘密の倶楽部は絶対に存在するとも、あるいはただの噂であって、そんな倶楽部はどこにも存在はしていないとも、みんなはいう。(その意見はだいたい半分ずつくらいだった)

 最愛は、どちらかというと、その秘密の倶楽部の存在を信じていた。

 なぜなら、そう思っていたほうが、つまらない日常が続くだけの、規則、規則とうるさくて、決まった時間通りに、学園の規則通りに、一日がただ過ぎ去っていくだけの、自由のない、あるいは管理されることで、生まれてくる、安心と引き換えの不自由ばかりがある学園生活が、少しくらいは面白いと思えると思ったからだ。(きっと、この秘密の倶楽部を考えた先輩たちも、そう思ったのだろう。……それからもう一つだけ、個人的に倶楽部の存在を信じることができる証拠のような出来事を最愛は知っていた)


 いつものように就寝時間となり、淡いオレンジ色の電気を消して、ルームメイトにおやすみ、を言って、(うん。おやすみ、とルームメイトは言ってくれた)最愛が眠りにつこうとすると、とんとん、と部屋のドアがノックされた。


 その音を聞いて、最愛とルームメイトはすごく驚いた。

 こんな夜の時間に、生徒たちのいる全寮制の部屋のドアをノックするのは、ほぼ確実に、この学園の厳しい(もちろん、生徒たちのことを思っての厳しさだったのだけど)先生たちくらいしかいないからだった。


 最愛とルームメイトは暗闇の中で、目と目を合わせて、驚いた顔をした。(……それくらいは薄い暗闇の中でも、見ることができた。綺麗な青色の月が、夜の闇を照らしてくれていたから)


 ……なにかあったのかな? 驚いた顔をしながら口だけを動かして、ルームメイトは最愛に言った。(たぶん、私も同じような顔をしていたのだろうと思う)


 でも、いつまでもたっても誰もドアを開けたり、声をかけたりはしてこなかった。最愛とルームメイトが不審に思っていると、ドアのしたから、そっと、一枚の手紙が部屋の中に届けられた。


 それは秘密の倶楽部から送られてきた、最愛への秘密の倶楽部への参加を求める、秘密の招待状だった。


 秘密の倶楽部の掟


 倶楽部の存在を誰かに喋ってはいけない。伝えてはならない。

 倶楽部の開催時間には、どんなことがあっても、絶対に参加する。

 倶楽部を退会することはできない。

 倶楽部に参加すると、『ご褒美』がもらえる。

 倶楽部に参加する意思がない場合は、この手紙はすぐに破いて捨てること。

 倶楽部に参加する場合は、明日の零時に部屋を抜け出して、食堂にやってくること。

 ぜひ私たちの倶楽部に参加してください。


 杉浦最愛さんへ 秘密の倶楽部一同より


 秘密の招待状と書かれた手紙には、そんな文字が書いてあった。


「どうしよう? 最愛。これ、あなたの名前が書いてあるよ」

 と、一緒に薄明かりの中でどきどきとしながら、(先生たちに夜更かしをしているのがばれないように小さな明かりだけをつけていた)秘密の招待状を読んだルームメイトは言った。

 そのルームメイトの言葉に最愛は「もちろん、参加するよ。だって、この倶楽部は、……あの素敵な女の子が参加していた倶楽部だから」とにっこりと笑って、そう言った。(ルームメイトは、素敵な女の子? それって誰のこと? と言ったような顔をしていた)


 そして最愛は、秘密の倶楽部に、その秘密の招待状に書かれている案内の通りに、その日の夜に、初めて参加をした。


 ……ある一つの、『本当の目的』を心の中に隠して。(秘密にして)

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秘密の倶楽部 雨世界 @amesekai

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