第三章 ルヴィンとアレク

第80話 ルヴィン

「ここが噂のクラン『銀の酒場』の事務所かぁ」


金色短髪のトゲトゲした髪を持つ少年、ルヴィンはとある建物の軒下に付いた看板を見上げる。


『銀の酒場』と書かれた看板を掲げるその建物は4階建てとウィンベルクの建築物の中では大きな方で、街の中心地に近い場所にあることからも持ち主が大きな資産を持っていることを伺わせた。


「話を聞いてもらえたらいいんだけど」


覚悟を決めて、扉を開ける。なんとしてもこのクランに入りたい、その一心で生まれ故郷から出てきたのだ。

なにせあの「アレク」が立ち上げたクランだ。


『成金冒険者』『最速のドロップアウター』など僻みから不名誉な二つ名もつけられていたが、1年ほど前からアレクの噂は近隣の街や村にまで轟いていた。


なにせこれまでの冒険者たちとは冒険に対する発想が違う。


ダンジョン攻略を冒険ではなく「ビジネス」として捉えるというその姿勢には、賛否あるものの価値観を変えられる者が多くいた。それまではどちらかといえば粗野で暴力的な者が多い稼業であったが、アレクの登場で資産形成のための手段としてダンジョン攻略が脚光を浴びるようになったのである。


そしてアレクたち『金の有望株ゴールドラッシュ』自体の活躍も目覚ましかった。


週末の2日のみの攻略とはとても思えないその攻略速度、とにかく無駄を省いたスタイルで突き進むアレクたちは史上最速で上級冒険者へ到達した。

もっとも年齢ではなく、ダンジョン探索日数での換算ではあるが。


この国でトップクラスの冒険者たちとも交流があり、まさに破竹の勢いであったのだが、なぜか数ヶ月前に突如『金の有望株ゴールドラッシュ』は解散した。様々な憶測を呼んだが、アレクが代表して述べた「結成当初の目的を達成したから」という理由が新聞を通じて広まった。


一つの時代の終わりとして騒がれたが、その後アレクが単独でクランを立ち上げるという情報が流れ、さらに話題を呼んだ。


個人的に繋がりがあった冒険者仲間たちを集め、20人弱のクランが立ち上がったのが2ヶ月前。

『金の有望株』のメンバーはその中にアレクだけだったが、知名度の高いアレクが立ち上げ、メンバーを募集しているという話が噂となっていた。


ルヴィンもそうした噂を聞きつけ、近隣の村からやってきた。未だダンジョンに潜ったことはなかったし両親にも反対されたが、とある事情のため、村を飛び出してアレクが立ち上げたクラン『銀の酒場』へとやってきた。


ただし何の実績もないルヴィンを迎え入れてくれるのか、その保証はまったくない。勢いにまかせてここまでやってきたが、アレクは自分をどう評価するのだろうか・・・

不安はあったが、現状を変えたい一心で、『銀の酒場』の門を叩いたのだった。


中に入ると広い空間の奥にカウンターと受付が設けられていた。カウンターには受付嬢が一人、茶色の長い髪を後ろで束ねた美しい女性だった。


「いらっしゃいませ、本日は『銀の酒場』へどのような御用でしょうか」


自分のような子供と呼べそうな人間に対しても一切の無礼がない丁重な挨拶であった。


「は、はい。今日は実は『銀の酒場』へ入れないかと思い、やってきました」


「入団希望の方ですね。畏まりました。本日はちょうどアレクが事務所におりますので、早速面接とさせて頂いてもよろしいですか?」


「えっ!? あ、はい大丈夫です!」


思いもよらず面接をしてもらえることになった。外見で断られるか、少なくとも何回も通い詰める必要があるかと思いこんでいたので、意外な対応であった。

しかもアレクといきなり会えるというのである。これはかなり運がいいんじゃないか?


ルヴィンは後に、この時の自分の浮かれっぷりを呪うのであった・・・

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