エピローグ
永遠に続くように思われる大草原に、一人の男が佇んでいた。時折吹く風が、男の濃紺のマントと、白いものが混じった黒髪をなびかせた。夕日に照らされた大地を見つめるその切れ長の瞳は、これまで幾たびも人に裏切られ、傷付けられ、言語に絶する苦労をしてきたにもかかわらず、それでも人を信じ続け、前に進み続けたこの男の生き様を表すかのように、強く光り、何よりも青く澄んでいた。
男の視線の先には、たくさんの風車がその羽を大きく回していた。この場所で、この世界で初めての風力発電が実験的に行われていた。
「国王様が発案なされてから、長い年月がかかりましたが、ようやく全ての試験をパスし、近々各所へ送電される予定です。よくぞ風で発電するなどというご発案と、この風の絶えない場所をご提案してくださいました。これがあれば、国民の生活が劇的に進歩することは間違いありません。全ては、国王様のお陰です」
もう一人の男が近付いてきて、マントの男に深く頭を垂れた。マントの男は、頭を垂れている男を一瞥した。
「勘違いするな。国民が皆懸命に働いてくれているから、この国はここまできた。頭を垂れる相手は俺じゃない。それから、俺のことを『様』をつけて呼ぶな。何度言ったら分かる」
マントの男は歩き出した。もう一人の男は顔を上げ、「やっぱり国王様には敵わない」と呟いて少し笑い、あとに続いた。
止めていたバークの元に戻る途中、小さな洞窟がマントの男の視野に入った。それは人が一人横になれるほどの小さなもので、地面には背の高い雑草が生い茂っていた。
時に忘れ去られたかのような光景であったが、男の胸の深い部分に刻まれ、恐らくこれから先も決して消えることのないこの洞窟の前に、男は立ち止まった。そして、口元を緩めた。ここに置いていった傷薬を作るのに結構苦労したんだぞ…。このことは誰も知らないが、男の首には、水色に光る石の片割れが、片時も離れることなくかけられていた。
男は露程も思っていなかったが、この男は、彼の死後何十年、何百年にも渡り、この世界の人類の師として仰がれ、語り継がれることになる。ディアロス王のように深い慈悲の心を持ち、強く生きよ…と。
おわり
星降る朝 岡谷実里 @tsuchinoko1209
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