最終話「30分の夢」
「凛、凛ったら!」
懐かしい声で凛は目が覚めた。目を開けると、何かに顔を舐められ、凜は思わず小さな悲鳴を上げた。
「よかった、目が覚めて。どこか具合悪くない?」
凜が起き上がると、そこは凜の住んでいる街にある雑木林の中の小さな空き地だった。悠子が、心配そうに凜を見つめている。凛の横には、嬉しそうに尻尾を振っているペペがいた。
「あ!ペペ!」
「そうだよ、十五分経っても凜が来ないし、携帯も何故か全然繋がらないし、心配になって凜が向かった道を登ってみたら、凜がここで寝てて、その隣にペペがいたの。一体、何があったの?」
十五分…凜は、徐々にあっちの世界に迷い込む前のことを思い出してきた。周囲を見渡すと、あの封印の石も、その横に伸びていたはずの道もなかった。
「悠子は、今ここに来たの?」
「そう、今さっき来たの」
そうすると、悠子と別れてから十五分、悠子がここに来るまでに十五分かかったとして、たった三十分ほどしか経っていないのか…夢にしては、あまりにも長すぎた。というか、もしかしてあれは全部ただの夢だったの?一抹の恐怖にも似た不安が凜の頭をよぎった。
何気なく、ブレザーのポケットに手を突っ込んでみると、そこには石の片割れが入っていた。それは、どこまでも水色の澄んだ光を放っていた。それを見て、凛はため息をついた。そして、勢い良く立ち上がった。
「ごめんね、なんか夢見てたみたい。具合は全然悪くないから大丈夫。付き合ってくれて本当にありがとう。無事にペペも見つかってよかったよ」
悠子も立ち上がり、ペペを見下ろした。
「それならいいけど。それにしても、ペペはどうしてこんなところに迷い込んだんだろうね」
凜はしっかりペペのリードを握り、二人は歩き始めた。凜はペペを見つめ、小声で囁いた。
「ペペが私をあの世界に連れてってくれたんだね。ありがとう」
ペペが吠えた。
「ねぇ悠子、私、やっぱりA大第一志望で受けることにする。この状況の中でも、できる限りのことをやってみようと思って」
悠子は凜の方を振り向いた。
「それは嬉しいけど…なんか、凜、前より元気になった?一体どんな夢見てたのよ」
二人は一緒に笑った。凜は立ち止まり、もう一度、何もない雑木林の奥をじっと見つめた。そして、ポケットの中の片割れをぎゅっと握りしめた。
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